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暗転
97.ギクシャク
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こうして蒼空が意図せず2,800万円も稼いできて、支配人からも追加で1,300万円の慰謝料を貰った為、家を住み替えるよりも遥かに大金が手元に入ってきてしまった。
オークション組織で組んだ闇ローンは完済し、残債務は月52万円弱の表の銀行で組んだ住宅ローンのみとなった。
今回の住宅の売却では月々の返済額が元々20万円減る予定だったのだが、蒼空のおかげで更に16万円減り、この一連の騒動だけでも毎月36万円もローンの支払いが減る事となった。
俺の手取り給与が80万円なのに対し、これからは月々28万円も余裕が出来る事になる。
住宅ローンの方にはボーナス払いの100万円の繰り上げ返済が無いから、その金額をこれからは丸々生活費に使える。
つまり俺がもう一切バイトをしなくても、充分贅沢をして二人で暮らせる様になったのだ。
本当に良かった。危機を脱した。
金欠だったあの頃。蒼空が寝静まった深夜。
もう最後の手段としてアルファ風俗に電話すべきか?と支配人から貰った名刺を見ながら何度迷っただろうか。そうならなくて本当に良かった。
俺たちはもうこれから先ずっと金欠に怯える事無く、二人だけの世界を楽しめる。
…そのはずだった。
しかし、身売りをして過度に傷つけられたという蒼空のトラウマとその傷を抉り無理やり番にしてしまった俺の罪悪感は、俺たちの関係を前の様に『桜満開のこの世の春』には戻してくれなかった。
一度散った桜は二度と元には戻らなかった。
俺は土日の資材運びの仕事を辞められなかった。変態爺の弱みを握る為に探偵事務所への支払いが必要だというのはただの言い訳だ。
蒼空はあれだけの暴力を受けて傷ついてまで必死に俺の元へ帰ってきてくれたのに、俺は十字台で更に蒼空のトラウマをえぐる様な真似をして、全身に噛み痕をつけるという暴力を振るい、更に怖がる蒼空を取り押さえて無理やり番にしてしまった。
俺がすべきは、傷ついた蒼空を抱きしめて慰める事だったはずなのに。自分の感情を抑えきれずに剰え更に加害するなんて。
蒼空が時々悪夢を見て飛び起きるのも、寝ている時に魘されるのも、もしかしたらその悪夢は蒼空を凌辱した変態爺や客らではなく、俺が蒼空に行った事に対する悪夢なのではないか。と考えてしまう位、俺は自分が許せなかったし、俺自身が蒼空に与えた影響を心配していた。
もし俺なら、名も知らぬ相手より自分の安全基地だと思っていた人から向けられた害意の方がより堪える。
本当は俺が誰よりも一番蒼空を傷つけてしまったのではないか。そう考えてしまう事をやめられない。
一番辛いのは蒼空だとは当然解っている。
それなのに蒼空を守れなかったどころか更に傷つけてしまった俺の方も、蒼空の全身に巻いた包帯や大きな絆創膏を見るたびに自分の罪を認識させられ、蒼空の傍に居るだけで辛かった。
不器用な俺は、自分が蒼空にしてしまった数々の失敗に対する罪悪感から、家に帰ってきても蒼空とどう接していいのか全く解らなくなってしまっていた。
だから、一番やってはいけない事だとは解りつつも、蒼空に会わせる顔がなくて、極力家を空ける様になっていた。
あの時は確かに気持ちを確認し合って、お互い通じ合えたと思ったのに。
あの防犯カメラの映像を観てしまった時、傷ついた蒼空を自分が更に追い詰めてしまった事を知ってしまった。
するとあれは自分を慰めるために蒼空がついてくれた優しい嘘なのではという気持ちが日に日にむくむくと膨れ上がって、つい疑心暗鬼になってしまうのである。
蒼空が言った言葉は殆ど全て覚えている。あの冬の日に、「僕、無理やり番にする人なんて、嫌いになる!」と言った蒼空の言葉も、俺は当然忘れていない。だから時々、あの時の記憶と今の状態を混同してしまう。
