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「中隊長、補充隊士ですぜ」
ひと際大きく掘られ、迷彩シートが被せられた塹壕から、ひとりの女性士官が這い出て来た。
全身泥だらけ、顔にも迷彩ペイントを塗りたくっている。にも拘らず、彼女が整った顔立ちの美人である事は、ひとめ見てわかった。それも、相当な、という副詞付きの美人だ。
栗色のショートカットの髪、知性を感じさせる二重まぶたで切れ長の眼。鋭角的なラインの濃い眉。右の頬にある、八センチほどのイナズマ型の傷が印象的だった。身長も百七十センチはあるだろう。階級は一尉だった。
初対面であるはずだが、鹿野は彼女を見た瞬間、なぜか、どこかで会った事があるような想いを懐いた。
「私が六中隊長の美浦エリス一尉だ」
もの憂げな口調だった。
各補充隊士は、それぞれ各小隊へと振り分けられ、その持ち場へと散って行った。
「それで、お前が新任の三尉か」
鹿野は自己紹介を繰り返した。
「お前の当面の任務は生き残る事だ。士官は足らない。まして使える奴となると尚更だ。戦闘中は私か、参謀格の早瀬准尉に当分くっついてろ。いいか、余計な真似をするんじゃないぞ」
「余計な真似ですか」
「そうだ、時々勘違いしている馬鹿がいる。ヒーローを気取って勝手な行動をとり、部下を危険にさらすような奴だ。戦争をゲームか何かと勘違いしてやがるんだ。くたばっても屍体を収容しに行く気にもならん」
美浦一尉は激した様子もなく、淡々と語った。逆にそれが言葉に凄みを与えていた。
「理解したか」
見あげた瞳は穏やかだったが、鹿野はなぜか、その瞳の奥に宿った殺気を感じた。
「は、はい」
鹿野は気圧されそうになりながらも、彼女の褐色の大きな瞳を美しいと感じた。想わず、見とれてしまいそうになる。
「お前のネグラは当分ここだ」
と自分が今這い出してきた塹壕を指差した。
「早瀬准尉とふたりで使え。もっとも、あと通信班の者がいるがな」
早瀬准尉は、黙って敬礼をした。不言実行の人という印象だ。美浦の後ろに、もうひとり並河という女性曹長がいた。
美浦エリス中隊長、早瀬昇准尉、並河祐美曹長と鹿野優斗見習い三尉が、どうも六中隊の本部要員という事らしい。
その後、早瀬准尉に六中隊の陣地をざっと案内してもらった。
中隊の定数は、およそ二百名。しかし現在の戦力は、補充隊士を含めても、約百二十名程度との事だった。
これだけの戦力で、約一キロメートルの前線を防衛しなければならない。二個小隊で、五百メートルずつの正面を守り、いざという時は、残りの一個小隊が支援に回る。
しかも、師団からの重砲や、戦車の支援は望めないのが現状という。しかしこれでは、敵がここに主力を投じて来たなら、簡単に突破されないであろうか。
兵力不足は仕方ないとして、効果的に必要な場所に、増援を送りこむシステムが機能していないと、部隊は絶望的な状況に陥りかねない。
実は、これは一個連隊の戦力が不足している事も理由のひとつであり、そのため一個連隊六個中隊の編成を、九個中隊と増強する事が検討されていた。しかし、そのためには、経験を積んだ士官の数が、絶対的に不足していた。
鹿野のような新任士官を、いきなり前線に送り出しているのも、そういった事情による。前線で有能な上官の指導を受け、短期間に指揮能力を向上させようという、陸自上層部の魂胆であろう。
陣地の視察を終えた鹿野が、中隊本部に帰り着くと、美浦中隊長が、各小隊長を集め、指示を出しているところだった。そのついでに、六中隊の各小隊長を紹介された。
第一小隊長は最前、鹿野を案内してくれた無精ヒゲの石塚武史三尉だった。ニヤリと笑みを見せながら小さく手を挙げた。
三十はとうに過ぎていそうで、いかにも古参らしく落ちついていた。陸士からの叩き上げであろうか。
