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蒼空の日々
180.前夜(櫂視点)
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蒼空の部屋のカレンダーには、自作の日付カウンターがある。俺は、蒼空が一日一日と正吾と会える日を待っているのを知っている。それなのに、いつでも接近禁止命令を解除出来ると言い出せない父を許してくれ。
その日付カウンターの数字が、今日はとうとう「0001」となってしまった。俺たち家族が過ごす最後の夜だ。
蒼空はもう何日も前から荷物を準備していて、持っていきたい物を段ボールに詰め込んでいた。
まずは身一つで正吾に会いに家まで行くつもりらしい。そして、もし正吾がまだ自分の事を好きだったら、俺に電話をくれて、俺が車で正吾の家まで段ボールを運ぶ手はずとなっている。
正吾。頼むぞ。俺の蒼空がここまでお前の事を想ってるんだ。絶対に蒼空の帰りを待っていてくれよ??
まぁ、調べさせたところによると、今は正吾が懇意にしている相手は居ないみたいだ。俺は知っている。十中八九どころか十中十は、もうこの家に蒼空が戻って来る事はない。
だから今日という日を、俺たち親は寂しさ半分、浮かれている蒼空につられて嬉しさ半分で過ごした。いや。違う。それは嘘だな。ちょっと父さんカッコつけてしまった。蒼空が居なくなる寂しさ九割、蒼空の恋が実る嬉しさ一割だな。
三人で一緒に台所に立ち、軽く摘みながら食事を作る。もう味見し過ぎてお腹いっぱいだね。なんて笑い合いながら夕飯を食す。
そして、最後はどちらからともなく無言で抱き締め合った。俺たち親の寂しさを、蒼空はちゃんと解ってくれている。
「大丈夫だよ。また正吾さんと一緒に、休みの日は二人に会いに来るから。
安心してよ。別に会えなくなっちゃう訳じゃないし。電車で一時間位の距離だよ?それに、車で来ればもっと近いし。」
俺たちの寂寥を察して、蒼空が慰めてくれる。
「そうだな。また週に一日は会いに来てくれよ。オメガ同士の約束だぞ。」
凛空が寂しそうに言う。
「うん!母さん解ったよ。多分正吾さんも良いって言うと思うよ!大丈夫!!
だと...思う。」
まだアルファの執着を知らない蒼空は、楽観視している様だ。
「まぁ、もし正吾とか言う奴が俺の蒼空を囲って、家から出さなかったらさ。俺たちの方から会いに行っちゃうからな。流石に居留守は使うなよ?」
凛空が目を細めて顔をちょっと背けて、拗ねている顔をして斜め下から蒼空を睨みつけるふりをしている。なにその顔。可愛い。少し顔を背けた上目遣いにしかなっていない。
「もう…母さんったら心配性なんだから。大丈夫だよ。一目見たら解るって、凄い誠実で良い人なんだからさ。」
「へぇ~誠実で良い人ねぇ。
誠実で良い人は普通、奴隷オークションでオメガ買ったりはしないだろ?」
凛空がますます目を細めて疑り深い顔をしている。可愛い。
「いやだからそれは、婚約者を運命の番に取られたり、色々あったんだってば。前話したじゃん。とにかく大丈夫だからさ。」
それでも凛空は心配な様だ。顔に心配ですと書いてある。
まぁ、その気持ちは解る。正吾に会った事が無ければ、俺でもそう思っただろう。
はぁ。毎日見れたこのやり取りも、今日で見納めか。寂しいな。
今夜は家族三人、抱きしめ合って寝た。
翌朝。
「一緒に行って、正吾ってやつがどんな奴なのか見極めてやる!」と凛空は朝から意気込んでいた。俺は二人の再会の邪魔になるからと必死に止めた。が、車で送ってくんなら俺も絶対に行くと凛空は聞かない。とうとう勝手に車に乗り込んでしまった。
なんとか後部座席に移動して貰って、凛空には悪いが中から開けられない様に、チャイルドロックを掛けさせてもらった。
俺は凛空が結構気が強い事を知っている。蒼空の為なら、大柄なアルファに掴みかかる事すら出来るだろう。
二人の再会に水を差されちゃ堪らない。
その日付カウンターの数字が、今日はとうとう「0001」となってしまった。俺たち家族が過ごす最後の夜だ。
蒼空はもう何日も前から荷物を準備していて、持っていきたい物を段ボールに詰め込んでいた。
まずは身一つで正吾に会いに家まで行くつもりらしい。そして、もし正吾がまだ自分の事を好きだったら、俺に電話をくれて、俺が車で正吾の家まで段ボールを運ぶ手はずとなっている。
正吾。頼むぞ。俺の蒼空がここまでお前の事を想ってるんだ。絶対に蒼空の帰りを待っていてくれよ??
