リインカーネーション

たかひらひでひこ

文字の大きさ
10 / 19

10

しおりを挟む
 
 突然、夏実が忙しくなった。家族の事情とかで、部活も休んでいるらしい。学校で顔を合わせても、ロクに話しもできない。休み時間は、どこかへ姿をくらましてしまう。
 オレは、嫌な気分になった。春先に、元カノに同じような態度をとられたことを、思い出したからだ。それに合わせるように、青崎のやつが執拗にまとわり付いてくる。
 しきりに、夏実のあることないことをささやき、オレはこいつをルード・ウィスパーと名付けた。カノジョのことをとやかく言われるだけで、気が滅入ってくる。
 我慢できなくなったオレは、ある日ケータイで電話を掛けている夏実を掴まえた。夏実が話を終わるまで待ち、話しかけた。
「話があるんだけど」
「ごめん、今ちょっと取り込み中で・・・」
「いいぜ、その用事ってのは、オレたちの関係より大事なことなんだろうな」
 オレの語気に、夏実は驚いたようだった。
「なに、怒ってるの?」
「お前と、オレの関係が終わるか、否かの問題だよ。それより大事なことなら仕方ない。きっぱり別れてやるよ」
 夏実は、急にオロオロし始めた。
「な、なに?何で、急に別れるなんて話になるのよ?」
「お前が、忙しいのは、見て分かってるよ。問題は、その理由だよ。オレはお前に嫌われる理由が分からない。だから、訊こうとしてもお前は答えない、答えられない理由だからか?オレは、女性オンチだから、はっきり言って貰えないと分からない。言いたくないならそれでもいい、無理には訊かない。だが、オレたちの関係もこれで終わりなのかどうかは、はっきりさせてくれ」
 夏実は、涙目になった。
「あたし、あんたのこと、嫌いになんかなってないよ。最近、話しをしてなかったのは、悪かったと思ってる。だから、別れるなんて言わないで、お願いだから」
夏実は、オレの腕を掴んで揺すぶった。オレはここ最近の不満をぶちまけた。
 「そうか・・・あんたにキチンと話しをしてなかった、あたしが悪かったね。今は、問題が解決してないから、話せなかったの。あんたの問題じゃないから。ホントに家族の問題なの。区切りがついたら、ちゃんと話すから、ゴメンね」
 両手を合わせて、涙目で訴える夏実を見ていると、罪悪感に捉われた。いつでも美女の涙は最強だ。
「分かった・・・お前がそう言うなら、お前の都合がつくまで待つよ」
「ホントにゴメン。あたしの都合で、あんたまで心配かけさせちゃったね。許して」
「もういいよ、そこをはっきりさせて欲しかっただけだよ」
 涙を流す、夏実にオレの方が逆にオロオロすることとなった。後日、新美に痴話ゲンカを校内で堂々とするな、と諭された。オレと夏実のやり取りは、校内でも話題となっていたようだった。オレは、学年いちの美人カノを泣かした不届き者との評価を頂いたようだ。余計なお世話だボケ、馬にでも蹴られてろ。
 クリスマスも間近になって、夏実がすっきりした顔でやって来た。場所は、例のサテンマギー、メンツはオレと新美と夏実だった。
「ゴメン、やっと片付いた。遼介にも心配かけて悪かったね。新美君もウワサを打ち消してくれてありがとう」
 新美のやつ、いつの間にそんなことをやってくれてたんだ?情けないことに、気づかなかった。新美は、こういった気遣いを、さりげなくできる男だった。
「それで、結局何だったんだよ?」
「・・・実は、芸能界に入れって言われてたの」
「はあ?」
「春ネエ、姉の春菜が入院してたのは知ってるでしょ」
いや、オレは全く知らなかった。正直に話すと、新美に呆れた顔をされた。
「仮にも、カノジョの姉さんだろ。しかも超が付く売れっ子モデルじゃないか。オレだって知ってたぞ」
 全くそのとおり、反論の余地はなかった。
「で、契約の問題で、代役を誰にするかってことだったんだ。たまたま、妹の秋穂がアイドルデビューすることに重なって、芸能事務所のひとがウチに来た時、あたしに目を付けちゃったの」
オレと新美は、意外な話の展開に顔を見合わせていた。妹が、アイドルデビュー?芸能事務所?夏実の話は、現実の話とは思えないほど、浮世離れしていた。聞けば、芸能事務所の評価では、三姉妹の中で、夏実がいちばんの美形だったらしい。
