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承
#8.コイツは誰だ
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櫂は顔を覆って蹲っていたが、ハッと気が付いた。
「お前まさかだけど、こんなことを繰り返してるんじゃないだろうな?
さっき十度目の正直って言ったのは…整形の回数だよな?」
「うん?まぁ整形もそれ位の回数はさせたけど、彼がちょうど十人目だからさ。
俺、地下オークションのスポンサー兼お得意さんなんだよね。
それも、時々入ってくるアルファやベータをいい値段で買ってくれる上客だからさ。特別に贔屓して貰ってるわけ。」
「闇オークションの…って、それ良い事でもなんでもないだろ。得意気に言うなよ。」
櫂はもうどこからツッコんで良いのか解らない。ひどく狼狽していた。
「俺のこの三十五年間の櫂への愛を知っておいてほしくてさ。
櫂に少しでも似ているところがあると、他の男に触らせたくなくて、ついつい買っちまうんだよな。」
「!!」
櫂は生理的な嫌悪感が拭えず声に出てしまいそうだったが、なんとか堪えた。
それは愛でもなんでもないだろう!ただの執着だ!お前のただの執着に赤の他人を巻き込むな!
そう言えたらどんなに良いだろうか。
気の置けない友人。それも、親友だと言っても良いほどの仲だと思っていたのに。思ったことはなんでも口に出来る仲だったのに。
今は一言一言を考えて言葉を発しなくてはならない。
櫂如何によって、目の前のこの哀れな若い男の運命も、自分の運命も一瞬にして決まってしまうのだから。
「なぁ、お前金持ちなんだろ?人一人くらい一生養ってたって、痛くも痒くもないだろ?
俺は、俺と同じ顔のやつが俺のせいで殺されるのは……嫌だよ。」
櫂はどうして良いのか解らない。とりあえず相手を少し持ち上げて、甘えている体で交渉してみることにした。
「お優しいことだ。お前のその優しくて真っすぐなところが好きだったよ。
だからあんな半分人助けみたいなハイリスクローリターンな国に投資して、失敗しちゃうんだよ。」
「あれは、地震が起きたせいで。天災だったんだから仕方ないだろ?」
あれは取れるリスクと銀行との付き合いの深さを見誤っていた俺の落ち度だ。だが、まさか2カ国同時にそうなるとは、予想のしようが無かった。
「その天災が一つ起こるだけで通貨危機になっちゃうような脆弱な国々に、正義感だけで投資するから悪いんだよ。」
「そんなの日本だって同じじゃないか。このまま円安が進んだ上に関東で大きな地震でも一つ起きてみろ、みるみるうちに似たような事になるのは目に見えてる。」
「まぁ、そりゃあ祖国だから、そこはある程度仕方ないだろ。
ちゃんと海外にも資産は隠してあるから安心しな。お前と蒼空くんを一生不自由なく囲える位にはあるからさ。
分散投資もスワップ管理もバッチリ!例え日本で通貨危機が起きても、そうそう潰れない様に資金繰りしてるぞ。」
蒼空を囲う!だと?もしかして、蒼空を買ったのはコイツか?
まずは下手に出るしかない。この男が何を考えているのか、じっくり探らなくては。
情報は一度には引き出せない。無理して一度にやろうとすれば、相手はこちらが情報を引き出そうとしていると察し、警戒されてしまい開示されなくなる。
まずは、俺の事をどう思っているかだ。コイツはまだ俺の事が好きなのか?それとも、自分のものにならなかった俺を滅茶苦茶に憎んでるから、復讐の為にこんな事をしているのか?
ずっと親友だと思っていた。でも今はコイツの事が、もう全く、これっぽっちも解らなくなってしまった。
「あーあーそうだよ。もう何とでも言え。
俺は、リスク管理が充分に出来てなくて、自分の偽善の為に家族も何もかも犠牲にしてしまった愚かな男だよ。
俺の家族まるごと養えるお前と違って、目の前の若者一人助けられない無力な男だよ。俺をけなしてそれで満足か?