第二小隊は眉間にしわを寄せて、がなるようにしゃべる、大林英樹二尉。神経質で、愚痴を垂れ流しそうな男だ。鹿野の思った通り、大林は、自己の二小隊が、いかに不当な扱いを受けているかについて、口から泡を飛ばしながら、滔々とまくし立てた。
要するに、自分の事が一番大事であって、他の事は、なべて些末事に過ぎないといった手合いだ。
美浦中隊長は、大林の愚痴をバッサリ切り捨てた。
「現状に不満があるのは、お前の隊だけではない」
第三小隊長は、気の弱そうな金子和巳という三尉だった。二十代後半であろうか。その歳からしてそれなりの戦歴はありそうだが、いまだ三尉という階級からも、それほど有能な人物には見えなかった。ミーティング中も積極的な発言はなく、覇気に欠けるのではないか、という印象だった。
いったい二小隊、三小隊は大丈夫なのだろうか。鹿野は不安を覚えた。
あとは、中隊付属の火力支援小隊だ。小隊長は麻生真希二尉という女性士官だった。階級こそ美浦中隊長よりひとつ下だが、同期であるらしく、中隊長にも、思った事をズケズケと口にする。
「中隊長どのォ、弾薬が不足してンだけど」
「本日の補給は、さっきあったろう」
麻生二尉は、クチャクチャガムを噛みながら、鹿野の方を指差して言った。
「こんな役立たずの補充隊士なんかよりィ、必要な数の弾薬の方がよっぽど、頼りになるんだけど。不足してるのわァ、八十一ミリ迫撃砲弾、百二十ミリ迫撃砲弾、八十四ミリ無反動砲弾、あ、特にHEAT七五一ね」
恐ろしく無遠慮だ。傍らに人無きが如し、とでも言うのだろう。
美浦一尉の瞳は冷酷だった。
「ない物はない。ごちゃごちゃ言う前に、手持ちの弾薬をいかに有効に使うか、お前もないなりに知恵を絞れ」
「ブー」
中隊長の言葉にも、容赦というものがなかった。幹部たちに淀んでいた、不満の空気をブッタ切ってしまった。
「以上だ、解散!哨戒班には、キチンと仕事をさせろ」
各小隊長は、それぞれの持ち場へ帰って行った。美浦一尉は、並河曹長と共に何やら話しながら、女性隊士用の塹壕へ入って行った。
テントが被せてあり、中は見えなくなっている。もっとも砲弾の直撃を受ければ、全て吹き飛んでしまうだろうが。
鹿野は、自分に充てられた円形塹壕に潜り込むと、昼間の緊張の反動か、座り込んだまま、ウツラウツラと眠気に捕らわれ始めた。
その塹壕には通信班の隊士もいたが、突然傍らのパソコン端末を、何やらしきりに動かし出した。参謀格の早瀬准尉も、中隊長や各小隊相手に、ケータイ端末で何か暗号交じりの報告を行っている。
外を見やると、あたりは既に夕闇に蔽われていた。
「何ですか?敵に動きでも?」
思わず尋ねていた。
「敵に夜襲の兆候があります。かなりの大部隊みたいです」
早瀬准尉は、最小限の情報を与えてくれると、引き続き作業に集中している。
眠気は一挙に吹き飛んだ。またも緊張感が、じわじわ湧き起ってくる。
「鹿野、こっちへ来い」
美浦一尉の声が、塹壕の外からかかった。鹿野は急いで塹壕を出た。
「今夜は寝ずの番になるかもしれんぞ」
美浦中隊長は、ニヤリと笑った。
これから実戦かもしれないというのに、何というリアクションなのだろう。戦闘が楽しくてたまらないのだろうか。
美浦一尉は、予め選任していた、偵察隊士の十名ほどと鹿野三尉を引き連れて、前線へ出た。前線防御ラインの、まだ先だ。
偵察要員は適当にバラけて配置を行い、各種暗視装置で前線を見張っていた。
鹿野も、パッシブノクトビジョンと、裸眼で交互に前線を眺めてみたが、何も見えない。だいいち敵は、昼間強襲をかけるが、撃退された。再度また、夜襲をかけて来るのか。
その鹿野の考えを見透かすように、美浦は言った。
「昼間の攻撃は、明らかに強行偵察だ。こちらの火力の具合を確かめているんだ。あっさり引いたという事は、ここが突破点と敵は見てるんだろう」
