【完結】もう一度君に蒼空を見せたい〜奴隷オークションで高額な処女地下オメガを買ってしまったので借金返済に追われています〜

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親鳥たちの物語

150. 予想外の闖入者(櫂視点)

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「櫂、櫂、もっと!もっとぉ!」

 恐る恐る扉を開けて俺が見たものは、最愛の妻と大学時代の自分の顔をした男が睦み合っている姿だった。


 凛空…生きていて良かった。
 でも待ってくれ。ソイツは俺じゃない。


 空港で引き剥がされた時の凛空の姿は出会った頃から殆ど変わっていなかった。凛空は五十を過ぎても尚二十代の頃とほぼ変わらない容姿を保ち続けており、若々しかった。

 一方凛空と出会った頃の俺はまだ三十代前半で、恐らく還暦を迎えてしまった今の俺よりも凛空と睦み合っているその男の方がよりよく似ている。

 二人を見ていると、まるで俺たちの新婚蜜月の頃に時間が巻き戻ったかの様だった。
 ただ一点を除いて。


 凛空は右目に眼帯をしていた。あの二回目の自殺未遂の時の後遺症だろう。俺はその時の動画を見ている。


 視力が欠けたせいで、その男の事を俺と見間違えているのだろうか。

 よく見てくれ。ソイツは俺じゃない。

 オメガなら目が見えずとも、フェロモンで解るだろ?ソイツはベータで、お前が求めるツガイフェロモンは発していないはずだ。


「凛空…。」

 と、ただ愛しいツガイの名前だけが口から零れ落ちた。


 虚ろだった凛空の瞳と視線が交差する。しかし凛空は、何も見えなかったかの様に相変わらず偽物に夢中になっている。


「櫂、櫂。しゅごい!これ、好き。そう、ここ。もっと!」


 俺と二十五年間も夫婦生活を過ごしても尚、恥じらいが強かった妻の口から出ているとは思えない言葉の羅列に、俺は空いた口が塞がらなかった。
 あの似非運命とやらとの映像で知っていた。知っていたが、映像で見るのと目の前で発せられるのとでは、インパクトが段違いだった。


 待て、ソイツは偽物なんだ。俺はここだ!!

 俺は勢いよく部屋の中に踏み入って偽物を引き剥がし、ベッドの下に落とした。
 やせ細っていたはずの男の身体は、会わなかったこの十ヶ月間でだいぶ逞しくなっていた。凛空にアルファだと誤認させる位には。
 長い地下室生活で筋肉が落ちた上に、更に一週間の絶食で肉まで削げてしまった俺よりも、むしろガタイが良い位かもしれない。


「キャー、櫂、櫂。大丈夫か?」

 と言って凛空が駆け寄るのは、俺ではなく偽物の所だった。
 偽物を覗き込む為にしゃがみ込んだ凛空がこっちに向けている尻には、真っ赤なアナルローズが咲いている。


 凛空…凛空…俺が誰にも触れられない様に大事に大事に囲っていた凛空。
 繊細な飴細工を崩さない様に、少しも傷をつけない様にと細心の注意を払って、俺が持ちうる限り全ての優しさで触れていた凛空。

 俺が不甲斐ないばかりに、あんな風に荒くれ者達に好き勝手されてボロボロになってしまって…。
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