お前、俺の事が好きなんじゃないのかよ。」
軽く探ってみる。
「好きだったさ。昔は単純に好きだったよ。
でも、俺だけのものにならないお前を、同じくらい憎んでもいた。
人気オメガ俳優と電撃結婚して、あんな綺麗な息子が出来て。
もともと俺の手が届かない存在だったが、更に届かない所にどんどん行っちまうお前がな。
拗らせてんだよ。こっちは。」
成程。可愛さ余って憎さ百倍という所か。
「拗らせすぎだろうが。
お前にだってお綺麗で優秀な妻子がいるだろうが。
なんで俺の方には居ちゃダメなんだよ。横暴だろうが。」
哲也は何も言わずに微笑んでいる。その何を考えているのか解らない笑顔が怖い。
「なぁ、もし俺がお前の言う事聞いたら、凛空も蒼空も、そして目の前のこの俺の顔をした男も、みんな助けてくれるのか?」
「そうだなぁ~。少なくとも蒼空くんは助けたいとは思っているよ。コイツもこのまま飼っててやってもいい。」
そこに凛空の名前が入っていない所に、この男の本質を感じる。
間違いない。この男は凛空を恨んでいる。
運命のツガイに買われたから幸せ?本当にそんな都合の良い話があるのか?
この男は間違いなく何かを隠している。でもまずは、聞き出し易そうな蒼空の方からだ。
「お前、もしかして蒼空が今どこにいるか知ってんのか?」
「そりゃあね。知りたい?」
「知りたいに決まってんだろ!
頼む、教えてくれ!」
櫂は不承不承ながら、哲也に頭を下げた。
「……俺が何を望んでるか、解ってるだろ?それをくれ。」
「俺の身体だなんてキモイ事言うんじゃねーぞ。」
「そのお前の身体なんだなぁ。これが。
出来れば心も欲しいなぁ~。」
その言葉を聞いた瞬間、櫂は眦を吊り上げた。
「お前まさかだけど、こんなことを繰り返してるんじゃないだろうな?
さっき十度目の正直って言ったのは…整形の回数だよな?」
「うん?まぁ整形もそれ位の回数はさせたけど、彼がちょうど十人目だからさ。
俺、地下オークションのスポンサー兼お得意さんなんだよね。
それも、時々入ってくるアルファやベータをいい値段で買ってくれる上客だからさ。特別に贔屓して貰ってるわけ。」
「闇オークションの…って、それ良い事でもなんでもないだろ。得意気に言うなよ。」
櫂はもうどこからツッコんで良いのか解らない。ひどく狼狽していた。
「俺のこの三十五年間の櫂への愛を知っておいてほしくてさ。
櫂に少しでも似ているところがあると、他の男に触らせたくなくて、ついつい買っちまうんだよな。」
「!!」
櫂は生理的な嫌悪感が拭えず声に出てしまいそうだったが、なんとか堪えた。
それは愛でもなんでもないだろう!ただの執着だ!お前のただの執着に赤の他人を巻き込むな!
そう言えたらどんなに良いだろうか。
気の置けない友人。それも、親友だと言っても良いほどの仲だと思っていたのに。思ったことはなんでも口に出来る仲だったのに。
今は一言一言を考えて言葉を発しなくてはならない。
櫂如何によって、目の前のこの哀れな若い男の運命も、自分の運命も一瞬にして決まってしまうのだから。
「なぁ、お前金持ちなんだろ?人一人くらい一生養ってたって、痛くも痒くもないだろ?