 「で、ウチの父がね、あたしに断りもなく、OKしちゃったもんで、事務所は契約がどうのこうの言うし、あたしは、芸能界なぞ興味ありません、て言ってやったら、大揉めに揉めてたわけなんだ。契約問題が絡んでたんで、表に出せなくて、遼介にも話せなかったの。ホントにゴメンね」
 分かってしまえば、なんてことはない、といえる話だった。だが、オレにはちょっと引っ掛かりが残った。なんでこのタイミングで、そんなトラブルが起こるんだ。夏実との関係がおかしくなってた時、しきりに青崎の奴はコナかけてきたし。
「まあ、武田なら、アイドルか女優かでデビューしたって不思議じゃないな」
「あたしは、そんな気はまるでないよ。だいいち、そんなことしたら、満足に遼介と逢うこともできなくなるでしょ」
「勿体ない話だ。こんな男のために、未来の大スターがひとり消えたのか」
「芸能界って、そんなに甘い世界じゃないよ。身内が関わってるから、多少の知識はあるけど、あたしは興味ないな」
 話を聞いていたら、夏実は、オレを大事に思っていてくれたことが分かってきて、嬉しくなった。それと共に、しなければならないことも。オレは、立ち上がると、テーブルに手をついて、夏実に頭を下げた。
 「謝らなきゃならないのは、オレの方だ。そんな大変な想いをしていた、夏美にあんなひどいことを言って、すまなかった。このとおりだ」
「そう言や、そうだね。お詫びをして貰わくちゃいけないかな?」
「すまん、オレにできることは、何でもする。あっ、て言っても、できることと、できないことは自ずとあって」
 夏美はクスクス笑っていた。
「じゃあ、できるだけデートしてくれることかな」
「そんな、お安いことなら幾らでも」
 新美が、ウンザリしたような顔をして、あさっての方向を向くと、頬づえをついた。
「イチャつくのは、他でやってくれって、前にも言ったよな」
「ごめん、ごめん」
夏美が笑顔で手を合わせた。
「でも、新美君て、ルックスも悪くないし、成績だって良いんでしょ。優しいし、カノジョいないの?それとも、作らないのかな?」
 新美は渋顔になった。
「作らないんじゃなくて、できないの!」
「なんで?新美君、好い男だよ。作ろうとしないだけなんじゃないの」
「ああ、そう言えば、新美は夏実におか惚れしてたんだよな」
オレもニヤニヤしながら、イジッてやった。
 「ちげーよ、って前にも言ったろ!オレは武田に告ってない」
「告るのと、惚れるのは、イコールじゃないよな」
オレの言葉に、ムッとしかけた、新美に夏実がフォローした。
 「あたし、新美君の力になりたい。もし好い娘がいるなら、仲立ちしてあげるよ。こないだの、楓ちゃんなんてどう?昔からの知り合いなんでしょ」
「いや、あいつとは、ただの同級生というだけだ。そんな関係じゃねえし」
 明らかに慌てている新美を観て、オレは夏実のカンの鋭さに、改めて感心した。
「お互いカップル同士なら、一緒にこうやって話もできるし、ダブルデートだってできるじゃない?」
いや、デートは付録付きじゃなく、オレは夏実とふたりきりが良いんだが。新美が何か言う前に、夏実は感想を述べていた。
 「あたし、楓ちゃんとなら、うまくやってけそう。ねえ、告るんなら、早い方が良いと思うよ」
「勝手に話進めてんじゃねえよ!オレは、楓が良いとかひとことも言ってねえし。だいたい『うまくやってけそうって』てなに?武田は、オレの姉かなにかなわけ?」
 オレは、夏実と、新美のやり取りに、思わず吹きだした。
「だいたい、楓のターゲットはこいつであって、オレじゃねえよ」
 新美は、オレを指さした。いや、そう言われてもなあ、自分で言うのもなんだが、オレは一途な男で、夏実以外の女性に興味はない。いちどに複数の女性に想いを寄せる、なんて芸当はオレにはできない。だから、楓に興味はない、と言ってやった。
 「世の中は、理不尽だ。こんなイケメンとも言えないやつが複数の女性にモテて、オレみたいなフツメンは、女性と縁もゆかりもない。可哀想なオレ」
