【完結】もう一度君に蒼空を見せたい〜奴隷オークションで高額な処女地下オメガを買ってしまったので借金返済に追われています〜

暗転

96．監視カメラの映像

　一週間後。俺の家のポストに、一つの小包が投函されていた。差出人は、「モールス　支配人」。
　間違いない、オークション組織からの連絡だ。

　俺も最近不動産売買時に知ったのだが、彼らの通り名はモールスというらしい。モールス信号（Morse）の方ではなく、モグラの方のMoles。日本全国の権力構造に潜り込み、地下アングラ社会に巣喰ろう地下オークションだからだ。融資契約時の名前はまた別だったから、てっきりそっちが正式名称なのかと思っていたのだが、あれはただのスケープゴートの名前だったのかもしれない。
　一般的に通称としてそう呼ばれているだけではなく、彼ら自身もモールスを名乗っているとは知らなかった。


　俺は、心臓をぎゅっと悪魔に鷲掴みにされた気分になり、蒼空にはバレない様に隠して二階の部屋に行き、急いで開封して中身を確かめた。中には一通の詫び状と一枚のCD-ROM。それから布に包まれた瓶詰めが二つ。


　詫び状には、変態爺に買収されたモールスの従業員らが監視カメラの映像や配達記録を付け替えており、発覚が遅れた事への謝罪と、手引きした従業員らのその後が書かれていた。
　査定の際に蒼空を担当した従業員と監視カメラの映像を編集して悪事が発覚しない様にしていた従業員は落とし前をつけさせたあと、地下ベータとして売られたらしい。
　なんでも、地下ベータや地下アルファを集めて痛みつけるのが好きな好事家が居るらしく、その人に買われたそうだ。


　その落とし前はお詫びとして同封しているという事だったが、そんな物騒なものは要らない。貰っても困る。そんなものを一体どうしろと言うんだ。部屋にでも飾れと？
　裏社会の人が考える事はよくわからないな。

　俺は布も取らずにすぐにゴミ箱に投げ捨てた。投げ捨てた後で瓶を分別せずに捨てることに一瞬良心が傷んだが、瓶の中から人体の一部を取り出す勇気はない。申し訳ないが、そのままゴミ収集車に持って行ってもらった。


　また、謝罪文には蒼空が変態爺と変態爺が手引きした五人の若者に甚振られ、それから更に四人の客を取っていた事が記載されていた。

　俺は蒼空から変態爺と調教師以外の男が蒼空に触れた事は聞いていない。
　俺が変態爺の事を聞いただけで既にカンカンに怒ってしまったから、その後の事はきっと蒼空が話したくても怖くて話せなかったのかもしれないと密かに反省した。


　そして、蒼空が受けた凌辱の詳細は別紙に細かく記載されているらしい。
　モールスに対する俺の怒りは既に天辺を超えていて、蒼空が凌辱されている映像を観て、更にそれを紙に書き起こした男がいる事にすら訳が解らない怒りを覚えた。恐らくモールスの人間が何をしても俺は気に触るんだと思う。

　そして、CD-ROMは予想通り蒼空が滞在していた部屋の監視カメラの映像を復元したものだった。
　映像は刺激が強いから、内容を詫び状、別紙、CD-ROMと三段階に分けて、俺が自分の許容範囲内で知る事が出来る様にと配慮して開示してくれた様だ。


　しかしそんな気遣いは不要だ。俺は蒼空の身に起こったことを徹頭徹尾少しも取りこぼさずに知りたい。だから包み隠さず教えろと支配人にも伝えた。
　当然、詳細が書かれた別紙を隅から隅まで読んで、同封されていたCD-ROMも端から端まで観た。

　監視カメラの映像の中の蒼空は、俺の想像を遥かに上回る凌辱と、拷問ともいえるSM行為に遭っていた。そして俺は、蒼空が何故あんなにも十字台に拘束されるのを嫌がったのかの理由を知った。
　今更遅すぎる。悔やんでも悔やみきれない。
　

　罪のない蒼空をここまで苛め抜いた変態爺を俺は絶対に赦さない。
　幸い、お金には余裕が出来た。俺は探偵事務所を使って、変態爺の情報を集める事にした。何か復讐できることが無いか探し出すために。


　蒼空の唯一の保護者である俺が、犯罪を犯して警察に捕まるわけにはいかない。そうなれば、蒼空を待っているのは餓死か、粛清か、再出品かだ。変態爺をぶん殴ってやりたいが、そんなことは出来ない。
　だから静かに何か弱みを探す。この復讐は絶対にやり遂げてみせるぞと気合を新たにした。


　御詫状の締めくくりには、俺への精神的慰謝料としてモールスで締結した闇ローンの残額を全て白紙にする旨が書かれていた。残代金は確か一千三百万円程か。
　俺はその提案にすら、腹が立つ。
　慰謝料なんてなんの役に立つんだ。

　俺と蒼空の幸せな日々を、甘く優しく番う事への憧憬を返してくれ。

　この引越しが終わったら、金欠の危機からも脱したし、やっと番になれるかもしれないと期待していたのに。