俺は、俺と同じ顔のやつが俺のせいで殺されるのは……嫌だよ。」
櫂はどうして良いのか解らない。とりあえず相手を少し持ち上げて、甘えている体で交渉してみることにした。
「お優しいことだ。お前のその優しくて真っすぐなところが好きだったよ。
だからあんな半分人助けみたいなハイリスクローリターンな国に投資して、失敗しちゃうんだよ。」
「あれは、地震が起きたせいで。天災だったんだから仕方ないだろ?」
あれは取れるリスクと銀行との付き合いの深さを見誤っていた俺の落ち度だ。だが、まさか2カ国同時にそうなるとは、予想のしようが無かった。
「その天災が一つ起こるだけで通貨危機になっちゃうような脆弱な国々に、正義感だけで投資するから悪いんだよ。」
「そんなの日本だって同じじゃないか。このまま円安が進んだ上に関東で大きな地震でも一つ起きてみろ、みるみるうちに似たような事になるのは目に見えてる。」
「まぁ、そりゃあ祖国だから、そこはある程度仕方ないだろ。
ちゃんと海外にも資産は隠してあるから安心しな。お前と蒼空くんを一生不自由なく囲える位にはあるからさ。
分散投資もスワップ管理もバッチリ!例え日本で通貨危機が起きても、そうそう潰れない様に資金繰りしてるぞ。」
蒼空を囲う!だと?もしかして、蒼空を買ったのはコイツか?
まずは下手に出るしかない。この男が何を考えているのか、じっくり探らなくては。
情報は一度には引き出せない。無理して一度にやろうとすれば、相手はこちらが情報を引き出そうとしていると察し、警戒されてしまい開示されなくなる。
まずは、俺の事をどう思っているかだ。コイツはまだ俺の事が好きなのか?それとも、自分のものにならなかった俺を滅茶苦茶に憎んでるから、復讐の為にこんな事をしているのか?
ずっと親友だと思っていた。でも今はコイツの事が、もう全く、これっぽっちも解らなくなってしまった。
「あーあーそうだよ。もう何とでも言え。
俺は、リスク管理が充分に出来てなくて、自分の偽善の為に家族も何もかも犠牲にしてしまった愚かな男だよ。
俺の家族まるごと養えるお前と違って、目の前の若者一人助けられない無力な男だよ。俺をけなしてそれで満足か?
お前、俺の事が好きなんじゃないのかよ。」
軽く探ってみる。
「好きだったさ。昔は単純に好きだったよ。
でも、俺だけのものにならないお前を、同じくらい憎んでもいた。
人気オメガ俳優と電撃結婚して、あんな綺麗な息子が出来て。
もともと俺の手が届かない存在だったが、更に届かない所にどんどん行っちまうお前がな。
拗らせてんだよ。こっちは。」
成程。可愛さ余って憎さ百倍という所か。
「拗らせすぎだろうが。
お前にだってお綺麗で優秀な妻子がいるだろうが。
なんで俺の方には居ちゃダメなんだよ。横暴だろうが。」
哲也は何も言わずに微笑んでいる。その何を考えているのか解らない笑顔が怖い。
「なぁ、もし俺がお前の言う事聞いたら、凛空も蒼空も、そして目の前のこの俺の顔をした男も、みんな助けてくれるのか?」
「そうだなぁ~。少なくとも蒼空くんは助けたいとは思っているよ。コイツもこのまま飼っててやってもいい。」
そこに凛空の名前が入っていない所に、この男の本質を感じる。
間違いない。この男は凛空を恨んでいる。
運命のツガイに買われたから幸せ?本当にそんな都合の良い話があるのか?
この男は間違いなく何かを隠している。でもまずは、聞き出し易そうな蒼空の方からだ。
「お前、もしかして蒼空が今どこにいるか知ってんのか?」
「そりゃあね。知りたい?」
「知りたいに決まってんだろ!
頼む、教えてくれ!」
櫂は不承不承ながら、哲也に頭を下げた。
「……俺が何を望んでるか、解ってるだろ?それをくれ。」
「俺の身体だなんてキモイ事言うんじゃねーぞ。」
「そのお前の身体なんだなぁ。これが。
出来れば心も欲しいなぁ~。」
その言葉を聞いた瞬間、櫂は眦を吊り上げた。
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