「だから、力になるって、言ってんじゃん。マジで新美君は、好い男だよ。絶対カノジョできるって。楓ちゃんが嫌なら、他でもフォローするよ」
 すると、意外にも新美のやつは、顔を赤らめた。
「・・・別に、楓が嫌いってわけじゃねえし」
オレと、夏実は顔を見合わせて、にやけた。
 「・・・新美君の気持ちは分かったから、少し作戦練らせて」
夏実は、優しく新美に話しかけた。
 新美と別れたあとで、オレは夏実にどうする気だ?と尋ねた。
「あの子たち、昔は結構いいムードだった。ソフィアがあなたに断られた後、ネルソンが優しく彼女に接していて、良い感じになりかけてたの。でも、その後、ネルソンは志願して入隊して・・・」
「還ってこなかった、ということか」
「・・・」
 「前から思ってたんだが、もし転生輪廻が存在するとなると、前世のそのまた前世もあるだろう。お前は、その前々世のことは、覚えてないのか」
「なによ、突然?」
「質問に答えろよ」
「・・・そこまでは、分からない」
 オレは、夏実の横顔をじっと見つめた。
「記憶があるんだろ」
夏実は、きっと俺を見つめた。
「ないよ!前々世って、あるかも分からないし」
「そうか?」
「なによ、私を疑ってるの?」
「いや、お前に記憶がなくても、不思議じゃないかもしれないな。いつも転生先でお前と逢えるとは限らないだろうし」
 「もしかして・・・あんたは前々世の記憶があるの?」
「・・・いや、途轍もなく古い世界の光景が脳裏に浮かぶことがある。とても二十世紀のこととは思えない、古色蒼然たる光景だ。それが、前々世かどうかは分からん。だが、お前たちと前世で過ごした時代とも違うことは分かる」
 オレは、さっきから、ある考えに囚われていた。
「なあ、人間関係って移り変わるよな。敵だった奴が味方に回ったり、逆に裏切られたり、長い転生輪廻の中では、それが起こる可能性は余計に高くなるんじゃね。極端なこと言えば、夏実とオレが、憎み合い殺し合った前世だってあるかも知らないぜ」
「そんなことあるわけないでしょ。私のことが信じられないの」
「いや、お前の今の気持ちは分かっているよ。恐らく、過去世でも、お前はオレにそういう気持ちで接してくれただろう。だけど、生まれた境遇の違い、ということもあるだろう。オレたちの気持ちに関係なく、敵同士として接しなければならない、生活環境の時だってあったかもしれない」
 オレの言葉を聞いていた、夏実は突然オレの頬を引っ叩いた。目には涙を溜めていた。
「やっぱり、覚えてんじゃん」
オレは、穏やかに言った。夏実の気持ちは分かるつもりだった。数知れない、転生の中で、こいつに引っ叩かれるのは、何回目だろうと考えていた。
 「結局、あんたは何が言いたいのよ!」
「だから、新美と楓のことだってそうだ。うまくやった過去世もあるだろうし、そうでなかった時もあったんじゃね。放っといても、なるようになるということさ。別にお前がちょっかい出すのを否定するつもりもないがな」
 「・・・」
暫く夏実は考えていたが、やがて決心したように言った。
「やっぱり、あのふたり、放っとけないよ。あたしが関与して、うまくいった時だってあるかもしれない。楓をそそのかしてみる。ふたりで逢いにくいなら、私たちが尻を押してやる方法もあるし」
「まあ、夏実がそう思うなら、好きにすればいいんじゃね」
「あんたにも、手伝って貰うから」
「マジか」
「・・・それと、引っ叩いてゴメン・・・」
 オレは身を寄せてきた夏実に、気にするなと言った。それよりも、夏実のちょっかいの方が面倒だった。じつは、オレも人の世話を焼いている場合ではなかったのだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

リアルメイドドール

廣瀬純七
SF
リアルなメイドドールが届いた西山健太の不思議な共同生活の話

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

リボーン&リライフ

廣瀬純七
SF
性別を変えて過去に戻って人生をやり直す男の話

処理中です...