俺のスキル『AI』は、今日も世界を最適化する。

肯定ペンギン

文字の大きさ
6 / 10

第六話 魔法都市ディシア

しおりを挟む
 いくつかの中継点を挟んで、王都への旅は終わりを迎えようとしていた。

 街道を進んでいた馬車が、ゆるやかな丘を越える。
 視界が開けた瞬間、レンは思わず息を飲んだ。

「……なんだ、あれ……」

 眼下に広がるのは、まるで絵画の中の世界だった。

 巨大な円形都市が広がっていた。都市の中心には純白の城がそびえ、空へと伸びる尖塔の上空に、虹が掛かっている。しかもそれは自然のものではない――光が揺らぐように輝き、虹は動かず、まるでそこに留まっているかのようだった。

 都市の周囲は高く厚い城壁に囲まれているが、壁面からはいく筋もの水流が流れ落ちている。
 それらは人工の川となって市街に流れ込み、やがてまた魔法的に吸い上げられ、空中へと還っていく――水が、上から下へ、そしてまた上へと循環する都市。

「……水の都、ってこういうことか……」
「ね、すごいでしょ!」

 横で声を弾ませたのは、すっかり元気になったフエムだ。
 目を輝かせて、手すりから身を乗り出すように都を見つめている。

 馬車の中では、先ほど知り合った老商人が笑っていた。

「初めてだと、皆さん同じ反応をされますな。ま、普通の町並みなんて想像されてると、特にね」
「……まさか、ここまでとは思わなかった。魔法都市って、レベルが違うな……」
「王都の中に入ったら、きっと今以上にビックリされますよ」

《観測結果:都市規模は直径約二キロ。魔力による空間制御、結界、気候安定処理など、多数の魔術演算式が都市単位で稼働中です》

 脳内に響く《アイ》の声は、いつもの通り冷静だったが、どこか淡い興奮も混じっているような気がした。


 やがて馬車が城門へと近づき、門兵たちが通行者に身分証の提示を求め始めた。
 それを見て、レンの心臓が少し跳ねる。

「……やばい、そういえば俺、身分証なんて……」

 焦り始めたレンの袖を、フエムが小さく引いた。
 差し出されたのは一通の封筒。フォルドゥスの村を出る直前、老神官が彼女に託したものだ。

「……これ、あの時のおじいちゃんが。『渡しておきなさい』って」

 中にあったのは、見事な筆致で書かれた紹介状だった。
 “村を救ってくれた賢き旅人である。心より感謝し、信頼に足る者として、当人の通行を願う――”とある。

「紹介状、ですか。……フォルドゥスの老神官の筆ですね。では、ご通行を」

 門兵が軽く頭を下げる。
 そのまま、馬車は都の中へと進み出す。

「あの爺さん、もしかして凄い人だった?」

《一筆で王都へ入れる位には確かな人物のようです》

「何か、スキル鑑定で嘘ついたの、ちょっとだけ心が痛むなあ……」

 レンのボヤキは進む馬車の音にかき消された。


 城門を抜けた瞬間、レンは一瞬、立ち止まった。

「……なんだ、これ」

 外から見た王都は、確かに城壁と水路に囲まれた美しい都市だった。
 だが、その印象は門をくぐった瞬間、裏切られる。

 目の前には、上下左右に広がる別の都市があった。
 木造や石造りの建物が混在しつつ、空中に浮遊するような階層が何層にも重なり、建物の間を縫うように透明な魔導リフトが行き来している。

「……外から見たより、何倍も広くないか?」

《都市全体が多重構造です。物理的空間より内部空間の容量が著しく拡張されています。おそらく、空間圧縮および拡張魔法が施されています》

 レンはアイの説明を聞きながら、内心で苦笑した。

(そりゃ、「中に入ったらもっとビックリしますよ」って言われるわけだ)


 石造りの街路には水路が並走しており、魔法で動く小舟がスイスイと進んでいく。
 水路の上に架かるガラスの橋、魔導ランタンの灯り、そして水晶のように光る建物の窓――
 基本となる地上階層はまさに水の都だった。

 レンは圧倒されるように辺りを見回していた。

「これが……異世界、か……」
「見て、あれっ。船がタクシーみたいになってる!」

 フエムが指差した先には、水路を走る小舟が次々と行き交っている。
 乗客が乗り込むと、水路を滑るように自動で動き始めるそれは、魔法で動く自律舟だ。

(え? 今、フエムがタクシーって言った? この世界にもあるの? タクシー)