まぁ、調べさせたところによると、今は正吾が懇意にしている相手は居ないみたいだ。俺は知っている。十中八九どころか十中十は、もうこの家に蒼空が戻って来る事はない。
だから今日という日を、俺たち親は寂しさ半分、浮かれている蒼空につられて嬉しさ半分で過ごした。いや。違う。それは嘘だな。ちょっと父さんカッコつけてしまった。蒼空が居なくなる寂しさ九割、蒼空の恋が実る嬉しさ一割だな。
三人で一緒に台所に立ち、軽く摘みながら食事を作る。もう味見し過ぎてお腹いっぱいだね。なんて笑い合いながら夕飯を食す。
そして、最後はどちらからともなく無言で抱き締め合った。俺たち親の寂しさを、蒼空はちゃんと解ってくれている。
「大丈夫だよ。また正吾さんと一緒に、休みの日は二人に会いに来るから。
安心してよ。別に会えなくなっちゃう訳じゃないし。電車で一時間位の距離だよ?それに、車で来ればもっと近いし。」
俺たちの寂寥を察して、蒼空が慰めてくれる。
「そうだな。また週に一日は会いに来てくれよ。オメガ同士の約束だぞ。」
凛空が寂しそうに言う。
「うん!母さん解ったよ。多分正吾さんも良いって言うと思うよ!大丈夫!!
だと...思う。」
まだアルファの執着を知らない蒼空は、楽観視している様だ。
「まぁ、もし正吾とか言う奴が俺の蒼空を囲って、家から出さなかったらさ。俺たちの方から会いに行っちゃうからな。流石に居留守は使うなよ?」
凛空が目を細めて顔をちょっと背けて、拗ねている顔をして斜め下から蒼空を睨みつけるふりをしている。なにその顔。可愛い。少し顔を背けた上目遣いにしかなっていない。
「もう…母さんったら心配性なんだから。大丈夫だよ。一目見たら解るって、凄い誠実で良い人なんだからさ。」
「へぇ~誠実で良い人ねぇ。
誠実で良い人は普通、奴隷オークションでオメガ買ったりはしないだろ?」
凛空がますます目を細めて疑り深い顔をしている。可愛い。
「いやだからそれは、婚約者を運命の番に取られたり、色々あったんだってば。前話したじゃん。とにかく大丈夫だからさ。」
それでも凛空は心配な様だ。顔に心配ですと書いてある。
まぁ、その気持ちは解る。正吾に会った事が無ければ、俺でもそう思っただろう。
はぁ。毎日見れたこのやり取りも、今日で見納めか。寂しいな。
今夜は家族三人、抱きしめ合って寝た。
翌朝。
「一緒に行って、正吾ってやつがどんな奴なのか見極めてやる!」と凛空は朝から意気込んでいた。俺は二人の再会の邪魔になるからと必死に止めた。が、車で送ってくんなら俺も絶対に行くと凛空は聞かない。とうとう勝手に車に乗り込んでしまった。
なんとか後部座席に移動して貰って、凛空には悪いが中から開けられない様に、チャイルドロックを掛けさせてもらった。
俺は凛空が結構気が強い事を知っている。蒼空の為なら、大柄なアルファに掴みかかる事すら出来るだろう。
二人の再会に水を差されちゃ堪らない。
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