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ジャコブから聞くに、どうやらボクは、ライランド様が南の大陸から秘密裏に連れ帰った愛人という事になっているらしい。
船室に隠されていて、誰にも会わせないだとか、ボクに見惚れた船員を部屋から追い出す時に投げ捨てたから扉に穴が空いたとか、なるほど尾ビレ背ビレどころかジェット燃料がついている飛躍ぶりである。
ほうほう。見るだけでも投げ捨てられるのに、そんな大事な羊の君に、怪我をさせてしまったら確かに大変だ。誰もボクに力仕事を手伝わせてくれない訳である。
それは全くの誤解である事を話したが、どうやらジャコブは納得いかないらしい。
曰く、あの氷結のライランド様が、誰かを側におくのは相当珍しいらしい。
副官のロムニーでさえ、普通は同じ部屋に待機させておくものだが、執務室を分けるくらい一人がお好きらしい。
副官って言っちゃったよこの人。最後の寄港地も過ぎたし、後は国に帰るだけ。もうこの船の正体を隠すつもりも無いようだ。
う~ん。一人が好き…かなぁ?本ばかり読んで食事も睡眠も疎かになってしまうボクを見かねて、食事を口に運んでくれたり、もう寝ろとランプを取り上げたり、ものすっごく構ってくれたけどなぁ。
本のキリが悪い時なんか、ランプを取り上げられると困るから、せめてあともう一行と、そのままライランド様を追いかけていって、ライランド様の部屋で羽交い締めになりながら寝かしつけられたりした事もあったっけ。ライランド様が寝ている間にボクがランプを盗んでまた本を読み始めない様にと。あれ?あったというより、それがほぼ毎日だっけ?本を読むのに夢中で、余り覚えてないや。
それ位、面倒見が良かったけどなぁ。
もし人嫌いだったら、そんな事するか?
ボクがそう言うと、ジャコブは口をぽっかり開けて、
「毎日添い寝しているのに結婚するまで手を出さないライランド様、マジリスペクトっす。」
と訳のわからない事を言っていた。
「じゃあ、国に着いたら僕の家ではなく、ライランド様のお屋敷でお世話になるって事でいいんっすよね?」
と聞かれたが、ライランド様とろくな会話をした記憶がなかったので、ボクの処遇が結局どうなったのか、ボクは解らない。
大事な事だから、忘れないうちにライランド様に聞く事にした。
「もう戻ったのか。早いな。ちゃんと日は浴びたのか。」
あぁ、すっかり忘れていた。でも、日を浴びるよりも、北の国についてからの僕の処遇の方が大事だ。
「あの…ライランド様?」
「お。キミから話しかけてくるのは珍しいな。なんだ。」
「あそこの本棚の本って、国についたらどこに運ばれるんですか?」
「そりゃあ…俺の書斎だが?」
「じゃあ、ボクをライランド様のお家に住まわせて下さい!下働きでも、羊花魁でも、なんでもやりますから!」
「羊花魁とはなんだ…また訳のわからぬ事を。うちは置き屋じゃないんだから、花魁はいらん。
だいたい、あんなに本しか読まない生活を送っていたのに、キミは本の誘惑に勝って、俺のきゅ…ゴホン。屋敷で働けるのか?」
まるでボクが無断欠勤しそうな言い草である。凄く不満だ。
「任せて下さい!今はちょっと堕落してしまっていますけど、こう見えてもボクは365連勤した働き者ですよ!
掃除でも、じゃがいもの皮剥きでも、夜のお供でも、なんでもします!」
「夜の…。まぁ、なかなか良い抱き枕だった。普段は余り寝られないんだが、キミと一緒に寝ると何故かよく寝れたな。」
「じゃあ、ボクの仕事は夜のお供でいいですか?」
本を読むのを全く邪魔しない、なんていい仕事なんだろう!ちゃんとライランド様の役に立てる上に、本も好きなだけ読める。ボクは大喜びだった。
「あ……あぁ。」
少し気圧されている様に見えたが、ライランド様も承諾してくれた事だし、急いでジャコブに言いに行かなくては。
「ジャコブ!いたいた!
