アリスと女王

ちな

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蓮という人

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一方の凛は、纏わりつく蜘蛛の糸をなんとか取り除こうと手足をバタつかせているところでした。
しかし、蜘蛛の糸はべたべたと張り付くばかりです。凛の絹みたいな髪の毛にも、腕にも足にもべったりと張り付き、藻掻けば藻掻くほど絡まってしまいました。
スパイダーは何も言わずに凛を抱え上げると、新たな蜘蛛の巣の場所まで運びました。
「まずは、その邪魔な手からだな」
「ひっいやあ!」
ナイフのように鋭い一番上の手を伸ばしました。そうして凛の腕に絡まる糸を絡ませ、作ったばかりの蜘蛛の巣へと絡ませました。
「やっ…!」
「おおっと…おい暴れんなよ」
スパイダーが凛の体を持ち上げることなど、造作もありません。両手を万歳の形で糸をぐるぐる巻きにされ、凛の足は地面から離れてしまいました。
「やっ痛いっ…!」
細くちいさな体とは言え、腕だけで全体重を支える体勢は大変に苦しいのです。足をばたつかせて支えを探しますが、蜘蛛の巣が揺れるだけでした。
スパイダーは新たに糸を吐きました。今度は凛の背中辺りに、蜘蛛の巣に直接絡ませました。
スパイダーの手足は、凛が知る蜘蛛と同じ計8本。そのうち一番上の2本は鋏角と呼ばれる部分で、鋭い鎌のようになっていました。
その下から計4本は、おぞましいことに、人間の手のようなつくりになっています。鞭はここに握られていました。
そうしてもっとおぞましいのは、残りの2本。ぺたりと床に足をつけると目立たないのですが、よく目を凝らすと、男性器のような形をしていました。凛はなるべく視界にいれないように努めました。恐ろしくて仕方がないのです。
スパイダーは4本の手を器用に動かし、吐き出した糸を絡み合わせて縄ほどの太さになるまで結い、それを凛の亀裂へと通しました。
「っひ…!」
ぐっと引き上げられると、凛のまっかな亀裂に蜘蛛の糸が食い込みました。
「やっ…やめっ…!」
凛の正面にゆったりと腰かける蓮は、アームレストに肘をつき、唇を三日月にしました。蜘蛛の巣に縫い付けられたしなやかな凛の肢体が、蓮から全てはっきりと見て取れます。満足そうに足まで組んで、一番恥ずかしい部分にぎっちりと糸を食い込ませ、顔をまっかに染める凛の姿を眺めていました。
スパイダーは糸の端を持ち、凛の正面頭上、角度で言うと丁度45度上に捕えられた蝶に向かって蜘蛛の巣を登りました。
「いぁああああっ!!」
「やめでええええええ!!!」
「あ゛あ゛あ゛ア゛゛ア゛゛ア゛゛ア゛!!!!」
途端、暗い森には絶叫が轟きました。続いて雨のような愛液シャワーが降り注ぎました。
蜘蛛の巣は連結して作られているため、巨大なスパイダーが巣に登ると、ぐわんぐわんと巣が揺れるのです。突起同士を糸で結ばれている蝶たちは目を白くして泡を吹き、穴という穴に羽虫を刺された蝶たちは喉を反らせて潮を吹きました。
スパイダーは一番近くにいた蝶の愛液を一舐めすると、持っていた糸を更に強く引きました。
「ああああっいたいっやああっ!」
今度は凛が叫びます。ぐいぐいと引っ張られた糸は、凛の背中から亀裂を通ってスパイダーの手の中です。しかも、凛は足を着いていません。体重の半分ほどを、この糸が支えているのです。引けば引くほどぎりぎりと食い込み、陰毛が生えていない柔らかな肉を締めるのでした。
勿論、スパイダーは手を緩めることはしません。
凛の斜め上にいた蝶は、美しい顔を歪め、ぼろぼろと涙を零していました。
もうどれくらいこんな拷問に耐えてきたのでしょう。豊満な乳房は鞭打たれて真っ赤になっています。膣の奥深くに巨大な芋虫を二匹も咥え、おしりの穴にもトンボ型の羽虫がゆるゆると出入りしています。
トンボ型の羽虫は、ちいさな球体が連なる部分を胴体とした不思議な虫です。羽は全部で16枚もありながら1枚がごく小さく、激しく羽ばたかないと飛ぶことができません。それゆえに、羽ばたくと胴体部分にあたる球体がそれぞれブーブーと音を立てて振動するのでした。
「スパイダーさま…お願いですお許しください…おうちに帰して…」
嗚咽まじりの蝶の懇願など、スパイダーは聞く気もありません。トンボ型の羽虫を乱暴に鷲掴むと、蝶のおしりの穴から乱暴に引き抜きました。
「ぅ゛ア゛゛ア゛゛ア゛゛ア゛゛ア゛゛ア゛!!!!!」
ぶしゃあああ…と音を立て、蝶は黄色い液体を噴射させました。
トンボ型の羽虫はびっしょりと濡れそぼっていて、あまり元気がありません。羽ばたきも弱くなっていました。
優に30センチはあろうかと思われるその羽虫を、スパイダーは乱暴に投げ捨てました。羽虫はふらふらと森の奥へと飛んで行きました。
「…うるせえよ」
低く唸るスパイダーは、凛の亀裂を苦しめる糸の端を、びくびくと痙攣する蝶の右足に結び付けました。
それから磔のようにして縫い付けていた糸を鋏角で切り落として開放し、再び後ろ手で拘束して蜘蛛の巣に縫い付けました。
勿論、その作業は静かに行ってなどいません。蜘蛛の巣が激しく揺れました。そのたびに悲鳴が上がり、愛液シャワーが降り注ぎました。
凛も気が気ではありません。自分の亀裂を苦しめる糸の端は、左足を高く上げさせられ、豊満な乳房を強調するようにして蜘蛛の巣に縫い付けられるあの蝶の右足に固定されてしまっているのです。
蝶の右足は固定されませんでした。
凛は薄い胸を激しく上下させ、目を見開いてスパイダーの動向を目で追いました。
スパイダーは蝶の膣奥に刺さる巨大な芋虫のようなものも乱暴に引き抜くと、糸を吐き出しました。
「やめて…見ないで…」
目を見開いているのは、あの蝶も同じです。虫がずっぷりと入っていた膣もアナルも、ぱっくりと大きく口を開けていました。蝶の目線はスパイダーでなく、至極穏やかな顔をしている蓮に向けられていました。
蝶とて、女性です。スパイダーだけでなく、男性に、それも若く美しい人──蓮に、こんな姿を見られるなんて沽券に関わることなのです。
ぽろぽろと涙を零す蝶をちらと見遣り、蓮はにっこりと笑いました。
「素敵な恰好だね」
蝶は顔をかっと真っ赤にさせ、俯きました。最も、高い位置で拘束されているため、俯いたところで顔を隠すことはできません。奥歯を噛み、体を震わせる蝶は息を吸いました。
「助けて…助けてください…おねがいですチェシャ…」
「スパイダー」
蓮が突然、地の底を這う声を上げました。そこにいた全員が落雷にあったように全身を硬直させました。もちろん、凛も例外ではありませんでした。
こんな格好をさせられながら、別の意味で冷や汗が止まりません。
この声を、凛は聞いたことがあります。蓮をひどく怒らせた時です。…いいえ、その時よりもずっと温度が低く感じられます。
心臓が嫌な音を立てて暴れました。
呼ばれたスパイダーも、明らかにおかしな汗を滴らせました。
あれだけ絶叫の嵐だったにもかかわらず、辺りは突然水を打ったように静まり返りました。
凛も呼吸すら潜めました。蓮の纏う空気に背中が凍り付きそうでした。

