リインカーネーション

たかひらひでひこ

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 暫くすると、化粧を落としたさっきのヘッドが入店した来た。特攻服は脱ぎ、なるべく目立たない格好をしているのが分かる。どうも、オレたちが入店するのを、見ていたようだった。
 オレたちのテーブルを確かめると、まっすぐやって来た。
「お前、中山楓か?」
中山と呼ばれたヘッドが、新美の方を見た。
「克哉か、久しぶりだな」
二人は、同じ中学出身で、聞けば久住も周知の人間らしい。
 で、何の用なの?
「あたしは、あんたの度胸に惚れた。あんたらは、何かのチームを組もうとしているんじゃないか。もしそうなら、あたしもぜひ加えてほしい」
その覚悟で、前のチームを抜けてきたと、ケジメの根性焼きでついた火傷を見せた。オレは慌てて消毒し、医者に行くことを薦めた。オレは生傷の絶え間がない男だから、消毒液と絆創膏は、常に携帯していた。
「それから、もしあんたが良かったら、あたしのカレシになってくれないか」
楓は、頬を赤くして言った。
 いきなりのことで、オレは、口を開けてポカンとしていた。さぞかし間抜け面だったことだろう。
「突然、無茶を言ってきて、変な女と思われるのは分かってる。でも、あたしは、あんたみたいな男に出会ったのは初めてだ。これは、運命だと思った。一度、考えてみてくれないか?」
どこかで聞いたことのある、セリフだと思った。楓は、上気した顔でオレに迫った。
 暫く、その顔を眺めていたが、我に返ると彼女に説明を試みた。ヤンキーの姐さん相手に気が重かったが、オレには、すでにもうカノジョがいること、だから、あんたのカレシになることはできないことを正直に話した。
「この、カイザリンのヘッドだったカエデが頼んでもダメか?・・・やっぱヤンキーの女は引くよな」
「あんたの肩書は関係ない。オレは、この夏実と約束した。勿論、夏実のことは好きだが、それを別にしても、ひととして交わした約束は大事だろう。ことに信頼関係に関することは。違うか?」
 楓はオレの言う言葉を、眼を見開いて聞いていた。
「別にあんたが嫌いとか、そう言うことじゃない。だが、俺はひととの信頼を裏切るようなことはしたくない、と思う男なんだ。女性に恥をかかせるつもりはないが、腹がたったなら、オレをぶん殴って貰ってもいい。すまなかった」
 「・・・よく分かった。あんたという男が」
楓はオレの顔を眺めつつ暫く考えていたが、夏実に向かって言った。
「あんたが羨ましいよ、こんな男をカレシにできるなんて。あんたらの邪魔はしない。だけど、あたしが勝手にこのひとを、好きになるのは許してほしい」
夏実は、別に慌てることなく、彼の力になってあげてね、と言った。
 楓は、夏実の言うとおり、自分にできる、チームの手助けをしてくれようとしていた。チーム?何のチームだ?今はまだ分からないが、昔、宿縁のあった人間の集まりをチームというなら、確かにそうだ。
 他の二人も楓を仲間にすることに異存はなかった。楓も、俺たちの席に着き、話に加わった。
 楓は、初対面と思えないほど、オレたちと話しが合った。ヤンキーのヘッドをしてるから、色眼鏡で見られるのだろうが、意外にも話し上手だった。頭の回転の良さも窺えた。五分もしないうちにオレたちの会話に溶け込み、特に夏実とはウマが合ったようだった。親し気に言葉を交わし合う。
 オレたちは単にメシを食うために、ファミレスに入ったはずだが、楓との話が弾み、十年来の友人のように親しく会話した。
「じゃあ、また、近いうちに」
オレと夏実は、楓と電話とメールアドレスを交換し合い別れた。オレと夏実は、電車も同方向だったから、他の三人と別れて一緒に電車に乗った。もう夜十時を過ぎていた。
 帰りの電車で、夏実は機嫌が良かった。
「楓と嬉しそうに話してたな」
「うん、彼女とは前世で親友だったもん」
オレは、夏実の言葉にぶったまげた。
 「あいつも、転生仲間だったのか?」
「そうだよ、前世の彼女は、ソフィア・ディキンソンという名だった。あんたをめぐっての恋敵だったのも一緒だよ。でも結局、前もあんたはあたしが頂いたんだけどね」
