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第一章
試し行為
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動揺で声が出せない陽向に、ネオの不安が募っていく。
『やっぱり俺が怖いのだろうか』
「ヒナタは俺のこと嫌いか? 怖いか?」
「いや……怖くはないけど。どうして?ネオは優しいだろ?」
陽向はネオの迷子のような瞳を覗き込んだ。
「俺は一瞬で君を殺せる」
『あぁ、これは試し行為だったのか』と陽向は閃いた。
養護施設で育った陽向が、無数に見てきた行動だ。新しく来たばかりの頃はいい子におとなしくしていても、ひと月経ったくらいの頃から、自分がどこまでの悪さをすれば怒られるのか、嫌われるのか、あるいはそれでも見放されないのか。大人の愛情を試そうとするアレだ。
ネオは、自分に対して試し行為をするために今日この場に連れてきたのだ。
もし陽向がこの行為を受け入れなかったら、さっき家から片付けていた陽向の荷物も陽向自身も捨てるつもりなのだろうか。
陽向は『怖い』と『悲しい』感情に交互に支配された。
でもそれは、ネオが怖いのではなく、『ネオに捨てられたくない。ネオと離れたくない』からだ。そして、ネオがそんな風に自分の事を卑下してしまうような過去が『悲しい』と思ったからだ。
「どうして? 例えばだけど、僕だって寝ているネオをナイフで刺したら殺せるかもよ? でも、ネオは僕が怖い?」
「いや……。それは」
寝ているときも保護結界をかけているから無理だと言おうとしたが、事の本質はそこではないのだろう。それは、ネオにも解った。
「例えば、誰か一人でも僕より強い人がいたら、僕は怖くて街を歩けなくなるかい? そんな風に考えていたら、女性や子供は外を歩けなくなるんじゃないかな。
能力的には殺せても、僕を殺そうと思っていない人のことは怖くないよ」
「だが、それは殺した場合罪に問われるからだろう。俺の場合は、ヒナタを殺しても誰にも咎められることはない。
誰にも感知されない自信があるし、なにより君は侵入者だ。仮にヒナタを殺したとしても、俺が罪に問われることはない」
「違うよ。僕はそんな話をしているわけじゃないよ。
僕たちはまだ一週間くらいしか一緒にいないけど、ネオがとても優しい人だということは知ってる。もっと僕を奴隷みたいに扱っても誰にも咎められないはずなのに、ネオは僕と対等に接してくれてる。
肝心のネオが僕を虐げたり、殺したいと思ってないんだから、僕が怖がる理由なんて何もないって話をしているんだ」
ネオが何もしていなくても。一度も誰かを傷つけたことがなくても、皆一様にネオを怖がった。
部屋を訪ねただけで、緊張した面持ちになった母。手が滑ってカップを置く音が少し大きかっただけで、どうか殺さないでと跪いて命乞いをした使用人。回廊の角を曲がってきたばかりなのに、自分の顔を見た瞬間に急いで来た道を戻っていく貴族。自分が扉をくぐると、途端に静かになる教室。ネオの機嫌を損ねるのが怖くて、ネオの間違いを指摘できない教師。
そういったことに直面するごとに、幼いネオの心は少しずつ削れていった。
ネオは、誰のことも傷つけようと思ったことはなかったのに。
『やっぱり俺が怖いのだろうか』
「ヒナタは俺のこと嫌いか? 怖いか?」
「いや……怖くはないけど。どうして?ネオは優しいだろ?」
陽向はネオの迷子のような瞳を覗き込んだ。
「俺は一瞬で君を殺せる」
『あぁ、これは試し行為だったのか』と陽向は閃いた。
養護施設で育った陽向が、無数に見てきた行動だ。新しく来たばかりの頃はいい子におとなしくしていても、ひと月経ったくらいの頃から、自分がどこまでの悪さをすれば怒られるのか、嫌われるのか、あるいはそれでも見放されないのか。大人の愛情を試そうとするアレだ。
ネオは、自分に対して試し行為をするために今日この場に連れてきたのだ。
もし陽向がこの行為を受け入れなかったら、さっき家から片付けていた陽向の荷物も陽向自身も捨てるつもりなのだろうか。
陽向は『怖い』と『悲しい』感情に交互に支配された。
でもそれは、ネオが怖いのではなく、『ネオに捨てられたくない。ネオと離れたくない』からだ。そして、ネオがそんな風に自分の事を卑下してしまうような過去が『悲しい』と思ったからだ。
「どうして? 例えばだけど、僕だって寝ているネオをナイフで刺したら殺せるかもよ? でも、ネオは僕が怖い?」
「いや……。それは」
寝ているときも保護結界をかけているから無理だと言おうとしたが、事の本質はそこではないのだろう。それは、ネオにも解った。
「例えば、誰か一人でも僕より強い人がいたら、僕は怖くて街を歩けなくなるかい? そんな風に考えていたら、女性や子供は外を歩けなくなるんじゃないかな。
能力的には殺せても、僕を殺そうと思っていない人のことは怖くないよ」
「だが、それは殺した場合罪に問われるからだろう。俺の場合は、ヒナタを殺しても誰にも咎められることはない。
誰にも感知されない自信があるし、なにより君は侵入者だ。仮にヒナタを殺したとしても、俺が罪に問われることはない」
「違うよ。僕はそんな話をしているわけじゃないよ。
僕たちはまだ一週間くらいしか一緒にいないけど、ネオがとても優しい人だということは知ってる。もっと僕を奴隷みたいに扱っても誰にも咎められないはずなのに、ネオは僕と対等に接してくれてる。
肝心のネオが僕を虐げたり、殺したいと思ってないんだから、僕が怖がる理由なんて何もないって話をしているんだ」
ネオが何もしていなくても。一度も誰かを傷つけたことがなくても、皆一様にネオを怖がった。
部屋を訪ねただけで、緊張した面持ちになった母。手が滑ってカップを置く音が少し大きかっただけで、どうか殺さないでと跪いて命乞いをした使用人。回廊の角を曲がってきたばかりなのに、自分の顔を見た瞬間に急いで来た道を戻っていく貴族。自分が扉をくぐると、途端に静かになる教室。ネオの機嫌を損ねるのが怖くて、ネオの間違いを指摘できない教師。
そういったことに直面するごとに、幼いネオの心は少しずつ削れていった。
ネオは、誰のことも傷つけようと思ったことはなかったのに。
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