鹿野は仰天した。
「ここが敵の主力目標なんですか!」
「そうだ」
「まずいじゃないですか、連隊本部に支援の要請を・・・」
美浦は前方を見ながら平然と言った。
「連隊からの支援は望めんだろうな。要請しても、何やかやと言いわけするだけだ」
「それじゃ我々は・・・」
鹿野の顔が歪んだ。
美浦は、鹿野の顔を見ると、またしても不敵な笑みをみせた。
「私に手がある。昼間、現有戦力だけで敵と戦ったのも、敵を誘い込むためだ」
「え・・・」
「いいか、お前は私にくっついてろ、何があっても離れるんじゃないぞ」
後を偵察要員に任せ、美浦と鹿野は、一度中隊本部へ戻った。
「これから連隊本部へ、報告と支援要請をする。お前たちも話の内容を、よく聞いて置いてくれ」
美浦は、あたりにいた鹿野や早瀬、並河、通信士に向かって言った。
美浦は、ケータイ端末ではなく、中隊の通信端末をスピーカーフォンにし、連隊幕僚の永川一尉を呼び出した。
「クイーンからブラックストーンへ」
鹿野は他の者と共に、美浦と連隊本部とのやり取りに耳を傾けた。
美浦は論理的に、昼間の敵の攻撃は強行偵察の可能性が高い事、敵に夜襲の兆候がある事を根拠を示して説明し、連隊に配置されている戦車中隊と、特科大隊の支援を要請した。
「その必要はないだろう」
永川一尉の間のびした声がスピーカーから響いた。
「こっちには敵襲の情報は入ってない。いつものように哨戒を立てとけば充分だ」
相手は言いたい事を言うと、プッツリと通信を終了した。
「今のを聞いたな。録音もしてあるが、お前たちが証人だ」
美浦は、ひとりうなずくと、今度は自らのケータイ端末を使って、数か所へ何やら連絡を入れた。
「じゃあ、そういう事で、宜しくお願いします」
ひととおり連絡を終えると、端末を仕舞いながら、鹿野にもお馴染みになった、不敵な笑顔を浮かべた。
「私の判断が正しいか、連隊本部の幕僚殿が正しいか、見ものだな。鹿野、クイーンの実力を見せてやるぞ」
ひと際大きく掘られ、迷彩シートが被せられた塹壕から、ひとりの女性士官が這い出て来た。
全身泥だらけ、顔にも迷彩ペイントを塗りたくっている。にも拘らず、彼女が整った顔立ちの美人である事は、ひとめ見てわかった。それも、相当な、という副詞付きの美人だ。
栗色のショートカットの髪、知性を感じさせる二重まぶたで切れ長の眼。鋭角的なラインの濃い眉。右の頬にある、八センチほどのイナズマ型の傷が印象的だった。身長も百七十センチはあるだろう。階級は一尉だった。
初対面であるはずだが、鹿野は彼女を見た瞬間、なぜか、どこかで会った事があるような想いを懐いた。
「私が六中隊長の美浦エリス一尉だ」
もの憂げな口調だった。
各補充隊士は、それぞれ各小隊へと振り分けられ、その持ち場へと散って行った。
「それで、お前が新任の三尉か」
鹿野は自己紹介を繰り返した。
「お前の当面の任務は生き残る事だ。士官は足らない。まして使える奴となると尚更だ。戦闘中は私か、参謀格の早瀬准尉に当分くっついてろ。いいか、余計な真似をするんじゃないぞ」
「余計な真似ですか」
「そうだ、時々勘違いしている馬鹿がいる。ヒーローを気取って勝手な行動をとり、部下を危険にさらすような奴だ。戦争をゲームか何かと勘違いしてやがるんだ。くたばっても屍体を収容しに行く気にもならん」
美浦一尉は激した様子もなく、淡々と語った。逆にそれが言葉に凄みを与えていた。
「理解したか」
見あげた瞳は穏やかだったが、鹿野はなぜか、その瞳の奥に宿った殺気を感じた。
「は、はい」
鹿野は気圧されそうになりながらも、彼女の褐色の大きな瞳を美しいと感じた。想わず、見とれてしまいそうになる。
「お前のネグラは当分ここだ」
と自分が今這い出してきた塹壕を指差した。
「早瀬准尉とふたりで使え。もっとも、あと通信班の者がいるがな」