その言葉が、番になった後に蒼空に言われた言葉かの様に錯覚してしまうのだ。
オークション組織で組んだ闇ローンは完済し、残債務は月52万円弱の表の銀行で組んだ住宅ローンのみとなった。
今回の住宅の売却では月々の返済額が元々20万円減る予定だったのだが、蒼空のおかげで更に16万円減り、この一連の騒動だけでも毎月36万円もローンの支払いが減る事となった。
俺の手取り給与が80万円なのに対し、これからは月々28万円も余裕が出来る事になる。
住宅ローンの方にはボーナス払いの100万円の繰り上げ返済が無いから、その金額をこれからは丸々生活費に使える。
つまり俺がもう一切バイトをしなくても、充分贅沢をして二人で暮らせる様になったのだ。
本当に良かった。危機を脱した。
金欠だったあの頃。蒼空が寝静まった深夜。
もう最後の手段としてアルファ風俗に電話すべきか?と支配人から貰った名刺を見ながら何度迷っただろうか。そうならなくて本当に良かった。
俺たちはもうこれから先ずっと金欠に怯える事無く、二人だけの世界を楽しめる。
…そのはずだった。
しかし、身売りをして過度に傷つけられたという蒼空のトラウマとその傷を抉り無理やり番にしてしまった俺の罪悪感は、俺たちの関係を前の様に『桜満開のこの世の春』には戻してくれなかった。
一度散った桜は二度と元には戻らなかった。
俺は土日の資材運びの仕事を辞められなかった。変態爺の弱みを握る為に探偵事務所への支払いが必要だというのはただの言い訳だ。
蒼空はあれだけの暴力を受けて傷ついてまで必死に俺の元へ帰ってきてくれたのに、俺は十字台で更に蒼空のトラウマをえぐる様な真似をして、全身に噛み痕をつけるという暴力を振るい、更に怖がる蒼空を取り押さえて無理やり番にしてしまった。
俺がすべきは、傷ついた蒼空を抱きしめて慰める事だったはずなのに。自分の感情を抑えきれずに剰え更に加害するなんて。
蒼空が時々悪夢を見て飛び起きるのも、寝ている時に魘されるのも、もしかしたらその悪夢は蒼空を凌辱した変態爺や客らではなく、俺が蒼空に行った事に対する悪夢なのではないか。と考えてしまう位、俺は自分が許せなかったし、俺自身が蒼空に与えた影響を心配していた。
もし俺なら、名も知らぬ相手より自分の安全基地だと思っていた人から向けられた害意の方がより堪える。
本当は俺が誰よりも一番蒼空を傷つけてしまったのではないか。そう考えてしまう事をやめられない。
一番辛いのは蒼空だとは当然解っている。
それなのに蒼空を守れなかったどころか更に傷つけてしまった俺の方も、蒼空の全身に巻いた包帯や大きな絆創膏を見るたびに自分の罪を認識させられ、蒼空の傍に居るだけで辛かった。
不器用な俺は、自分が蒼空にしてしまった数々の失敗に対する罪悪感から、家に帰ってきても蒼空とどう接していいのか全く解らなくなってしまっていた。
だから、一番やってはいけない事だとは解りつつも、蒼空に会わせる顔がなくて、極力家を空ける様になっていた。
あの時は確かに気持ちを確認し合って、お互い通じ合えたと思ったのに。
あの防犯カメラの映像を観てしまった時、傷ついた蒼空を自分が更に追い詰めてしまった事を知ってしまった。
するとあれは自分を慰めるために蒼空がついてくれた優しい嘘なのではという気持ちが日に日にむくむくと膨れ上がって、つい疑心暗鬼になってしまうのである。
蒼空が言った言葉は殆ど全て覚えている。あの冬の日に、「僕、無理やり番にする人なんて、嫌いになる!」と言った蒼空の言葉も、俺は当然忘れていない。だから時々、あの時の記憶と今の状態を混同してしまう。
その言葉が、番になった後に蒼空に言われた言葉かの様に錯覚してしまうのだ。
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