俺のスキル『AI』は、今日も世界を最適化する。

肯定ペンギン

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第八話 初めての依頼

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 ギルドに登録した日の午後、フエムを宿に預けたレンは新調した装備と共に初めての依頼に挑戦することにした。

 ギルドの依頼は冒険者のランクと仕事の種類、そして危険度に応じて色分けされている。
 これは主に向こう見ずな新米冒険者に無理をさせないようにするためで、冒険者の仕事が場合によっては命に関わる仕事であることを如実に表している。

 レンは掲示板に貼られている黄色の紙を手に取った。黄色の依頼は調査や研究など、謎の解明を任される依頼を表している。

 《水の都ディシア 水路異常の原因調査》

 内容は、王都の心臓部ともいえる水路の一部で、水が不自然に濁り、流れが滞っているというものだった。

「これならアイの力の見せ所だな」

《分析や原因究明は得意分野です》

 レンは早速、アイと共に中央街区にある水路管理施設を訪れる。


 受付で事情を説明すると、案内されたのは技術者らしき初老の男性だった。
 原因不明に悩まされているのか、その顔には疲労が濃く見えた。

「この都市の水は、我々の生活そのものだ。それがおかしくなるのは由々しき事態でな……。依頼を受けてくれて感謝する」

 レンは依頼の概要を聞きながら、アイに状況の分析を指示する。
 王都ディシアの水流は地下に張り巡らされた無数の水路を通して浄化し、魔法で水を吸い上げて循環させている。
 当然、その水路一つ一つを確認していたら、いくら手があっても足りない。

《水路の異常は、特定の区画に集中しています。物理的、魔術的な原因が推測されます。現場へ急行してください》

 レンは男にお礼を言って、問題の区画へと向かった。


 ディシアの中央街区を出て水路舟に乗り、異変が起きている地下水路の入口へ向かう。
 入口を管理する役人に依頼書を見せると、地下へと続く階段の魔法錠を開けてくれた。

「中は魔法灯がついてはいるが、それでも薄暗い。それに床が濡れているから足元に気をつけてくれ」
「わかりました」
 
 レンは礼を言うと、地下水路へと降りていった。


 中は想像するよりも明るかった。確かに薄暗くはあるが、等間隔に魔導灯がついており、歩く分には困らなかった。

《周囲の安全レベル:A 特に害意を持った存在は確認できず》

 階段を降り、通路沿いにしばらく歩くと音が聞こえてきた。更に歩くと開けた空間に出る。
 上から滝のように水が落ちている場所だった。

「スゲー光景だな」

 レンは安全用の手すりから身を乗り出しながら言った。

《どうやら王都中の水が落ちてくる場所の一つと推測されます。水質に問題があった場合、飛沫感染のおそれがあります》

「まあ、性質としては下水だもんな」

 レンは中央の滝をグルリと囲むように配置された通路を通って、さらに奥へと歩を進めた。
 そのままトンネルを通り、別ブロックへ移動中にアイが反応した。

《この先に水質の悪化を確認。そこに大型の魔物反応あり。問題の原因の可能性:極大》

「この先に魔物? 特に何も見えないけど?」

 レンが先を見渡すと、ある一点から水がヘドロのように濁っている。おそらくこれが水路が詰まっている原因だと分かるが、アイの言う大型の魔物は見えない。

《左前方20m。レン、環境偽装型の魔物です》

 アイが警告するのと“それ”が動き出すのは、ほぼ同時だった。
 見つかったのを理解したかのように、水路の壁の一部が突然歪み、色が変わり始める。
 レン達の前に、緑色をした巨大なスライムが不快な音を立てながら現れた。

「これ、スライムか!? 想像より三倍デカい!」

《実際、三倍ほど大きいようです。レン、気をつけてください! あの魔物は溶解機能を持っています。取り込まれたら即死します》

「そくしぃー!?」

 レンが叫びながら横に飛び退くのとスライムが突っ込んでくるのはほぼ同時だった。
 さっきまでレンが立っていた場所では、ドロドロに溶かされた石が、煙を上げながらシューッと音を立てている。

「うわー、なんじゃコリャ!」

《意外と素早いようです。距離を取り戦うことを推奨》

「言われなくても」

 レンはその場から駆け出し、新調した腰のベルトからスリングと鉄球を取り出すとアイに尋ねた。

「アイツの弱点は?」

《分析完了。中央の核が生命維持の要のようです》

「補助頼む!」

《言われなくても》

 レンが振り返り、狙いを定めてスリングの紐を弾く。
 弾はスライムに命中したが分厚すぎるのか、核に届く前に溶かされてしまった。

「うおー、効かねえ」

《観測予想。大型のため単発では効果が薄い。レン、同じところを連続で狙ってください》

 アイはスライムの着弾した場所に注目した。
 ゆっくりと元に戻りつつあるが、着弾した場所はへこんでいた。

「喰らえ!」

 レンは逃げながら鉄球を放ち、同じ箇所を狙い続ける。
 ちょうどトンネルの出口へ到達した時、鉄球はスライムの核をぶち抜いた。
 スライムの動きが止まり、激しく脈動し始める。

「やったか?」

《それはフラグです、レン。分析予測。おそらく爆発します。レン、物陰へ退避を》

 レンが「ひえ……」と言いながら、角に身を隠すとパンッ! という大きな音を立ててスライムが爆散した。
 辺り一面にスライムの残骸らしきものが飛び散り、壁や床を削るように溶かしていた。

「最後まで迷惑この上ない……」

《生命反応消失。魔物討伐完了しました。水質の改善の兆しあり。直に戻ると思われます》

「これで依頼完了ってことか」

 クタクタになりながらレンはボヤいた。
 アイが原因を補足する。

《あのスライムは異常個体です。魔法廃液によって異常成長したと推測されます》

「魔法廃液?」

《魔力が含まれた物体のことです。魔法施設からの漏洩あるいは不法廃棄されたものを取り込んだと考えられます》

「おおう。ファンタジー世界にも環境破壊の波が」

 レンは嘆息した。


 その後、念の為に他の原因がないか確認し終えたレンは、中央街区の水路管理施設に戻り、結果を報告した。

「なるほど、そんな事があったのか。確かに最近、金を払いたがらない業者が不法投棄する事案が相次いでてね。これからは、より一層、取り締まる必要がありそうだな。ありがとう。協力感謝する」

 初老の男性は満足そうに頷くと、レンに礼を言った。


 無事依頼を終えたレンは冒険者ギルドへと戻り、事の顛末を受付で報告した。

「通常の三倍ほどのスライムですか。しかも溶解能力を持ったスライムを一人で……よく無事でしたね」

 スキル登録の時の受付嬢、ネルヴァはその理知的な目を細めながらレンを見た。
 その目は『本当にお前は新米冒険者なのか?』と問いたげであった。

「いや、たまたまですよ。次はどうなるかわかりませんから」

 レンは疑念を払拭するようにドギマギしてみせた。

《これで目をつけられないと良いのですが》

(俺も、そう願うよ……)

 活躍して褒められるのはいいが、できる限り悪目立ちはしたくない。
 レンの二律背反の冒険者生活は、まだまだ始まったばかりだ。
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