俺のスキル『AI』は、今日も世界を最適化する。

肯定ペンギン

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第六話 魔法都市ディシア

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 いくつかの中継点を挟んで、王都への旅は終わりを迎えようとしていた。

 街道を進んでいた馬車が、ゆるやかな丘を越える。
 視界が開けた瞬間、レンは思わず息を飲んだ。

「……なんだ、あれ……」

 眼下に広がるのは、まるで絵画の中の世界だった。

 巨大な円形都市が広がっていた。都市の中心には純白の城がそびえ、空へと伸びる尖塔の上空に、虹が掛かっている。しかもそれは自然のものではない――光が揺らぐように輝き、虹は動かず、まるでそこに留まっているかのようだった。

 都市の周囲は高く厚い城壁に囲まれているが、壁面からはいく筋もの水流が流れ落ちている。
 それらは人工の川となって市街に流れ込み、やがてまた魔法的に吸い上げられ、空中へと還っていく――水が、上から下へ、そしてまた上へと循環する都市。

「……水の都、ってこういうことか……」
「ね、すごいでしょ!」

 横で声を弾ませたのは、すっかり元気になったフエムだ。
 目を輝かせて、手すりから身を乗り出すように都を見つめている。

 馬車の中では、先ほど知り合った老商人が笑っていた。

「初めてだと、皆さん同じ反応をされますな。ま、普通の町並みなんて想像されてると、特にね」
「……まさか、ここまでとは思わなかった。魔法都市って、レベルが違うな……」
「王都の中に入ったら、きっと今以上にビックリされますよ」

《観測結果:都市規模は直径約二キロ。魔力による空間制御、結界、気候安定処理など、多数の魔術演算式が都市単位で稼働中です》

 脳内に響く《アイ》の声は、いつもの通り冷静だったが、どこか淡い興奮も混じっているような気がした。


 やがて馬車が城門へと近づき、門兵たちが通行者に身分証の提示を求め始めた。
 それを見て、レンの心臓が少し跳ねる。

「……やばい、そういえば俺、身分証なんて……」

 焦り始めたレンの袖を、フエムが小さく引いた。
 差し出されたのは一通の封筒。フォルドゥスの村を出る直前、老神官が彼女に託したものだ。

「……これ、あの時のおじいちゃんが。『渡しておきなさい』って」

 中にあったのは、見事な筆致で書かれた紹介状だった。
 “村を救ってくれた賢き旅人である。心より感謝し、信頼に足る者として、当人の通行を願う――”とある。

「紹介状、ですか。……フォルドゥスの老神官の筆ですね。では、ご通行を」

 門兵が軽く頭を下げる。
 そのまま、馬車は都の中へと進み出す。

「あの爺さん、もしかして凄い人だった?」

《一筆で王都へ入れる位には確かな人物のようです》

「何か、スキル鑑定で嘘ついたの、ちょっとだけ心が痛むなあ……」

 レンのボヤキは進む馬車の音にかき消された。


 城門を抜けた瞬間、レンは一瞬、立ち止まった。

「……なんだ、これ」

 外から見た王都は、確かに城壁と水路に囲まれた美しい都市だった。
 だが、その印象は門をくぐった瞬間、裏切られる。

 目の前には、上下左右に広がる別の都市があった。
 木造や石造りの建物が混在しつつ、空中に浮遊するような階層が何層にも重なり、建物の間を縫うように透明な魔導リフトが行き来している。

「……外から見たより、何倍も広くないか?」

《都市全体が多重構造です。物理的空間より内部空間の容量が著しく拡張されています。おそらく、空間圧縮および拡張魔法が施されています》

 レンはアイの説明を聞きながら、内心で苦笑した。

(そりゃ、「中に入ったらもっとビックリしますよ」って言われるわけだ)


 石造りの街路には水路が並走しており、魔法で動く小舟がスイスイと進んでいく。
 水路の上に架かるガラスの橋、魔導ランタンの灯り、そして水晶のように光る建物の窓――
 基本となる地上階層はまさに水の都だった。

 レンは圧倒されるように辺りを見回していた。

「これが……異世界、か……」
「見て、あれっ。船がタクシーみたいになってる!」

 フエムが指差した先には、水路を走る小舟が次々と行き交っている。
 乗客が乗り込むと、水路を滑るように自動で動き始めるそれは、魔法で動く自律舟だ。

(え? 今、フエムがタクシーって言った? この世界にもあるの? タクシー)

《レン。これは私の意訳ですよ》

 ……どうやら、魔法で動く舟のことを“好きな場所に行ける乗り物”みたいな意味で言ったらしい。


 観光案内所で地図を受け取った二人は、水路舟に乗って移動することにする。
 すれ違う乗合舟の人々が、みなリラックスした表情で景色を楽しんでいるのが印象的だった。

《都市の移動は、徒歩・魔導リフト・水路舟の三系統が主要です。交通網が合理的に設計されています》

「スゲェ所に来ちまったな。とりあえず宿を探すか」
 
 レンとアイ、そしてフエムはすぐ近くの乗り場から水路舟に乗り、宿泊施設がある商業区を目指した。


「うわあ、あの宿! 見て見て! 窓の形がハート! あそこにしよー?」

 商業区に入り、舟を降りたところでフエムがはしゃぐ。
 レンは走り出そうとしたフエムの体をとっさに掴んで止めた。

「ダメダメ! アレはダメ! あそこは宿泊施設だけどそーゆー所じゃないの!」
「えー……かわいいのに……」

《年齢対象――生殖かつ――》

「余計な説明は、せんでよろしい!!」

 アイの説明を遮ったレンは不服そうにするフエムを引っ張りながら、ラブホテルから離れた。


 その後――
 水辺沿いに佇む、外観が可愛らしい木造の宿をフエムが見つけた。
 レンが「本当にここでいいのか?」と聞く前に、フエムはもう駆け出している。

 看板には「旅籠はたごカミュエル」――柔らかな字体で書かれていた。

 中は質素ながらも清潔で、明るい日差しが差し込むロビー。
 受付の初老の女性がにこやかに迎えてくれる。

「いらっしゃいませ、お二人様?」
「ええ。部屋、空いてますか?」
 
 チェックインを済ませて、案内された二階の部屋に入る。
 部屋に荷物を置き、窓から水辺を見下ろしながら、レンは呟いた。

「……なんだか、思ってた異世界とちょっと違うな」

《それはあなたの中に“中世ヨーロッパ風”という固定観念があったためでしょう。この都市は明らかにそれを超えた文明水準を持っています》

 これまで森や村で過ごしていた時間とは明らかに違う。
 レンは今、自分が本当に異世界に来たのだということを、肌で実感していた。

「まあな。正直、俺はこの世界に科学なさそうだから文明無双できると思ってたよ」

《それは流石に浅慮ですね。この世界が魔法でできているのなら、当然、その魔法を極限まで発展させた文明になるはずです》

「そりゃ、ごもっとも」

 そんな話を余所に、連れてきた少女は楽しそうだ。
 フエムはベッドの上でころころ転がりながら、ニコニコと言う。

「でもね! ここも、すっごくかわいいから、泊まれてうれしいよっ」
「そいつは何よりだ」
 
 人の営みが変わっても、人の努力や反応までは変わらない。
 当たり前のことに気付かされるレンであった。
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