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どうやらライランド様は国王に言いつけられた大事な公務をほっぽり出してまで駆けつけてくれたらしく、だいぶ後ろ髪を引かれながら、その後処理に戻った。
@@@@
夜の帳が下りたあと、ナディーはまたいつもの様にボクを湯殿に誘った。
「今日はいつもより念入りに準備しないといけませんね!」
と気合充分である。
いやいやいや。さっきあれだけ沢山出したばかりなんだから、そうはならないでしょ。
と思いつつも、使用人の中では唯一真面目にボクのお世話をしてくれるナディーの笑顔にとことん弱い、ボクである。
最初は上手くできなかった準備がうまく出来ると
「よくできましたね!」
「今日も完璧ですよ!」
と褒められるのを知っているので、無駄だと思いつつもついつい言う通りにしてしまうのだ。
ボクよりずっと下の歳下に褒められて嬉しいとか、我ながらチョロいなと思う。
でも、肉食獣人が上位のこの世界で、例え子供であっても、ボクの世話係という仕事ゆえであっても、肉食獣人から褒められる、認められるというのは、草食獣人のボクにとっては抗えない魅力があるのだ。
これは、だいぶ根深い問題だと思う。
なんとなくいつもよりソワソワしながら、ライランド様の帰りをライランド様のベッドの上で本を読みながら待つ。
「メリノ」
うわぁぁぁ!びっくりした!!
音もなく、蝋燭だけの部屋の暗闇の紛れ込むのはやめて欲しい。
いや。ライランド様の部屋だから、どう戻ってきても自由と言えば自由なんだけど。
心なしか、ライランド様が緊張している様に見える。
「驚かせてすまない。
その、今日は国王がすまなかったな。」
「いえいえいえいえ!王様がすることですから、ライランドのせいでは!!」
「それで…悪い話と良い話があるのだが、どちらから聞きたい?」
えぇ…もし悪い話がボクを処刑するとか追い出すみたいな話だったら、今すぐ準備しないといけないし、早めに聞いておかなくては。
「わっ悪い話の方でお願いします…。」
ボクはおずおずと申し出た。
ライランド様はボクの隣に腰掛けると、一呼吸置いた後、勢いよく話し出した。
「明日から前線に行くことになった。
君をここに置いては安心して行けないから、しばらくジャコブの屋敷に居てもらうか、一緒……いや、やはりジャコブの屋敷だな。あそこは金持ち貴族だから、今と同じ様な生活を保証出来る。」
さっきの今で、もう…。
ライランド様がそんなに危ないところに行かないといけないのは、ボクのせいだ……。どうしよう。
「ごめんなさい……。」
ボクは泣きそうになるのをなんとか堪えながら、声を絞り出した。
「どうして君が謝るんだい?
大丈夫。時期が早まっただけで、前から決まっていた事だし、前線に行くのも初めてではない。」
「でも…ボクのせいで…。」
「本当に君のせいではないんだ。
国王は俺を前線で戦死させるか、君と共に行かせて叛逆の汚名を着せて処分して、弟を王太子に任命したいんだ。」
自分の父親を父と呼ばせて貰えず、ずっと国王と呼びつづけるライランド様の悲しみを思うと、心が張り裂けそうになる。
「でもボク、ライランド様と一緒に行きたいと思っていたんですが、そんな口実になるなら、一緒に行くのはやめた方が良いですか?」
ライランド様が目を見開いて驚いている。
「どうして一緒に来たいんだい?
そこにある本なら、ジャコブの屋敷に運んでも良いし、そんな危ないところに行く必要は……。」
「でも、ボクのせいなんでしょう?」
「いやだからキミのせいでは……。」
尻尾がご機嫌そうにゆっくりと揺らめいている。
こういうとき、肉食獣人の雄弁な尻尾は便利だ。口では拒否しているが、本当は嬉しいようだ。
「でも、ボク、何故かライランド様と離れたく無いんです!
