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文化祭
文化祭4
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瀾が、紅茶と共にアップルパイを持ってくると乙の前にそっと置く。
「お待たせ致しました。
アールグレイティーとアップルパイでございます」
向かい側にもう一つのケーキセットを置くと瀾は、その席に着く。
「それは?」
「アプリコットティーです…」
「そうか…」
アプリコットティー…
それは以前、瀾が好んで飲んでいた紅茶だった。
乙は、紅く揺れるカップに視線を落としたまま静かに口を開いた。
「…無理を言ってしまって済まない」
「…いえ…」
それからまた静かな時間が続いた。
紅茶を飲み終わると乙は、スッと席を立つ。
瀾が教室の入り口まで送ると、やっと乙は口を開いた。
「美味しかった…ありがとう」
「いえ…」
そんな二人を見ていたクラスメイトは、何かの気を利かせたのか瀾に休憩を取るように勧めた。
半ば強引すぎるその勧めに瀾は、仕方なく乙と共に校内を歩くことになった。
特に行く当てもなく、いつの間にか中庭に来ていた。
風がそよぎ、瀾の髪を揺らす。
こんな時、どんな言葉をかければ良いのだろう?
いつもならば不器用なりにも会話くらいはできるというのに。
相手が瀾というだけで…
自分の想いに気づいてしまったというだけで、こんなにも言葉は口から出ることを拒むものなのだろうか。
ただ、横目で瞳に入れることしかできないもどかしさと胸の痛みに、乙はまた目を伏せてしまう。
「あの…ごめんなさい…」
「え?」
「無理に付き合わせてしまって…
あんなことを言った私と一緒にいても楽しいわけないですよね…」
「…そんなことない…俺の方こそ…」
いつまでも続く沈黙。
「今日は…ありがとう…送るよ、教室まで…」
「いえ、大丈夫です…一人で戻れますから…」
「…そうか」
そういう言うと乙は、何か思い出したように一つの封筒を瀾に差し出した。
「これ…ずっと返せなかったから…」
瀾は封筒を受け取り、チラリと中を開けると少し寂しそうに乙を見つめた。
乙もそんな瀾の表情を言葉にならないもの悲しい瞳で見つめた。
今、名前を呼べたなら…
抱きしめることが出来たら、どんなに満たされるだろう…
そんな想いをグッと抑え、乙は最後の言葉を振り絞った。
「じゃ…」
「はい…」
風に撫でられた髪を揺らし、乙と瀾は反対の方向へ歩いていく。
こうして二人の距離は、また離れていったのだった。
「お待たせ致しました。
アールグレイティーとアップルパイでございます」
向かい側にもう一つのケーキセットを置くと瀾は、その席に着く。
「それは?」
「アプリコットティーです…」
「そうか…」
アプリコットティー…
それは以前、瀾が好んで飲んでいた紅茶だった。
乙は、紅く揺れるカップに視線を落としたまま静かに口を開いた。
「…無理を言ってしまって済まない」
「…いえ…」
それからまた静かな時間が続いた。
紅茶を飲み終わると乙は、スッと席を立つ。
瀾が教室の入り口まで送ると、やっと乙は口を開いた。
「美味しかった…ありがとう」
「いえ…」
そんな二人を見ていたクラスメイトは、何かの気を利かせたのか瀾に休憩を取るように勧めた。
半ば強引すぎるその勧めに瀾は、仕方なく乙と共に校内を歩くことになった。
特に行く当てもなく、いつの間にか中庭に来ていた。
風がそよぎ、瀾の髪を揺らす。
こんな時、どんな言葉をかければ良いのだろう?
いつもならば不器用なりにも会話くらいはできるというのに。
相手が瀾というだけで…
自分の想いに気づいてしまったというだけで、こんなにも言葉は口から出ることを拒むものなのだろうか。
ただ、横目で瞳に入れることしかできないもどかしさと胸の痛みに、乙はまた目を伏せてしまう。
「あの…ごめんなさい…」
「え?」
「無理に付き合わせてしまって…
あんなことを言った私と一緒にいても楽しいわけないですよね…」
「…そんなことない…俺の方こそ…」
いつまでも続く沈黙。
「今日は…ありがとう…送るよ、教室まで…」
「いえ、大丈夫です…一人で戻れますから…」
「…そうか」
そういう言うと乙は、何か思い出したように一つの封筒を瀾に差し出した。
「これ…ずっと返せなかったから…」
瀾は封筒を受け取り、チラリと中を開けると少し寂しそうに乙を見つめた。
乙もそんな瀾の表情を言葉にならないもの悲しい瞳で見つめた。
今、名前を呼べたなら…
抱きしめることが出来たら、どんなに満たされるだろう…
そんな想いをグッと抑え、乙は最後の言葉を振り絞った。
「じゃ…」
「はい…」
風に撫でられた髪を揺らし、乙と瀾は反対の方向へ歩いていく。
こうして二人の距離は、また離れていったのだった。
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