俺のスキル『AI』は、今日も世界を最適化する。

肯定ペンギン

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第七話 今日から冒険者

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「俺は、冒険者になる!」

 王都ディシアに到着して三日。
 唐突なレンの発言にフエムは「おーっ!」と拍手した。
 しかし、もう一つの反応がない。

「あれ? アイ君?」

《おはようございます、レン。どうしました?》

「いや、『どうしました?』じゃなくて、俺は冒険者になるんだって」

《とうとう、世界の違いを受け入れられずに壊れましたか?》

「違うよ! 生活費のためだよ! あと、俺の夢のため」

《後者が主目的の確率、92%》

「それ絶対、分析してないだろ! いいじゃんか、憧れてたんだから」

 レンは悲痛の叫びを上げた。 
 男の子は冒険が好き。
 特にゲームの世界でしか味わえなかったものが今、目の前にある。飛びつかないわけがない。

《それで中央街区にある冒険者ギルドへ登録に行くのですか?》

「そうなんだけど……流石にこのままじゃ恰好がつかないか」

 現在のレンの格好は、先の村で整えた旅装――粗末ながら清潔な麻布のチュニックに、動きやすいズボンと簡素な腰帯。足元は手作りの革靴。あとは毛織りのマント。
 ちなみに町ですれ違う冒険者にそんな格好をした者はほぼおらず、完全に浮いていた。

「そーび! そーび!」

 フエムの言うとおりである。
 まずは装備を整えることにした。


 宿を出てすぐ、商業区に向かう途中の水路沿いにある小規模な装備屋を覗く。道具屋に武具屋、魔導店といった看板が並ぶあたりは、冒険者見習い向けの品を多く扱っているようだった。

 レンが入ったのは、革製品がずらりと並んだ武具店。中には肩当てから胸当て、手甲、靴まで、軽装用のものが丁寧に並んでいる。見ているだけでもレンのテンションは上がった。

「おっ、新人さんかい? 冒険者志望かな?」

 店の奥から出てきたのは、丸太のような腕をした初老の親父だった。片腕が義手のようになっており、元冒険者の風格を漂わせている。

「そうなんです。まだ登録前なんですけど……初心者向けの装備を見たいです」
「任せな。無駄に高い金属鎧なんぞより、最初はこれだ」

 親父が棚から取り出したのは、軽めの革鎧セット。胸当てと肩、すね用の装甲が揃っている。

「これは《ヤブヘビ革》っていってな、軽くて強い。多少の牙でも通さねぇ」

 試着してみると、多少ぎこちないが動きやすさは悪くない。

「それと……武器は何を使う?」
「うーん、剣と……スリング?」
「スリングか。珍しいもん使うな。まあ、小型の剣と投石具の併用なら、こういう腰帯が便利だぞ」

 道具を吊り下げられるベルトに、予備の石を入れるポーチ付きのスリング。レンの使い方を見て、店主が丁寧にアドバイスしてくれる。

《装備品の選択及び品質に問題なし。量も過不足なく、信頼できる人物と推測できます》

「ありがとう、助かります……これでいくらですか?」
「全部で銀貨五枚ってとこだな。……それと一つ、忠告しておく」

 親父が目を細める。

「魔法の都ってのは、外から見たのとは違って、妙な依頼も多い。常識で測れねぇやつもいる。スキルがあるなら、それに甘えすぎるなよ」
「……はい、気をつけます」
「ははは! 素直なやつだ。コイツはサービスだ。受け取っときな!」

 親父はニカッと笑うと小さな袋を放り投げてきた。
 受け取るとそれなりの重量感があった。

「これは?」
「スリング用に作った試作品だ。石を飛ばすよりも威力が出る」

《袋の内部をスキャンした結果、スリング用の金属弾と判明。石と比べて威力:+70%》

「ありがとうございます!」

 レンは親父に礼を言って店を出る。手には自分専用の装備。手にした時の重みが、これから始まる「本物の冒険」を実感させた。

「レンお兄ちゃん、かーっこいい!」

 装備を一新し、見た目は冒険者になったレンをフエムは目をキラキラさせながら見る。
 そして頭の中から、アイの声が響く。

《選定完了。初期装備としては、機動性と応用性の両立。最適》

「うん、よし……じゃあ、ギルドに行こうか」

 レンはそう言うと、夢に向かって歩き出した。



 王都ディシアの中央街区には王都の治安を守る騎士団の本部があり、民の生活に関わる手続きを取り扱う役所や紛争を解決する裁判所、そして主に町中の問題を解決する冒険者ギルドがある。

 冒険者ギルドは、石造りの重厚な建物でありながら、入口には魔力の篭った金属細工が施され、どこか先進的な印象を受ける構造だった。昼下がりの陽光の中、レンはフエムと連れだってその扉をくぐった。

 内部は想像以上に活気に満ちていた。依頼掲示板の前で言い合う冒険者たち、装備の整備に余念のない者、そして受付で手続きに並ぶ人々。戦場のような空気と、商取引のような整然さが同居している。

「ここが……冒険者ギルドか」

《想像していたより秩序的ですね。情報の収集と職業的機能が統合された施設と見受けられます》

 フエムは緊張したようにレンの袖を握っていたが、受付まで来ると「わたし、待ってるね」と控えめに椅子に腰掛けた。

 レンは一つ深呼吸し、受付へ進む。

 カウンターには長い茶髪を一つに束ねた、凛とした印象の女性がいた。歳は二十代前半だろうか。目が合うと、プロらしい穏やかな笑顔で応じてくれる。

「ようこそ、ディシア冒険者ギルドへ。ご登録ですか?」
「ええ、お願いします」
「かしこまりました。お名前と、スキル証明書の有無をお伺いします」

 ここだ。レンは一瞬だけ躊躇とまどいを見せたが、すぐに平静を装って答えた。

「証明書はありません。……鑑定で」

 女性は頷き、足元の引き出しから球体を取り出して机の上に置いた。淡い青白い輝きを湛えた水晶だった。

「では、こちらに手を。神の加護により、あなたのスキルを拝見させていただきます」

 レンは無言で頷くと、右手を球に載せた。

(アイ、頼む)

《了解。鑑定魔術式の干渉パターンを解析、干渉波形を捏造します。表示スキルは――》

 ――ピィィィィ……

 淡い音を響かせ、球が短く光った。数秒後、球体の上部に文字が浮かび上がる。

【器用 Lv1】

【危機感知 Lv1】

【基礎魔力操作 Lv1】

 受付嬢が内容を確認すると、小さく頷いた。

「問題ありません。スキルはごく一般的なものでしたので、登録は通常通り行えます。初期ランクは『見習い』となりますが、依頼をこなせば昇格していきますよ」
「ありがとうございます」
「こちらがギルドカードです。無くさないようお気をつけて」

 手渡されたカードは、魔力でコーティングされた板状の物体だった。裏面には名前とランク、そしてスキルが刻まれている。レンは軽く指先でなぞった。

(ふぅ……)

《現状では問題なし。偽装出力は当面維持可能です。ただし高位神官などが関与する場では注意が必要です》

(了解。慎重にいこう)

 受付のやりとりを終えて戻ると、フエムがにこにことレンを見上げた。

「お兄ちゃん、かっこよかった!」
「……ありがと」

 ほんの少し、背中の荷が下りた気がした。
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