一緒に行ってもいいですか?」
まだ抑えられていた穏やかな尻尾の動きが、抑えきれなくなったのか少し大きくなった。時々ボクの背中や腰に巻きつこうと迫っては、触れられずに戻っていく。
「行軍に本はあまり持って行けないぞ?」
「いいです!それでも。
それに、あまり良く眠れなさそうな戦地ならなおさら抱き枕は必要でしょう?」
「無事に戻れるか解らないから、君をジャコブの家には置いて行きたくなかったんだ。
でも、やっぱり危険だから……。キミの為を思うならば、ジャコブの元に置いておいた方が……。」
ライランド様でも、こんなに迷う事があるんだな。ペットなんだから、そんなに気にしなくてもいいのに。
ボクの命はライランド様に拾われたも同然なのだから。
あの日ボクの不注意で、海の藻屑に消えるはずが、国としての合理的判断を差し置いてでも、ボクを今の今まで生かしてくれたのだ。
それだけではなく、この3ヶ月、大好きな本も沢山読ませて頂いた。
「ボク!一緒に行きます!行きたいです!
ライランド様のいるところが、ボクの居場所です!」
ボクの決心の堅さを見てとったのか、ライランド様は穏やかに笑った。
まるで春に氷がゆっくりと溶けていくような、ゆっくりとした穏やかな笑いだった。
もしかしたらボクは、ライランド様が笑うところを初めて見たかもしれないことに今やっと気がついた。
この方は、氷結の王子と呼ばれているくらい、表情筋を崩す事は余りない。
でも、笑顔を見た事もない人の側にずっといて、それでもこの人と一緒にいると落ち着くなと思っていたなんて、ボクはだいぶ変わり者かもしれない。
「じゃあ、良い話をしようか。」
そうだ。そういえば良い話もあるんだった。
でも、前線に行く話の後に良い話??全然想像がつかない。
「国王が、メリノと俺の結婚を認めてくれた。無事に戦争に勝利して、前線から戻ってきたらの話だが。」
はい??今なんて??
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夜の帳が下りたあと、ナディーはまたいつもの様にボクを湯殿に誘った。
「今日はいつもより念入りに準備しないといけませんね!」
と気合充分である。
いやいやいや。さっきあれだけ沢山出したばかりなんだから、そうはならないでしょ。
と思いつつも、使用人の中では唯一真面目にボクのお世話をしてくれるナディーの笑顔にとことん弱い、ボクである。
最初は上手くできなかった準備がうまく出来ると
「よくできましたね!」
「今日も完璧ですよ!」
と褒められるのを知っているので、無駄だと思いつつもついつい言う通りにしてしまうのだ。
ボクよりずっと下の歳下に褒められて嬉しいとか、我ながらチョロいなと思う。
でも、肉食獣人が上位のこの世界で、例え子供であっても、ボクの世話係という仕事ゆえであっても、肉食獣人から褒められる、認められるというのは、草食獣人のボクにとっては抗えない魅力があるのだ。
これは、だいぶ根深い問題だと思う。
なんとなくいつもよりソワソワしながら、ライランド様の帰りをライランド様のベッドの上で本を読みながら待つ。
「メリノ」
うわぁぁぁ!びっくりした!!
