慈愛の女神を創造させない為に原作者を暗殺計画〜女神の権能を回避せよ〜

蒼光

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『ゼロ・グレイス』第3話:二手の罠と観測の檻

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日曜の朝。そうこう君は一人、炊飯器の蒸気の音を聞いていた。
両親は仕事。台所に並ぶのは、昨日の残りのパンと冷えたミネラルウォーターだけ。

その孤独は、いつもの日常――のはずだった。

「ピンポーン」

インターホンが鳴る。画面に映ったのは、見慣れた顔――ほのか。

「ねぇ、今日ってヒマ? 公園でフリマやってるらしいよ。行かない?」

続いて、もう一つの通知。

「こんにちは。お母さんに頼まれて学童保育の案内持ってきたの。日曜だけど行事やってて、今日参加自由だって」

差し出されたプリントと笑顔の主は、制服を着崩したゆらだった。

――幹部Bと幹部C。
二手に分かれて、そうこう君を“囲む”。


数時間前。反女神組織〈ダクネース・サーチライト〉の会議室。

「……いつもの方法じゃ先生に阻まれる」
「だからこそ、今日は“同時に別の方向”から接触する」
幹部Bは、“感情接触”。幹部Cは、“生活介入”。

「どちらかが心をつかめば、そこから軸を崩せる。女神といえど、“二重の同時干渉”を完全には封じられないはず」

「問題は、奴が先に動くかどうか、だが……今回は“観測”しかしてこないと踏んでる」

そして、時は動いた。

そうこう君は悩んだ末、「今日は……ほのかちゃんと出かける」と答えた。
それが“日常に近い選択”に思えたからだ。

ほのかは微笑み、手を伸ばす。

「じゃあ、駅前まで歩こう。なんかさ、ちょっと旅してる気分でさ」

目的地も曖昧なまま、駅前のバス通りを歩く。
いつもは誰とも話さないような、些細なことを話した。

「そうこう君って、さ……たぶん優しすぎるんだよね」

「え?」

「先生とか、親とか、大人に褒められなくても平気で頑張ってるし。たまには、誰かに甘えてもいいんだよ?」

その声は、嘘ではなかった。

でもその瞬間、ほのかの視線が少しだけ逸れた。
スマホの画面に、指示が一瞬だけ走った。

『接触レベル3/次段階移行許可』

ほのかの手が、そっと彼の腕を取ろうとした――

「おや? こんなところで出会うなんて」

声がした。
横断歩道の向こうから、買い物袋を持った里由菜先生が現れる。

「まあまあ、休日に一人じゃ寂しいと思ってお買い物帰りに寄ったんだけど……偶然ってすごいわね」

ほのかの顔が、一瞬で凍った。

「先生、奇遇ですね……」

「そうこう君、夕方から図書館のイベントがあるの。来られる?」

「……うん」

その答えに、ほのかは何も言えなかった。



一方その頃。
ゆらは学童施設の裏庭で一人、ブランコを漕ぐ少年を見ていた。

「……来なかった」

彼女は誰にも見られず、その場を離れた。

ビルの隙間を抜けた先。静かな裏通りに降り立つと、
その先に立っていた白い人影があった。

「……やっぱり、先生は両方“見ていた”のね」

「いいえ」

里由菜先生は、微笑んだまま首を横に振る。

「“あなたたちがやろうとしていたこと”は、すでに三日前に“観測済み”だったのよ」

「……っ」

「月光の啓示。ゼロ・グレイスの副次能力。未来因果の読解と記録」

「じゃあ、私たちのすべては……最初から“演出”だったってこと?」

「ええ。あなたたちが選んだ言葉、視線、足取り。
全部、私は“創造主に近づく意志”として、記録していたわ」

「……ふざけてる」

「いいえ。慈愛よ。
あなたたちが“それでも心を歪めずに干渉してくれた”こと、私は見てた」

ゆらの目が潤んだ。
“拒絶”でも“敗北”でもなく、“赦し”だった。



夕暮れ。そうこう君は、図書館の小さな木の椅子で先生の話を聞いていた。

「今日はね、“観測と記録”について、話しましょう」

「……観測?」

「そう。“誰かを見つめる”ってね、ただ見ることじゃない。
その人の選択や心の揺らぎを、受け止めることなのよ」

そうこう君は黙って頷いた。
その横顔を見つめながら、里由菜――リュナは、心で呟いた。

(今日は、少しだけ接触が深まったわね、創造主様)

(……でも、次はもっと巧妙に来るはず。構えていて)
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