夏実は、笑顔で言った。オレは、人間関係も、転生によって引き継がれるのかと、驚いた。
 「なに、久しぶりで会った友達だよ。そう言えば分かるでしょ」
結局、転生によって、人間関係はリセットされるようで、実は前の関係を引きずるもんなんだな、と納得した。
 「ソフィー、彼女は優しさと激しさを併せ持つ女性だったの。あんたのために命懸けで献身する半面、拳銃をぶっ放すようなひとだった。とっても一途なの。あたしは、彼女を見てすぐにソフィーだと分かったよ。とても仲良しだったから。あたしが、あなたと結婚することを知った時、彼女は泣きながら祝福をしてくれた。あたしにとっても、そんな彼女は、とても大切な親友だったの」
 オレは、夏実の言葉に頷くしかなかった。だが、夏実の言うことに、なぜか胸落ちしていた。たぶん、夏実の言うことが、楓という女の子をいちばん的確に表現していたからなのだろう。
 その日から、中山楓の人生は、変わったようだった。高校は、オレたちとは別の高校に(お世辞にも、名門とは言えない、取り柄のない公立高校だった)通学していたが、放課後は俺たちと同じ、城南予備校に通いだした。夏実の指導を受け、猛勉強をし始めた。
 彼女の高校でも、楓の努力は最初気まぐれのように扱われていたようだったが、楓が校外の模試で、国立大学のA判定を出した頃から、騒がれ出したようだった。
 もともと、頭は良い娘だったらしいから、ウチの秀才の夏実の指導を受け、勉強の才能が開花したようだった。数か月の内に、予備校の中のランクも、どんどん上昇していった。
 「こないだの小テスト、楓の奴、オレより良い点とってたぜ」
オレは溜息をつきながら言った。
「あの娘、英語はもともと得意なのよ。それを忘れていただけ。あたしは、それを思い出させてあげるだけよ」
 確かに時々、夏実と楓は英語でしゃべっている。その発音はネイティブのようで、内容はオレも聴き取れないことがある。
 「あたしも、修博学園の編入試験受けようかな」
突然、楓が言い出した。
「できると思う?」 
オレに訊かれても、答えようがない。だが、夏実は短く言った。
「できるよ」
 おいおい、言っちゃ悪いが、楓の通っている公立と、修博では、かなりのランク差がある。今からでは編入試験までは、三か月くらいしか時間的な余裕がない。
 ヤンキー何ぞやってて、前の高校の内申は決して良くないだろうから、そのハンデを克服するには、相当な特技かなにかが必要になるだろう。例えば、部活で全国大会に出るとか、全国模試で、ふたケタに入るとか、そういった有無を言わさないものだ。
 「何かないのか?」
「うーん。ケンカなら自信あるけどな」
ケンカは特技になんねーだろ。楓は、腕を組んでいたが、部活にも入らず、バイクを乗り回していただけだったらしいから、特に特技はない、と答えた。
 「お前、陸上はどうよ?」
と新美が言い出した。
「こいつ、中学時代は、八百メートル走で市の代表になったことがあったぞ。今はやってないのか?」
「そんなの二年も前のことじゃん。あれ以来走ったこともないし、自信なんかない」
 それでも、他に何もないというので、次の土曜日に、ウチの学校のトラックで、タイムを計ってみることになった。陸上部の顧問への話は夏実がうまくつけた。
 スタートの合図とともに、楓が走り出した。八百メートル走のタイムは二分十一秒二だった。顧問の教師は、県代表を狙える逸材だと興奮していた。高校一年でこの成績なら、将来は、日本代表を狙えるかもしれん、などと突拍子もないことを言い出した。
 顧問は事情を聞いて、楓が修博に編入希望と知ると、俄然乗り気になった。ぜひ頑張って編入してくれ、オレとしても協力は惜しまない、と言ってくれた。毎日重いバイクを転がすのが、筋力トレーニングになっていたのかも知れない。
 そうこうしてるうちに、季節は移り替わり、カボチャパーティーなんぞという子供のお祭りも過ぎ、落葉の季節となった。
 オレは、相変わらず、やる気のない部活を続け、予備校に通い、たまに夏実とデートするという日常を送った。予備校に行けば、仲の良い仲間にも会えたし、彼らとダベるのも楽しかった。
