ほおつきよ

兎守 優

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三 なりふり

五行

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 少し遅めの夕飯。できあがるなり、夜一さんは僕が止める間もなく斎藤くんを叩き起こした。
「ひっ、はひえ?」
 鼻をずびずびすすりながら、彼は目の前に置かれた皿の湯気に咳き込んだ。
「腹減ってんだろ、食え。俺とひまのはじめての共同さ」
 夜一さんの服の裾を引っ張ってその先をさえぎることに成功した。本当に油断ならない。息をするように、こちらが赤面するような言動が飛び出すのでハラハラする。
 僕と彼が二人で会話する中、クタクタになった表情のまま、用意された食事を口に押し込む斎藤くん。食べたそばから、眠そうに目をしばたかせていた。
「おい、夕空ゆら。皿に顔を突っ込む前に明日に残しとけ。冷蔵庫に入れといてやるから」
 んー、と気だるげに返事をして、食卓をあとしようとすると、夜一さんが慌てて呼び止める。
「待て待て。カギ! カギは? 俺たちにカギを開けっぱで帰れって言うのか?」
「はっ! 玄関です」
 犯人は僕だ。斎藤くんの代わりに開けたときに、玄関の棚に置き去りのままだったのだ。
 斎藤くんは返事を聞くなり、すぐにのそりのそりと部屋を出ていってしまった。
「ったく、しょうがない甘えん坊だなぁ」
 夜一さんは舌打ちしつつも、ラップをかけた残りを冷蔵庫に押し込んだ。
 残りの炒めビーフンを平らげた僕たちの間に、奇妙な空気が流れた。
「土曜って言ったけど、今からいい?」
 彼はやっぱりそう切り出してきた。
「はい……。場所を変えましょう」
 僕たちはそっと斎藤くんの家を出た。彼は玄関のポストにカギを努めて静かに置いた。
 無言のまま居間のソファに座る。沈黙に耐えかねて今度は僕から切り出した。
「僕、神田さんのこと好きです。別れたくないです。ずっと一緒に居たいです」
 透かさず彼の方からも返ってくる。
「俺だって、好きだから、ひまと別れるつもりないし、もっと一緒に居たいよ?」
 目をつむった先に、あさにぃと夜一さんの顔が同時に浮かぶ。どっちかを取れなんて、酷な話だけど。
「なんであさにぃに、そんなに口出されなきゃいけないのか、わからないです」
 自分の敷いたレールの上を僕に歩かせようとしているだけではないか。僕を彼の思考で染めて、本当の家族として迎え入れようなんて、そんなの本当に家族と言えるんだろうか。
「籍を藤岡に移さないかって言われました。あさにぃ、なにか隠してる気がするんです。ムカつきます」
「へぇー、そんなん自己満足じゃん。自分のそばから離れていくのが怖くて、戸籍で縛り付けちゃえばいいって感じ? 俺はそういう家族のうざったいの無理」
 一瞬だけ彼がいらだたしさを露わにしたのが目に映った。すぐにいつものなにを考えているかわからない、愁いを帯びた表情に戻ったが。
「僕、もうただの子どもじゃないんです。好きな人と付き合ってなにが悪いんだか」
 グンッとソファが揺れて、至近距離に彼が近づいてきて、あっという間に押し倒された。
「大人にしてあげよっか?」
 視線をさまよわせて羞恥にほおを染めると彼の影に飲み込まれる。
 重ねられる唇がしっとりとくっついては離れ、ふわふわした気分になる。なんども口付けを落とされて、息継ぎの間にぬるりとしたものが口内に差し入れられた。
 すぐに酸素を奪われて、鼻息が荒くなる。夜一さんの上気した肌から彼の香りが鼻腔をくすぐって、ズクンとなにかが重くのしかかってくる。
 酸欠になるほど深く口付けられて、解放されたころには、僕は肩で息をして、目が潤んでいた。
「かわいいのな、ひまは」
 恥ずかしくて顔を背けると、首元に顔をうずめられる。首筋に舌が這わされて、ビクリと体が跳ねた。
「かんださん……っ」
 口を固く結んだ。ズボンの中に手が滑り込んできて下着から下部のふくらみを揉まれた。
 すぐに息は上がってしまう。夜一さんののどを鳴らす音が耳の近くで聞こえて、頭がクラクラしてきた。
 彼の顔が上に移動していくのに、とっさに思い出して静止の声を上げた。
「みみは、だめっ……」
「うーん、残念」
 下着に手を突っ込まれて、直接触られる。ぬりぬりといじられて、思わず身を捩った。
「かわいすぎだろ……。そんなに反応いいとオニイサン、頑張っちゃうよ?」
「ふっ、んっんっ、……よいちさん……」
 ほおを涙が伝う。チュッと吸いとられた。
「うれしいよ、ひーま」
 彼の巧みな動きに迫り上がってくるものを抑えられず、手の中で放ってしまった。
 荒く息をしていると、夜一さんの満足そうな顔が見えた。僕も幸せで満たされて、キスで応えた。
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