たまにはこんなファンタジー

肯定ペンギン

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天眼の軍師 イザヤ

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 かつて、大陸の東方にある小国アステルには、一人の異能の軍師がいた。彼の名はイザヤ。物静かで目立たぬ風貌だが、その瞳には神の視点が宿ると囁かれた。彼が持つは伝説のスキル『天眼』。その力は単なる千里眼や予知能力とは一線を画していた。

 イザヤの『天眼』は戦場の地形、敵味方の配置、兵士一人一人の士気、将の心境、さらには未来に起こりうる無数の可能性まで、ありとあらゆる情報をまるで俯瞰図のように把握することを可能にした。それはまるで神が盤上の駒を眺めるかのように、世界の摂理が彼には見えていたのだ。

 アステルは豊かな国ではなかったが、イザヤの『天眼』によって幾度となく強大な隣国の侵略から国を守り抜いてきた。

 イザヤがその真価を発揮したのは、彼がまだ二十歳にも満たない若造だった頃、大国ゾルダの侵攻を受けた時だ。ゾルダ軍は数においてアステル軍の五倍。誰もがアステルの滅亡を確信した。

 しかし、イザヤは冷静だった。彼は高台に陣取り、目を閉じ、そして開いた。彼の脳裏には既に無数の未来の分岐点が浮かび上がっていた。ゾルダ軍の進軍経路、伏兵の可能性、司令官の性格から導き出される次の手。それらすべてが、彼には手に取るように見えた。

「敵本隊は、あそこに見える森の奥に伏兵を潜ませています」

 イザヤは、誰もがただの木々だとしか思わない場所を指差した。

「そして、その伏兵は我らが退路を断つべく、三刻後に動き出します。我々は、その前に森を迂回し、敵の本陣を突き崩します」

 誰もが半信半疑だった。だが、イザヤの言葉通りに進軍すると、確かに森の奥にはゾルダの精鋭部隊が潜んでいたのだ。そして、イザヤの指示に従い本陣を急襲すると、狼狽したゾルダの将軍は指揮系統を失い、大軍は統率を失って潰走した。

この勝利は『森の奇跡』と呼ばれ、イザヤの名は大陸中に響き渡った。


 しかし、『天眼』の力は、イザヤに計り知れない重荷も与えた。未来が見えるということは、避けられない悲劇や、人々が下すであろう愚かな選択もまた見えてしまうということだ。彼は、仲間が命を落とす可能性、国が窮地に陥る未来を何度も見てきた。その度に、彼は最善手を模索し、時には非情とも思える決断を下さねばならなかった。

 ある時、国を揺るがす大規模な反乱が起きた。イザヤは反乱軍の中に、幼い頃から親しくしていた友の姿を見た。『天眼』は、その友が今回の反乱で命を落とすことを示していた。イザヤは苦悩した。友を救う道を探したが、友を救えば、より多くの国民が犠牲になる未来が見えた。

 彼は心を鬼にし、友が討ち取られる経路を読み、そこへ手勢を差し向けた。反乱は鎮圧されたが、イザヤの心には深い傷が残った。人々は彼の冷徹な采配を恐れ、畏敬の念を抱きながらも、どこか距離を置くようになった。

 彼は常に孤独だった。誰にも打ち明けられない未来の重圧を一人で抱え込み、時に人知れず涙を流した。しかし、彼には国を守るという使命があった。


 幾多の戦いを経て、アステルは大陸有数の強国へと成長した。イザヤの『天眼』は、もはや戦場を勝利に導くだけでなく、国の内政、外交、さらには未来の技術革新の芽までをも見通すようになっていた。

 彼は、人々が争いのない平和な世界を築けるよう、見通した未来から最善の道筋を示し続けた。それは、人々の自由な選択を尊重しつつも、破滅への道を避けるための綱渡りのような行為だった。

 老境に入り、イザヤの『天眼』はより深く、より広大になっていた。彼はもはや、個々の戦術や政治の駆け引きを超え、人類全体の行く末、あるいは宇宙の摂理にまで思いを馳せるようになっていた。

 彼は知っていた。『天眼』は、ただ未来を予測するだけのスキルではない。それは、人々が自らの意思で未来を切り拓くための可能性の道標なのだと。そして、彼の役目は、その道標を静かに示し続けることだと。
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