 気が付くと、二回目の期末テストの時期になっていた。街中は、クリスマス商戦で忙しそうで、あちこちに赤服爺いの姿が溢れていた。オレたちも外ではコートを羽織るようになった。
 ことに、女の子たちは露出する部分が、多いためだろうか寒そうだった。夏実はその名のせいか、寒がりで、しきりにオレに腕を絡め、くっ付いてきた。それはそれで嫌ではないのだが、街中のそれも人前で、堂々とやられるのには閉口した。
 中には、カノジョがいない不満をオレたちにぶつけてくるバカどももいて、その度にいらん運動をさせられるのだ。
「なあ、夏実とオレのコンビって、DQNどもを刺激する何かがあるのかね」
あまりに、絡まれることが多くて、夏実に愚痴を言った。
 「さあ?」
「お前が、美人すぎるんだよ。で、ブサメンと腕組んでるのが、気に食わない連中が多いんじゃね?少し離れたらどうよ」
「嫌だ。てか、あたしのせいなの?」
「そうだ、お前のせいだ。夏実が美人で、スタイルも良すぎるのが悪い」
「整形して、ブスになれとでも言うんかい」
「オレは、別にそれでも構わんが」
「次は、ブスになって生まれてきてやる」
「だったら、オレはスルーする」
「なんだと、もう一遍言ってみろ!」
 「仲の良いことだな」
振り向くと、新美だった。
「そんな夫婦漫才しながら歩くから、目立つんだよ。高校生らしく、修博の生徒らしく、もっと清楚にふるまえよ。お前ら初々しさというものが皆無なんだよ」
 「清楚とか、初々しさって、お前に言われたくねーわ」
ふたりして、頷いた。新美の奴は、ジト目でこっちを見ていた。独り者のひがみだ、とオレたちは、見返してやった。
 「ところでさ、この二、三日のうちに転校生がくるらしいんだよな」
「楓のやつ、もう編入決まったのか?」
「ちげーよ。楓じゃねえ」
「男か、女か?」
「てか、その情報どこで知ったの?」
「お前らんとこの担任が、職員室でしゃべってるのを聞いた」
 こいつ、何の用で職員室なんぞに出入りしているのだろう。なにか、教師に呼ばれるようなことでもやらかしたのか。
「日直日誌を届けただけだよ。その時、たまたま、お前らの担任がしゃべってるのを聞いたまでだ。オレは、松澤のように、単細胞じゃないから、問題行動は起こさねえよ」
夏実が、新美の言葉に吹き出した。オレは、不機嫌だった。
 「で、男、女?」
「知らんが、彼女とか言ってたから、多分女生徒だろう」
オレでも、そう推理する。明智や金田一でなくても容易に分かることだ。
 オレの憂鬱は結局、晴れなかった。秋の長雨のせいもあるが、青崎千華と名乗った、ウチの教室に来た転校生の女生徒は、なかなかのビジュアルだった。
 そいつは、担任に朝のホームルームで紹介されると、教室内を見渡した。オレを認めると、なぜかニッコリ笑いかけてきた。
 休憩時間、青崎はオレの横にやって来ると、いきなり爆弾発言をした。
「わたしと結婚しようか」
「はあ?しねえよ」
「わたし、真面目に言ってるよ?」
「オレも真面目に答えてる。あのな、オレあんたのこと、たった今知ったばっかりなんだけど。だいたい、いきなりプロポーズって、いろいろ省略し過ぎじゃね?オレ流行に疎くてな、世間じゃそういう冗談流行ってんのか」
 そこへ、夏実が割って入った。
「誰に断って、勝手なこと言ってんの」
「あんたは?」
「このひとの、カノジョ。分かったら、引っ込みなさい」
夏実は、青崎の席を指さした。
 青崎は、夏実の顔から、足先までを眺めた。
「ああ、あんたが武田春菜の妹って娘ね。話には聞いてるわよ。『今の』カノジョだったわね」
 青崎は、余裕の表情だった。空中に暗雲が湧き起こり、バチっと雷光が飛び交いそうな雰囲気になった。
「勝手なこと言わないで、遼介はあたしのモノだから、ひとのカレシに手を出すな。お分かりかしら?」
 剣呑な空気があたりに漂いだした。夏実は見たことのない、鋭い視線を飛ばしていた。目から殺人光線を発しそうだ。青崎はニッコリ笑みを浮かべると、黙って矛を収めた。
 夏実は、これ以上ないくらい、不機嫌な顔をしていたが、青崎の笑顔を見て、ふと怪訝な表情をした。
「?・・・まさかね」
「どうした、何か気になることがあるのか」