早瀬准尉は、黙って敬礼をした。不言実行の人という印象だ。美浦の後ろに、もうひとり並河という女性曹長がいた。
美浦エリス中隊長、早瀬昇准尉、並河祐美曹長と鹿野優斗見習い三尉が、どうも六中隊の本部要員という事らしい。
その後、早瀬准尉に六中隊の陣地をざっと案内してもらった。
中隊の定数は、およそ二百名。しかし現在の戦力は、補充隊士を含めても、約百二十名程度との事だった。
これだけの戦力で、約一キロメートルの前線を防衛しなければならない。二個小隊で、五百メートルずつの正面を守り、いざという時は、残りの一個小隊が支援に回る。
しかも、師団からの重砲や、戦車の支援は望めないのが現状という。しかしこれでは、敵がここに主力を投じて来たなら、簡単に突破されないであろうか。
兵力不足は仕方ないとして、効果的に必要な場所に、増援を送りこむシステムが機能していないと、部隊は絶望的な状況に陥りかねない。
実は、これは一個連隊の戦力が不足している事も理由のひとつであり、そのため一個連隊六個中隊の編成を、九個中隊と増強する事が検討されていた。しかし、そのためには、経験を積んだ士官の数が、絶対的に不足していた。
鹿野のような新任士官を、いきなり前線に送り出しているのも、そういった事情による。前線で有能な上官の指導を受け、短期間に指揮能力を向上させようという、陸自上層部の魂胆であろう。
陣地の視察を終えた鹿野が、中隊本部に帰り着くと、美浦中隊長が、各小隊長を集め、指示を出しているところだった。そのついでに、六中隊の各小隊長を紹介された。
第一小隊長は最前、鹿野を案内してくれた無精ヒゲの石塚武史三尉だった。ニヤリと笑みを見せながら小さく手を挙げた。
三十はとうに過ぎていそうで、いかにも古参らしく落ちついていた。陸士からの叩き上げであろうか。
第二小隊は眉間にしわを寄せて、がなるようにしゃべる、大林英樹二尉。神経質で、愚痴を垂れ流しそうな男だ。鹿野の思った通り、大林は、自己の二小隊が、いかに不当な扱いを受けているかについて、口から泡を飛ばしながら、滔々とまくし立てた。
要するに、自分の事が一番大事であって、他の事は、なべて些末事に過ぎないといった手合いだ。
美浦中隊長は、大林の愚痴をバッサリ切り捨てた。
「現状に不満があるのは、お前の隊だけではない」
第三小隊長は、気の弱そうな金子和巳という三尉だった。二十代後半であろうか。その歳からしてそれなりの戦歴はありそうだが、いまだ三尉という階級からも、それほど有能な人物には見えなかった。ミーティング中も積極的な発言はなく、覇気に欠けるのではないか、という印象だった。
いったい二小隊、三小隊は大丈夫なのだろうか。鹿野は不安を覚えた。
あとは、中隊付属の火力支援小隊だ。小隊長は麻生真希二尉という女性士官だった。階級こそ美浦中隊長よりひとつ下だが、同期であるらしく、中隊長にも、思った事をズケズケと口にする。
「中隊長どのォ、弾薬が不足してンだけど」
「本日の補給は、さっきあったろう」
麻生二尉は、クチャクチャガムを噛みながら、鹿野の方を指差して言った。
「こんな役立たずの補充隊士なんかよりィ、必要な数の弾薬の方がよっぽど、頼りになるんだけど。不足してるのわァ、八十一ミリ迫撃砲弾、百二十ミリ迫撃砲弾、八十四ミリ無反動砲弾、あ、特にHEAT七五一ね」
恐ろしく無遠慮だ。傍らに人無きが如し、とでも言うのだろう。
美浦一尉の瞳は冷酷だった。
「ない物はない。ごちゃごちゃ言う前に、手持ちの弾薬をいかに有効に使うか、お前もないなりに知恵を絞れ」
「ブー」
中隊長の言葉にも、容赦というものがなかった。幹部たちに淀んでいた、不満の空気をブッタ切ってしまった。
「以上だ、解散!哨戒班には、キチンと仕事をさせろ」