どれくらい時間が経ったのでしょう。数秒だったかもしれないし、数分だったかもしれません。誰もが息を潜め、背中を凍り付かせている異様な空間に、羽虫の鈍い羽音が妙に響き渡っていました。
ぴちょん。
何かの液体が水たまりに落ちました。蝶の愛液か、葉っぱに溜まった露かはわかりません。確かめようにも、首が錆びてしまったように動かないのです。この場にいる誰もがそうでした。
ふっと息を吐いた蓮は、足を組み替えました。
「凛がお待ちかねだよ。はやく気持ちよくしてあげて」
「おおお…お、おうっ…わーってるよ…」
強がって見せましたが、明らかに声が震えていました。
「あと、きみ」
蓮が目をすっと細めました。さっき声を上げた蝶は、死刑宣告でもされているような顔で蓮を見下ろしました。
「…もうし、申し訳っ…」
歯が噛み合わないようです。がくがくと細かく体を震わせて、滝のような涙を流しました。
蓮はにこりともせず、口を開けました。
「許さないからね。スパイダー、これから彼女になにを?」
「へっ?ああ、まんこ開いて鞭打ちしてやろうかなーって」
「ああ、とてもいいね。思いっきりお願いね」
「……」
スパイダーは返事をしませんでした。代わりに蝶が噛み合わない歯を懸命に叱咤して、必死に謝罪を繰り返しました。
蓮は視線を凛に向け、にこりと笑いかけました。
「ねぇ、凛」
びくっと肩を跳ねさせ、ぎぎぎ…と軋んだ音が鳴りそうな首をなんとか動かします。ロッキングチェアから徐に立ち上がった蓮は、凛の元へ音もなく歩み寄りました。
それから病的に白くなってしまった頬に手のひらを添えると、口元を上げました。
「今、なにか聞いた?」
「へっ…?」
「あの蝶、なにか言ってたかな?」
そろりと這う蓮の手が、凛には恐ろしくてたまりませんでした。蓮の手が怖いと思ったことなど初めてです。凛は唇を震わせ、それから必死に首を横に振って見せました。
「そう。凛はいい子だね」
冷や汗が止まらない凛の頬に、やさしくキスをしてやりました。
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