《レン。これは私の意訳ですよ》

 ……どうやら、魔法で動く舟のことを“好きな場所に行ける乗り物”みたいな意味で言ったらしい。


 観光案内所で地図を受け取った二人は、水路舟に乗って移動することにする。
 すれ違う乗合舟の人々が、みなリラックスした表情で景色を楽しんでいるのが印象的だった。

《都市の移動は、徒歩・魔導リフト・水路舟の三系統が主要です。交通網が合理的に設計されています》

「スゲェ所に来ちまったな。とりあえず宿を探すか」
 
 レンとアイ、そしてフエムはすぐ近くの乗り場から水路舟に乗り、宿泊施設がある商業区を目指した。


「うわあ、あの宿! 見て見て! 窓の形がハート! あそこにしよー?」

 商業区に入り、舟を降りたところでフエムがはしゃぐ。
 レンは走り出そうとしたフエムの体をとっさに掴んで止めた。

「ダメダメ! アレはダメ! あそこは宿泊施設だけどそーゆー所じゃないの!」
「えー……かわいいのに……」

《年齢対象――生殖かつ――》

「余計な説明は、せんでよろしい!!」

 アイの説明を遮ったレンは不服そうにするフエムを引っ張りながら、ラブホテルから離れた。


 その後――
 水辺沿いに佇む、外観が可愛らしい木造の宿をフエムが見つけた。
 レンが「本当にここでいいのか?」と聞く前に、フエムはもう駆け出している。

 看板には「旅籠はたごカミュエル」――柔らかな字体で書かれていた。

 中は質素ながらも清潔で、明るい日差しが差し込むロビー。
 受付の初老の女性がにこやかに迎えてくれる。

「いらっしゃいませ、お二人様?」
「ええ。部屋、空いてますか?」
 
 チェックインを済ませて、案内された二階の部屋に入る。
 部屋に荷物を置き、窓から水辺を見下ろしながら、レンは呟いた。

「……なんだか、思ってた異世界とちょっと違うな」

《それはあなたの中に“中世ヨーロッパ風”という固定観念があったためでしょう。この都市は明らかにそれを超えた文明水準を持っています》

 これまで森や村で過ごしていた時間とは明らかに違う。
 レンは今、自分が本当に異世界に来たのだということを、肌で実感していた。

「まあな。正直、俺はこの世界に科学なさそうだから文明無双できると思ってたよ」

《それは流石に浅慮ですね。この世界が魔法でできているのなら、当然、その魔法を極限まで発展させた文明になるはずです》

「そりゃ、ごもっとも」

 そんな話を余所に、連れてきた少女は楽しそうだ。
 フエムはベッドの上でころころ転がりながら、ニコニコと言う。

「でもね! ここも、すっごくかわいいから、泊まれてうれしいよっ」
「そいつは何よりだ」
 
 人の営みが変わっても、人の努力や反応までは変わらない。
 当たり前のことに気付かされるレンであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』

チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。 気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。 「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」 「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」 最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク! 本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった! 「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」 そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく! 神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ! ◆ガチャ転生×最強×スローライフ! 無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!

72時間ワンオペ死した元球児、女神の『ボッタクリ』通販と『絶対破壊不能』のノートPCで異世界最強のコンビニ・スローライフを始める

月神世一
ファンタジー
「剣? 魔法? いいえ、俺の武器は『鈍器になるノートPC』と『時速160kmの剛速球』です」 ​あらすじ ブラックコンビニで72時間連続勤務の末、過労死した元甲子園優勝投手・赤木大地。 目覚めた彼を待っていたのは、コタツでソシャゲ三昧のダメ女神・ルチアナだった。 ​「手違いで死なせちゃった☆ 詫び石代わりにこれあげる」 ​渡されたのは、地球のAmazonもGoogleも使える『絶対破壊不能』のノートPC。 ただし、購入レートは定価の10倍という超ボッタクリ仕様!? ​「ふざけんな! 俺は静かに暮らしたいんだよ!」 ​ブラック労働はもうこりごり。大地は異世界の緩衝地帯「ポポロ村」で、地球の物資とコンビニ知識、そして「うなる右腕(ジャイロボール)」を武器に、悠々自適なスローライフを目指す! ​……はずが、可愛い月兎族の村長を助けたり、腹ペコのエルフ王女を餌付けしたり、気づけば村の英雄に!? ​元球児が投げる「紅蓮の魔球」が唸り、女神の「ボッタクリ通販」が世界を変える! 異世界コンビニ・コメディ、開店ガラガラ!

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

若返ったオバさんは異世界でもうどん職人になりました

mabu
ファンタジー
聖女召喚に巻き込まれた普通のオバさんが無能なスキルと判断され追放されるが国から貰ったお金と隠されたスキルでお店を開き気ままにのんびりお気楽生活をしていくお話。 なるべく1日1話進めていたのですが仕事で不規則な時間になったり投稿も不規則になり週1や月1になるかもしれません。 不定期投稿になりますが宜しくお願いします🙇 感想、ご指摘もありがとうございます。 なるべく修正など対応していきたいと思っていますが皆様の広い心でスルーして頂きたくお願い致します。 読み進めて不快になる場合は履歴削除をして頂けると有り難いです。 お返事は何方様に対しても控えさせて頂きますのでご了承下さいます様、お願い致します。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

処理中です...