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『ゼロ・グレイス』第2話:孤独な入学式と“教師”の干渉
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入学式の翌日。
そうこう君は、朝の教室で静かに席に座っていた。
隣では、結月ほのかが机に頬を乗せて退屈そうにしている。
「ねぇねぇ、今日も一緒に帰ろ? ほのか、ちょっと道草したい気分なの」
「……先生に呼ばれてるから」
「ええ~? 放課後の補習なんて真面目すぎじゃない? ゆら、何とか言ってよ」
呼ばれた黒髪の少女、柏木ゆらは教科書から目を上げずに答えた。
「里由菜先生の指導には逆らわない方がいい。……あの人、“ただの教師”じゃないから」
「……なにそれ、怖……」
ほのかが小さく舌打ちしたのを、そうこう君は聞いていなかった。
放課後。
教室の窓際には、西日が差し込んでいる。
そうこう君は、ランドセルを背負いながら、廊下の影に立つ一人の女性の姿に気づく。
「……先生?」
「図書室、予約してあるわ。今日も一緒に行きましょう?」
その声は柔らかい。けれど、断る隙は与えられていない。
“命令”ではなく“選択肢の消失”という、静かな慈愛の圧。
「……うん」
図書室。
静かなページの音。木の香り。ゆったりとした椅子。
「今日は、漢字の読みと、ちょっとしたお話もあるのよ」
「お話?」
「そう。……“誰かのために、何かを我慢したことはあるか?”ってお話」
そうこう君は首をかしげた。
「先生は、我慢するの?」
「……毎日ね。あなたのために、少しずつね」
彼は意味が分からなかった。
だけどその言葉は、どこか深く、心の奥に残った。
一方その頃。
校門近くのベンチで、ほのかとゆらが並んで座っていた。
「また……取られた」
「奪われたんじゃない。満たされてるの。……だから私たちは、隙間に入れない」
「ねぇ、今週の日曜、誘ってみようよ。“お母さんいないんでしょ?”って」
「……それ、通るかな」
「通させるの。干渉じゃなくて、自然な関係を装って。今のままじゃ、あの“教師”に全部封じられる……!」
日曜日、朝。
そうこう君は一人、台所で冷えたパンを食べていた。
両親はまた仕事。カレンダーには“休出”と赤いペンで書かれていた。
ピンポーン。
インターホンが鳴る。
ドアを開けると、私服姿のほのかとゆらが立っていた。
どちらも薄いベージュと白のコーディネート、妙に“親しげな姉妹”感を演出している。
「おっじゃましまーす!」
「一緒に宿題やろ? それから、近くの公園行かない? お昼も買ってきたよ」
玄関に並ぶスニーカー。リビングに広がるプリントとお菓子の袋。
誰かがいる日常。
それは確かに、温かく感じた――だが。
「お邪魔します」
その声は、夕暮れの中に響いた。
キッチンの戸を開けて入ってきたのは、白いカーディガン姿の里由菜先生。
買い物袋と、保護者から預かった家庭学習の記録ファイルを手にしていた。
「家庭訪問がてら、ちょっとだけ……様子を見にね」
ほのかとゆらの顔が引きつった。
「……こんばんは、先生」
「こんばんは。まさか、二人も家庭学習を一緒にやっているとは思わなかったわ。感心ね」
その言葉に込められた“圧”は、氷のように冷たかった。
けれど表情は、ただの優しい教師だった。
「そうこう君、今週のプリント、一緒にチェックしましょうか? 二人には……後で、ご家庭にご連絡しておきますね」
ほのかの手が、プリントを握る指に力を込めた。
ゆらの肩が、わずかに震えていた。
――観測完了。
女神は、今日も封殺に成功した。
そうこう君は、朝の教室で静かに席に座っていた。
隣では、結月ほのかが机に頬を乗せて退屈そうにしている。
「ねぇねぇ、今日も一緒に帰ろ? ほのか、ちょっと道草したい気分なの」
「……先生に呼ばれてるから」
「ええ~? 放課後の補習なんて真面目すぎじゃない? ゆら、何とか言ってよ」
呼ばれた黒髪の少女、柏木ゆらは教科書から目を上げずに答えた。
「里由菜先生の指導には逆らわない方がいい。……あの人、“ただの教師”じゃないから」
「……なにそれ、怖……」
ほのかが小さく舌打ちしたのを、そうこう君は聞いていなかった。
放課後。
教室の窓際には、西日が差し込んでいる。
そうこう君は、ランドセルを背負いながら、廊下の影に立つ一人の女性の姿に気づく。
「……先生?」
「図書室、予約してあるわ。今日も一緒に行きましょう?」
その声は柔らかい。けれど、断る隙は与えられていない。
“命令”ではなく“選択肢の消失”という、静かな慈愛の圧。
「……うん」
図書室。
静かなページの音。木の香り。ゆったりとした椅子。
「今日は、漢字の読みと、ちょっとしたお話もあるのよ」
「お話?」
「そう。……“誰かのために、何かを我慢したことはあるか?”ってお話」
そうこう君は首をかしげた。
「先生は、我慢するの?」
「……毎日ね。あなたのために、少しずつね」
彼は意味が分からなかった。
だけどその言葉は、どこか深く、心の奥に残った。
一方その頃。
校門近くのベンチで、ほのかとゆらが並んで座っていた。
「また……取られた」
「奪われたんじゃない。満たされてるの。……だから私たちは、隙間に入れない」
「ねぇ、今週の日曜、誘ってみようよ。“お母さんいないんでしょ?”って」
「……それ、通るかな」
「通させるの。干渉じゃなくて、自然な関係を装って。今のままじゃ、あの“教師”に全部封じられる……!」
日曜日、朝。
そうこう君は一人、台所で冷えたパンを食べていた。
両親はまた仕事。カレンダーには“休出”と赤いペンで書かれていた。
ピンポーン。
インターホンが鳴る。
ドアを開けると、私服姿のほのかとゆらが立っていた。
どちらも薄いベージュと白のコーディネート、妙に“親しげな姉妹”感を演出している。
「おっじゃましまーす!」
「一緒に宿題やろ? それから、近くの公園行かない? お昼も買ってきたよ」
玄関に並ぶスニーカー。リビングに広がるプリントとお菓子の袋。
誰かがいる日常。
それは確かに、温かく感じた――だが。
「お邪魔します」
その声は、夕暮れの中に響いた。
キッチンの戸を開けて入ってきたのは、白いカーディガン姿の里由菜先生。
買い物袋と、保護者から預かった家庭学習の記録ファイルを手にしていた。
「家庭訪問がてら、ちょっとだけ……様子を見にね」
ほのかとゆらの顔が引きつった。
「……こんばんは、先生」
「こんばんは。まさか、二人も家庭学習を一緒にやっているとは思わなかったわ。感心ね」
その言葉に込められた“圧”は、氷のように冷たかった。
けれど表情は、ただの優しい教師だった。
「そうこう君、今週のプリント、一緒にチェックしましょうか? 二人には……後で、ご家庭にご連絡しておきますね」
ほのかの手が、プリントを握る指に力を込めた。
ゆらの肩が、わずかに震えていた。
――観測完了。
女神は、今日も封殺に成功した。
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