【完結】牧場で羊になりきっていたら、氷結の貴公子に夜のお供を命じられました

夜曲

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北の国に着いたボク達を出迎えたのは、豪華な馬車だった。なにやらものすっごい彫刻が施してあって金ピカで、近づくのも怖い程だ。


「ライランド殿下、無事にお戻りになられてなによりでございます。」

ものすっごく身分が高そうな貴族達が、膝をついて出迎えてくれた。
船から降りた達も、一斉に跪いて、頭を下げている。

唐突な事に、反応が遅れてしまったボクだけがオロオロとした後、腰を抜かして地面にペタリと座り込む形になってしまった。

殿下!?まさかのライランド殿だった……。

どうしよう…ボク、敵国の殿下の夜のお供になってしまった…。貴族だとは思っていたけど、せいぜい子爵、いや伯爵までかなと思っていたら、まさかの殿下とは……。


「大丈夫か?」

想定外の事態に、腰を抜かしてしまったボクを、ライランド殿下はそのしなやかで逞しい腕で、優しく支え起こしてくれた。

皆、ボクが何者か気になっているだろうに、ライランド様に聞くことさえしない。いかなる行動も咎められない絶対的な権力を持っているという事実に、ボクはクラクラとしそうだった。

ボクはそのままライランド様に半ば抱えられる様にして、近づく事すら怖い豪華すぎる馬車に、載せられてしまった。

降りる時には絶対に足を滑らせない様にしないと。この装飾が少し欠けただけでも、ボクには到底弁償出来そうにない。



やがて到着したライランド様のお屋敷は……。当然、お城だった。

“この国は天然の大理石の産地で、百人力の肉食獣人達の豊富な労働力があることから、巨大な白亜の石造りの城が王都の見どころである。”
ここに来るまでに、北の国関連の本を沢山読んでいて良かった。でも、まさか自分が今から住む所にこの知識が役立つとは思わなかった。


ボクが口をぽっかり開けて一向に降りる気配がないので、先に降りたライランド様がボクを馬車から抱き上げて降ろしてくれる。

「俺の書斎で待っていてくれ。父王に帰還の報告をしたら、すぐに行く。」

ボクは、緊張で声が出なかったので、千切れそうになる程に首を縦に振った。


白亜の城の中は、どこもかしこも金ピカで、天井という天井すべてに絵が描いてあるので、首が痛くなるほど上を見上げて歩いた。


そして、通された書斎。
書斎…書斎とはなんだろうか。
ボクは書斎の概念を再度自分に問うた。

ここは、舞踏会が開かれそうなホールだ。建物3階分はあろうかという高い天井いっぱいにびっしりと本棚と本が敷き詰められている。これは、大きな修道院にあると噂の図書館とやらではないだろうか。

これが、個人の書斎…!?


そして、ここにも過剰なほどの装飾、装飾、装飾。
ボクが本や装飾の圧に圧倒されていると、ボクの専属お世話係を名乗る少年が現れた。

「羊のきみ様、ナディーと申します。どうか必要なものがあればなんでも私めにお申し付けください。」

どうやら王子様ともなると、ただの抱き枕にさえ専属のお世話係が付くらしい。
王族の世界、予測不能すぎる…。


「はっはははハイ!よろしくお願いします。」

三角耳の上側にぴょこんと飛び出た毛が可愛らしいオオヤマネコ獣人の美貌の少年に、逆にボクの方が緊張してしまう。

やがて、ライランド様の“書斎”に、今までなかった衝立、寛げる寝椅子、洗面セットからお召し替え用の服までが、屈強な肉食獣人達によって、ずらりずらりと運ばれてきた。
どうやら、ライランド様は本気でこの”書斎“をボクの私室にしてくれるつもりらしい。

これは…破格な待遇過ぎないか?逆にボクは何をお返しすれば良いんだ?ボクの貞操?
いや、ボクごときの平民草食獣人の貞操が、与えられたものに見合うほどの価値を持つとはこれっっっぽちも思えない。

でも、重要な軍事情報とかも、何一つ持っていないぞ。ホントに…どうお返しをすれば……。

ボクはもう半泣きで、今すぐにでも船のあの小部屋に逃げ帰りたかった。

いくら貴族でも書斎っていうのは、せいぜいあの部屋の2倍3倍くらいだと思っていたんだ…。
これは…これは…想定外過ぎる…。


小心者のボクには、運び来まれた豪華絢爛な品を使ったり、新品の服に袖を通したり出来るわけもなく…。

「いえ。ボクはここで充分なので!本当に!そんな高そうなもの使えないですから!」
と、ハシゴの上に座ってただただひたすらに、ライランド様の到着を待つことしか出来なかった。



梯子の周りには、草食動物が物珍しいのか肉食獣人の侍従がずらり。

「いえいえ、なにはともあれ旅装を解いて頂かなくては。お召し替えを。」


こんな肉食獣達の前で、服なんか脱げるわけないじゃないか!


ライランド様、早く来て~。
どこか倉庫でもなんでもいいから、もっと小さい部屋をボクに貸して~。
涙が溢れてきそうだ。


そうして知らない物と人に大勢囲まれながら、心細く待つことなんと5時間。
日も暮れようとする頃に、ようやく待ち人が現れた。


ボクは後ろの側近達には目もくれず、その見慣れた人の懐に飛び込んだ。

「あららら。随分と熱烈な事で。」

聞き覚えのある声はロムニーだ。

ライランド様がその場を見渡してボクに話しかける。

「どうした。ここにいるのは確かに皆肉食獣人だが、小型だから怖くないぞ。
俺の侍従の中で、一番歳が近そうで、利発な猫を世話係に付けてやっただろう。」

猫は猫でも、オオヤマネコである。単独でうさぎなども捕獲して食う、ガチの肉食獣人だ。


そして、歳が近いとは…?
恐らくボクがライランド様よりも年上である34歳だという事を、皆して2日目には忘れてしまう様だが、肉食獣人達の頭の中は一体どうなっているのだろうか。

決して、170cmのボクが小さいわけではない。ライランド様を始めとする肉食獣人達が、軒並み2m超えで大き過ぎるのだ。

「あの……ボクが34歳だということは、ご存知ですか?」

「え!まさかの合法!?」

後ろの側近達がざわついている。

「大変だ!準備の準備をしなきゃっ!」
とナディーが飛び出して行った。
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