たまにはこんなファンタジー

肯定ペンギン

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問題児ギルドの監督官、ロランの奮闘記

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「ま、まさか、この私が……?」

 ロランは、国王から直々に下された辞令を前に、呆然と立ち尽くしていた。長年、王国の財務局で地味ながら堅実な仕事をしてきた彼の新たな任務は、よりによって『自由冒険者ギルド』の監督官。それも、悪名高き『はぐれ者の巣窟』と揶揄される、北の辺境に位置するギルドの、である。

 赴任初日、ロランは早くも洗礼を受けることになる。ギルドの扉を叩くと同時に、彼を出迎えたのは、血走った目でロランを睨みつける大男だった。

「あんた、新入りか? 随分とひ弱そうじゃねぇか。ここでは足手まといはごめんだぜ!」

その男は、かつて『狂戦士』の異名で名を馳せた、腕は立つが酒癖と女癖が最悪のベテラン冒険者、グロムだった。ロランが自己紹介をしようとした矢先、今度は奥から甲高い声が響く。

「あらあら、今度は随分と小綺麗な坊やが来たわねぇ。ねぇ、お兄さん、私と楽しい一夜を過ごさない?」

 妖艶な笑みを浮かべながらロランに迫るのは、『魅惑の魔女』の異名を持つ元情報屋、リリス。彼女は情報収集には長けているものの、金に汚く、すぐに厄介事を持ち込んでくる常習犯だった。

 そして、ギルドの片隅では何やら怪しげな薬草を調合している青年がいた。彼は『奇妙な錬金術師』のハル。類稀なる才能を持つものの、常に奇抜な研究に没頭し、その過程で度々爆発事故を起こす問題児だ。というか、これはもう異名でもなんでもない。

 ロランの苦悩は尽きなかった。

 任務その1:依頼の横取り合戦を止めるべし!

 冒険者たちは皆、実力は確かだが己の利益しか考えていない者ばかり。報酬の高い依頼が出ると、彼らは我先にと奪い合い、時には取っ組み合いの喧嘩に発展することも珍しくなかった。ロランは彼らを公平に、かつ効率的に依頼を割り振るという、不可能に近い任務に直面した。

「グロム! その依頼はハルが既に受けている!」
「うるせぇ! 俺の方が適任だ!」
「この依頼は私が情報収集したんだから、私に優先権があるわ!」

 ロランは毎日のように、彼らの怒声と罵声に晒された。会議を開いても彼らはまともに話を聞かず、すぐに自分の主張を押し通そうとする。ロランは頭を抱えながら、根気強く彼らを説得し、時には国王の権威をちらつかせ、なんとか秩序を保とうと奮闘した。

 任務その2:酒代のツケを回収すべし!

 ギルド併設の酒場でのツケの支払いも、ロランの頭を悩ませる種だった。特にグロムは酒を飲むだけ飲んで、いつも「ツケにしとけ!」と豪語する。

「グロム、先月の酒代がまだ未払いだ!」
「あぁ? 細けぇこと言うな! 次の稼ぎで払ってやるよ!」

 ロランは毎日、彼らの懐具合と睨めっこし、あの手この手で滞納金を回収しようと試みた。時にはハルに協力を仰ぎ、彼が開発した『借金返済促進薬』なる怪しげな薬を試そうとしたが、それは別の騒動を引き起こす結果となった。

 任務その3:爆発事故と不審な研究を止めさせるべし!

 ハルの錬金術の研究はギルドにとって常に爆弾だった。いつ、どこで、何が爆発するかわからない。彼の研究室からは、しょっちゅう異臭が漂い、奇妙な音や光が漏れ出していた。

「ハル! 今度は何を爆発させたんだ!?」
「あ、いや、これは新薬の試作で……」

 ロランは爆発で半壊した壁や焦げ付いた床を見て、ため息をつくばかり。研究の成果は素晴らしいものもあったが、その過程で発生する被害は甚大だった。ロランはハルに安全管理を徹底させるため、防火訓練を義務付けたり、研究室への立ち入りを厳しく制限したりと、あらゆる手を尽くした。


 来る日も来る日も、ロランの苦労は続いた。しかし、ロランは諦めなかった。彼らの問題行動の裏には、どこか不器用ながらも、冒険者としての誇りや仲間意識があることに気づき始めていたからだ。

 ある日、ロランはギルドの運営に関する改善策を提案した。それは依頼の難易度や報酬に応じてグループを分け、それぞれにリーダーを置くというものだった。最初は猛反発を受けたが、ロランは彼ら一人ひとりと向き合い、丁寧に説明を重ねた。

 驚くべきことに、その提案は徐々にではあるが、受け入れられ始めた。グロムは若手冒険者の面倒を見るようになり、リリスは自身の情報網を活かして、より効率的な依頼斡旋に協力するようになった。ハルは自分の研究成果がギルド全体の役に立つことに喜びを感じ、以前よりも爆発事故が減った。

 ロランは、彼らが決して『問題児』なのではなく、『個性が強すぎるだけ』なのだと理解した。そして、その個性を活かすことでギルドが驚くほどの力を発揮することを知ったのだ。

 今日もまた、ギルドでは騒がしい声が響き渡る。だが、そこには以前のような衝突ではなく、どこか賑やかな活気が満ちていた。ロランは相変わらず胃の痛い日々を送っていたが、彼らの成長を間近で見守れることに、ささやかな喜びを感じていた。

「はぁ、今日も一日が終わった……」

 夜空を見上げ、ロランは小さく呟く。彼の苦労はまだまだ続きそうだが、この問題児ギルドは、間違いなく王国にとって、かけがえのない存在になりつつあった。
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