「ううん、別に、気のせいだと思う」
夏美に、オレはモノじゃねえぞ、と突っ込みを入れたかったが、そんな空気ではなさそうだった。俺だってKYではないのだ、多分。
 いつからオレは、女性に告られる色男になったんだろう。オレ自身、ちっとも気づかなかった。本人も知らないうちに、オレはイケメンに進化したらしい。
 「気のせいだ」
新美は、誰もが納得する感想を述べた。
「お前よりイケメンは、この高校にも数十名以上は存在する。そいつは、何かの意図があっての行動だろう」
 何かの意図って、オレと結婚したい、愛人になりたい、ということだろうが。
「アホか、初対面の女が、普通そんなこと言うはずなかろう。別の意図があるんだよ」
新美は、呆れたように言った。納得はできるが、血も涙もない批評だった。おかげでちょっと、女性不信に陥った。
 薄々察していたが、要するに青崎に、おちょくられたと言うことか。が、夏実はもっと冷静だった。
「あたしたちの仲に、亀裂を入れようって魂胆だろうね。もっとも、だれがなんの目的で、ってのが分からないけど」
 だから、青崎がオレと結婚するという目的で、じゃないのか。オレの言葉に、夏実は溜息をついた。
「まあ、あんたが女性オンチなのは、昔からだけど・・・」
「こいつ、そんなにひどかったっけ」
「性悪女に掴まって、スッテンテンにされる、ってのがお馴染みのパターンだったみたい」
 マギーもネルソンも、好き放題言ってくれる。そんなにオレは昔からアホだったのかと思うと、ウンザリしてきた。考えてみれば、今生でも田中沙紀に、ひどい目にあったっけ。オレは、マギーに取りすがった。
「頼む、オレを見捨てないでくれ。お前に捨てられたら、どう生きて行けばいいか分からない」
マギーの夏実は、ニッコリ微笑んだ。
「よしよし、大丈夫だよ、あたしが一生面倒見てあげる」
頭をなでなでしてくれた。
 「人前でイチャつくのは、ほどほどにしてもらいたいもんだ」
新美が、仏頂面で、あさっての方角を眺めていた。
「だが、オレも青崎は怪しいと思う。やつの意図が不明だがな。何かバックがいるような気がする」
 オレは、青崎をとっ捕まえて、〇〇したり、××したりして、挙句に喋らないのなら、ハンドガンを口に入れて、トリガーを引くとどうなるか、新美を実験台に試して見せればいいと、言った。新美は、怖い顔をしてオレを睨んだ。
 「ハンドガンは、FNプラウニングHPが良いぞ。九ミリパラベラムで、オートマティックながらシングルアクションだが、信頼性は高いし、装弾数も多く速射性もある」
というオレに、新美は反論した。
 「M一九S&W三五七マグナム四インチモデルを、松澤にぶっ放せばいいんじゃね?ヒグマ撃ちじゃなし、三五七で威力は充分だろ。四インチならクイックドローもOKだし。まあ、スピードローダーは必須だが」
 「不思議にあんたたちが言うと冗談に聞こえないのよね。前世の記憶のせいかな」
「まあ、確かに戦地では、SSの奴らに対して、そういう事をよく、やってたな。マジで。あいつらをぶち殺すことを、なんとも思ってなかった」
「あんときは、ホークアイもオレも頭がイカレてたんだ。何せ、相手を殺さなければ、こっちが殺られるんだからな」
「オレは、それだけじゃなかったぜ。ナチ野郎をぶち殺すのは、喜びだった。一人でも多くのナチ野郎を殺してやることに、生きがいを見出してた。今思えば、クレイズィだな」
 オレたち二人は、暫く沈黙した。
「もし、過去のナチ党員にあったら、松澤は問答無用か」
「まさか、今は過去世じゃない。今生には、今の社会規範がある。いきなりハンドガン、(持ってねえけど)ぶっ放したりはしないよ。もっとも、愛し合うこともできんだろうがね」 
 そのやり取りで、ピンと来るものがあった。
「もしかして、やつは・・・?」
「可能性はあるな、オレたちの仲間がまとまって転生して来たのなら、かつての敵がまとまって出てくることもあり得るだろう」
オレの言葉の意を汲んだ、新美が言った。
 オレたちの間にまた、沈黙が流れた。
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