ボク、お国に着いたら、ライランド様のお屋敷で、夜のお供をするのが仕事になったよ!」
一刻も早くジャコブに伝えて早く本を読みたくて、遠くからそうジャコブに呼びかけたら、ジャコブがダッシュで近づいてボクの口を塞いだ。
見ると、周りの肉食獣人達がザワザワしている。
おぉ…今までじっくり見る余裕が無かったが、見事に肉食獣人だらけである。
ボクの仮説は確心に変わる。ボクが住んでいた国にも、肉食獣人はそれなりに居たが、それでもここの様に9割以上が肉食獣だなんて事は無かった。
9割以上が肉食獣人の国。それは、数ある北の国の中でも、かの北の国に他ならない。今、草食獣人がメインの国を侵略していて、世界的な経済制裁を受けている国だ。
それ故に、船籍を誤魔化してあの港に泊まっていたと。そして大事な積荷とは恐らく……っとこれ以上深掘りをするのはやめよう。
ライランド様のお屋敷で一生本を読んで過ごす予定のボクには、もう関係のない事だ。
「ハッハッハッハ。氷結の殿下にも、とうとう春が来たな。」
ロムニーの声が聞こえた気がするが、ボクはジャコブの逞しい腕で運ばれてしまっていて、声の出どころを辿ることはできなかった。
船室に隠されていて、誰にも会わせないだとか、ボクに見惚れた船員を部屋から追い出す時に投げ捨てたから扉に穴が空いたとか、なるほど尾ビレ背ビレどころかジェット燃料がついている飛躍ぶりである。
ほうほう。見るだけでも投げ捨てられるのに、そんな大事な羊の君に、怪我をさせてしまったら確かに大変だ。誰もボクに力仕事を手伝わせてくれない訳である。
それは全くの誤解である事を話したが、どうやらジャコブは納得いかないらしい。
曰く、あの氷結のライランド様が、誰かを側におくのは相当珍しいらしい。
副官のロムニーでさえ、普通は同じ部屋に待機させておくものだが、執務室を分けるくらい一人がお好きらしい。
副官って言っちゃったよこの人。最後の寄港地も過ぎたし、後は国に帰るだけ。もうこの船の正体を隠すつもりも無いようだ。
う~ん。一人が好き…かなぁ?本ばかり読んで食事も睡眠も疎かになってしまうボクを見かねて、食事を口に運んでくれたり、もう寝ろとランプを取り上げたり、ものすっごく構ってくれたけどなぁ。
本のキリが悪い時なんか、ランプを取り上げられると困るから、せめてあともう一行と、そのままライランド様を追いかけていって、ライランド様の部屋で羽交い締めになりながら寝かしつけられたりした事もあったっけ。ライランド様が寝ている間にボクがランプを盗んでまた本を読み始めない様にと。あれ?あったというより、それがほぼ毎日だっけ?本を読むのに夢中で、余り覚えてないや。
それ位、面倒見が良かったけどなぁ。
もし人嫌いだったら、そんな事するか?
ボクがそう言うと、ジャコブは口をぽっかり開けて、
「毎日添い寝しているのに結婚するまで手を出さないライランド様、マジリスペクトっす。」
と訳のわからない事を言っていた。
「じゃあ、国に着いたら僕の家ではなく、ライランド様のお屋敷でお世話になるって事でいいんっすよね?」
と聞かれたが、ライランド様とろくな会話をした記憶がなかったので、ボクの処遇が結局どうなったのか、ボクは解らない。
大事な事だから、忘れないうちにライランド様に聞く事にした。
「もう戻ったのか。早いな。ちゃんと日は浴びたのか。」
あぁ、すっかり忘れていた。でも、日を浴びるよりも、北の国についてからの僕の処遇の方が大事だ。
「あの…ライランド様?」
「お。キミから話しかけてくるのは珍しいな。なんだ。」
「あそこの本棚の本って、国についたらどこに運ばれるんですか?」
「そりゃあ…俺の書斎だが?」
「じゃあ、ボクをライランド様のお家に住まわせて下さい!下働きでも、羊花魁でも、なんでもやりますから!」
「羊花魁とはなんだ…また訳のわからぬ事を。うちは置き屋じゃないんだから、花魁はいらん。
だいたい、あんなに本しか読まない生活を送っていたのに、キミは本の誘惑に勝って、俺のきゅ…ゴホン。屋敷で働けるのか?」
まるでボクが無断欠勤しそうな言い草である。凄く不満だ。
「任せて下さい!今はちょっと堕落してしまっていますけど、こう見えてもボクは365連勤した働き者ですよ!
掃除でも、じゃがいもの皮剥きでも、夜のお供でも、なんでもします!」
「夜の…。まぁ、なかなか良い抱き枕だった。普段は余り寝られないんだが、キミと一緒に寝ると何故かよく寝れたな。」
「じゃあ、ボクの仕事は夜のお供でいいですか?」
本を読むのを全く邪魔しない、なんていい仕事なんだろう!ちゃんとライランド様の役に立てる上に、本も好きなだけ読める。ボクは大喜びだった。
「あ……あぁ。」
少し気圧されている様に見えたが、ライランド様も承諾してくれた事だし、急いでジャコブに言いに行かなくては。
「ジャコブ!いたいた!
ボク、お国に着いたら、ライランド様のお屋敷で、夜のお供をするのが仕事になったよ!」
一刻も早くジャコブに伝えて早く本を読みたくて、遠くからそうジャコブに呼びかけたら、ジャコブがダッシュで近づいてボクの口を塞いだ。
見ると、周りの肉食獣人達がザワザワしている。
おぉ…今までじっくり見る余裕が無かったが、見事に肉食獣人だらけである。
ボクの仮説は確心に変わる。ボクが住んでいた国にも、肉食獣人はそれなりに居たが、それでもここの様に9割以上が肉食獣だなんて事は無かった。
9割以上が肉食獣人の国。それは、数ある北の国の中でも、かの北の国に他ならない。今、草食獣人がメインの国を侵略していて、世界的な経済制裁を受けている国だ。
それ故に、船籍を誤魔化してあの港に泊まっていたと。そして大事な積荷とは恐らく……っとこれ以上深掘りをするのはやめよう。
ライランド様のお屋敷で一生本を読んで過ごす予定のボクには、もう関係のない事だ。
「ハッハッハッハ。氷結の殿下にも、とうとう春が来たな。」
ロムニーの声が聞こえた気がするが、ボクはジャコブの逞しい腕で運ばれてしまっていて、声の出どころを辿ることはできなかった。
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