各小隊長は、それぞれの持ち場へ帰って行った。美浦一尉は、並河曹長と共に何やら話しながら、女性隊士用の塹壕へ入って行った。
テントが被せてあり、中は見えなくなっている。もっとも砲弾の直撃を受ければ、全て吹き飛んでしまうだろうが。
鹿野は、自分に充てられた円形塹壕に潜り込むと、昼間の緊張の反動か、座り込んだまま、ウツラウツラと眠気に捕らわれ始めた。
その塹壕には通信班の隊士もいたが、突然傍らのパソコン端末を、何やらしきりに動かし出した。参謀格の早瀬准尉も、中隊長や各小隊相手に、ケータイ端末で何か暗号交じりの報告を行っている。
外を見やると、あたりは既に夕闇に蔽われていた。
「何ですか?敵に動きでも?」
思わず尋ねていた。
「敵に夜襲の兆候があります。かなりの大部隊みたいです」
早瀬准尉は、最小限の情報を与えてくれると、引き続き作業に集中している。
眠気は一挙に吹き飛んだ。またも緊張感が、じわじわ湧き起ってくる。
「鹿野、こっちへ来い」
美浦一尉の声が、塹壕の外からかかった。鹿野は急いで塹壕を出た。
「今夜は寝ずの番になるかもしれんぞ」
美浦中隊長は、ニヤリと笑った。
これから実戦かもしれないというのに、何というリアクションなのだろう。戦闘が楽しくてたまらないのだろうか。
美浦一尉は、予め選任していた、偵察隊士の十名ほどと鹿野三尉を引き連れて、前線へ出た。前線防御ラインの、まだ先だ。
偵察要員は適当にバラけて配置を行い、各種暗視装置で前線を見張っていた。
鹿野も、パッシブノクトビジョンと、裸眼で交互に前線を眺めてみたが、何も見えない。だいいち敵は、昼間強襲をかけるが、撃退された。再度また、夜襲をかけて来るのか。
その鹿野の考えを見透かすように、美浦は言った。
「昼間の攻撃は、明らかに強行偵察だ。こちらの火力の具合を確かめているんだ。あっさり引いたという事は、ここが突破点と敵は見てるんだろう」
鹿野は仰天した。
「ここが敵の主力目標なんですか!」
「そうだ」
「まずいじゃないですか、連隊本部に支援の要請を・・・」
美浦は前方を見ながら平然と言った。
「連隊からの支援は望めんだろうな。要請しても、何やかやと言いわけするだけだ」
「それじゃ我々は・・・」
鹿野の顔が歪んだ。
美浦は、鹿野の顔を見ると、またしても不敵な笑みをみせた。
「私に手がある。昼間、現有戦力だけで敵と戦ったのも、敵を誘い込むためだ」
「え・・・」
「いいか、お前は私にくっついてろ、何があっても離れるんじゃないぞ」
後を偵察要員に任せ、美浦と鹿野は、一度中隊本部へ戻った。
「これから連隊本部へ、報告と支援要請をする。お前たちも話の内容を、よく聞いて置いてくれ」
美浦は、あたりにいた鹿野や早瀬、並河、通信士に向かって言った。
美浦は、ケータイ端末ではなく、中隊の通信端末をスピーカーフォンにし、連隊幕僚の永川一尉を呼び出した。
「クイーンからブラックストーンへ」
鹿野は他の者と共に、美浦と連隊本部とのやり取りに耳を傾けた。
美浦は論理的に、昼間の敵の攻撃は強行偵察の可能性が高い事、敵に夜襲の兆候がある事を根拠を示して説明し、連隊に配置されている戦車中隊と、特科大隊の支援を要請した。
「その必要はないだろう」
永川一尉の間のびした声がスピーカーから響いた。
「こっちには敵襲の情報は入ってない。いつものように哨戒を立てとけば充分だ」
相手は言いたい事を言うと、プッツリと通信を終了した。
「今のを聞いたな。録音もしてあるが、お前たちが証人だ」
美浦は、ひとりうなずくと、今度は自らのケータイ端末を使って、数か所へ何やら連絡を入れた。
「じゃあ、そういう事で、宜しくお願いします」
ひととおり連絡を終えると、端末を仕舞いながら、鹿野にもお馴染みになった、不敵な笑顔を浮かべた。
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