音もなく、蝋燭だけの部屋の暗闇の紛れ込むのはやめて欲しい。
いや。ライランド様の部屋だから、どう戻ってきても自由と言えば自由なんだけど。
心なしか、ライランド様が緊張している様に見える。
「驚かせてすまない。
その、今日は国王がすまなかったな。」
「いえいえいえいえ!王様がすることですから、ライランドのせいでは!!」
「それで…悪い話と良い話があるのだが、どちらから聞きたい?」
えぇ…もし悪い話がボクを処刑するとか追い出すみたいな話だったら、今すぐ準備しないといけないし、早めに聞いておかなくては。
「わっ悪い話の方でお願いします…。」
ボクはおずおずと申し出た。
ライランド様はボクの隣に腰掛けると、一呼吸置いた後、勢いよく話し出した。
「明日から前線に行くことになった。
君をここに置いては安心して行けないから、しばらくジャコブの屋敷に居てもらうか、一緒……いや、やはりジャコブの屋敷だな。あそこは金持ち貴族だから、今と同じ様な生活を保証出来る。」
さっきの今で、もう…。
ライランド様がそんなに危ないところに行かないといけないのは、ボクのせいだ……。どうしよう。
「ごめんなさい……。」
ボクは泣きそうになるのをなんとか堪えながら、声を絞り出した。
「どうして君が謝るんだい?
大丈夫。時期が早まっただけで、前から決まっていた事だし、前線に行くのも初めてではない。」
「でも…ボクのせいで…。」
「本当に君のせいではないんだ。
国王は俺を前線で戦死させるか、君と共に行かせて叛逆の汚名を着せて処分して、弟を王太子に任命したいんだ。」
自分の父親を父と呼ばせて貰えず、ずっと国王と呼びつづけるライランド様の悲しみを思うと、心が張り裂けそうになる。
「でもボク、ライランド様と一緒に行きたいと思っていたんですが、そんな口実になるなら、一緒に行くのはやめた方が良いですか?」
ライランド様が目を見開いて驚いている。
「どうして一緒に来たいんだい?
そこにある本なら、ジャコブの屋敷に運んでも良いし、そんな危ないところに行く必要は……。」
「でも、ボクのせいなんでしょう?」
「いやだからキミのせいでは……。」
尻尾がご機嫌そうにゆっくりと揺らめいている。
こういうとき、肉食獣人の雄弁な尻尾は便利だ。口では拒否しているが、本当は嬉しいようだ。
「でも、ボク、何故かライランド様と離れたく無いんです!
一緒に行ってもいいですか?」
まだ抑えられていた穏やかな尻尾の動きが、抑えきれなくなったのか少し大きくなった。時々ボクの背中や腰に巻きつこうと迫っては、触れられずに戻っていく。
「行軍に本はあまり持って行けないぞ?」
「いいです!それでも。
それに、あまり良く眠れなさそうな戦地ならなおさら抱き枕は必要でしょう?」
「無事に戻れるか解らないから、君をジャコブの家には置いて行きたくなかったんだ。
でも、やっぱり危険だから……。キミの為を思うならば、ジャコブの元に置いておいた方が……。」
ライランド様でも、こんなに迷う事があるんだな。ペットなんだから、そんなに気にしなくてもいいのに。
ボクの命はライランド様に拾われたも同然なのだから。
あの日ボクの不注意で、海の藻屑に消えるはずが、国としての合理的判断を差し置いてでも、ボクを今の今まで生かしてくれたのだ。
それだけではなく、この3ヶ月、大好きな本も沢山読ませて頂いた。
「ボク!一緒に行きます!行きたいです!
ライランド様のいるところが、ボクの居場所です!」
ボクの決心の堅さを見てとったのか、ライランド様は穏やかに笑った。
まるで春に氷がゆっくりと溶けていくような、ゆっくりとした穏やかな笑いだった。
もしかしたらボクは、ライランド様が笑うところを初めて見たかもしれないことに今やっと気がついた。
この方は、氷結の王子と呼ばれているくらい、表情筋を崩す事は余りない。
でも、笑顔を見た事もない人の側にずっといて、それでもこの人と一緒にいると落ち着くなと思っていたなんて、ボクはだいぶ変わり者かもしれない。
「じゃあ、良い話をしようか。」
そうだ。そういえば良い話もあるんだった。
でも、前線に行く話の後に良い話??全然想像がつかない。
「国王が、メリノと俺の結婚を認めてくれた。無事に戦争に勝利して、前線から戻ってきたらの話だが。」
はい??今なんて??
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