ほおつきよ

兎守 優

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一 盲目

八枚め

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「すっきりしました。久しぶりの全速力です」
夕空ゆらなぁ、蒸し返すか、普通」

「夜一さんも、夜遊びは程々にした方がいいですよ、人間は昼行性の生き物ですし、よく寝た方がめっちゃ元気になります!」
「知った口、聞きやがって。俺は元気だよ、夜更かしでもな」

 僕を蚊帳の外に置いて、二人は言い合っている。僕は神田さんの陰で黙々と箸を進めている。

「真昼の作ってくれたの、すっごく美味しいですねっ」
夕空ゆらも見習えよ。試しに今度、何か一品作って持ってこい」
「次もついて行っていいんですね! やった! どこ行くんですか!?」

 二人が楽しそうに会話を弾ませ、美味しそうに食べていてくれるなら、僕はそれで今日は充分と思うことにした。すっかり平らげてくれたので、頑張った甲斐があった。

 ゆだるような暑さの中に時々混じる、控えめな風が心地よかった。自然と心も解れていく。

 斎藤くんは相変わらず眩しい笑顔で、神田さんは表情を綻ばせていた。
「さて。まだまだ歩くぞ」
 彼の号令に勢いよく賛同しようとした斎藤くんを彼は慌てて止めた。
「着いたらにしとけ。ぜってぇ、へばるから」

 軽くなったタッパーを重ねてリュックにしまい込み、トートバッグも折り畳んで押し込んだ。

 スキップをして鼻唄を歌いながら、先を行く彼を見て、元気が尽きることなんてあるのだろうかと思う。

「美味しかったよ。ありがとう」

 不意打ちを食らって、「へっ?」と間抜けな声が出てしまう。

「あっ! しくった。さっきの撮っておけば良かったね」

 何をと首を傾げると、神田さんはかぶりを振った。

「いや、ダメか。夕空ゆらには写真の撮り方とかレクチャーしてないから、せびられても困る。だから、ねっ、内緒にして」

 きっと女の人ならこれで落ちるんだろう。なぜか気持ちを冷まそうと必死の自分がいた。いや、まさか。ここにきて同性の人に惚れるなんて、そんな訳……。

 明日にはそんな浮ついた気持ちも忘れるはずだ。これが彼なりの距離の取り方なんだろう。僕は彼にとって何でもない存在だと頭の中で反芻させた。

「分かりました」

 努めて素っ気なく返した。
 ふつふつとこみ上げてくるむず痒さを悟られたくない。この人は誰にでもそんな風に振る舞う。誰もが錯覚に陥る。勘違いしてはいけない。
 密に誘われた蝶は周りのことが分からなくなるから。
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