満月の夜には魚は釣れない

阪上克利

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じっと待っているだけでは魚は釣れない

週末の約束

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待ち遠しいような憂鬱のような…そんなおかしな気持ちで週末を待ったのは靖男にとっては初めての経験だった。
楽しみかと言われれば…楽しいような気がしないでもない。ただ憂鬱かと言われればはっきり憂鬱だ。
女の人と二人きりで何を話していいか分からない。
話さないわけにはいかないのだろうけど、何を話していいかが分からないのだ。
まさか最近はまっているゲームの話をするわけにもいくまい。

週末が来るのはいつも遅く感じる。

仕事は嫌ではないが楽しいわけでもない。
ただ疲れることが多いので早く身体を休めたい。
それに週末の夜は好きなゲームをしたい。
高校時代からパソコンの前に座っているのが好きだったからあまり外には出なかった。
外で遊ぶのは克利と出かけるときぐらいだった。
だからあまり外に出て何かをするということ自体、靖男には苦痛ではある。
最近では克利の影響で釣りに行くようになったのでそうでもなくなったのだが…。

今週末はゲームはできない。
約束があるから寝坊するわけにはいかない。
そう考えると、靖男は少し憂鬱になる。

ただ里奈と会うのは緊張するものの、嫌ではない。
変な期待をするのは禁物だが、映画を見に行くなんて、ちょっとしたデートのようではないか。
二人きりかどうかを聞いていないのでもしかしたら誰かが来るのかもしれない。

もし…
誰かがきたら嫌だなあ。
漠然とした不安が頭の中にもたげてくる。
別に二人きりでなくてもいいのだが…いや…むしろ二人きりでない方が助かると言えば助かるのだが、ただ誰か来るのが靖男の知らない人なら来ないでくれる方が助かる。

週末が楽しみである反面、憂鬱…という複雑な感情を抱えたまま平日を過ごすのは靖男にとっては初めての経験だった。楽しいんだか憂鬱なんだかはっきりしてほしいものである。
ただまあ…人の感情と言うのはそんな風に複雑なのかもしれない。

週末はあっという間にやってきた。
靖男は約束の時間に約束の場所でいつもの格好で行った。
特におしゃれはしていない。
てゆうか洒落た格好と言うのはどういうものを指すのかが分からない。
とにかくいつもと同じ、襟付きのポロシャツに、清潔なGパンを履いて約束の場所に向かった。

なんだか…克利に見られたらなにかをつっこまれそうな気がしたが、まあ…いいだろう。
そもそも持っている服装のバリエーションがあまりないのだ。
それにどうせ克利はこのことを知らないわけだし言わなきゃいいんだ。

約束の場所には少し早めについた。
夜眠れなかった…ということはない。
ただ…高校時代の友人である多田史郎が、夜中にメールしてきたからである。

『安眠妨害しにきたぞ~。』

夜勤をしている多田は夜勤の休憩中にこういうくだらないメールをごくたまに送ってくるのだ。
『マジでやめてほしい。』
克利はそんなことを言っていた。
靖男は寝るときに携帯をサイレントにするので多田からのメールは起床後に知ることが多い。
しかし今週は里奈との約束のことで気持ちが落ち着かず、サイレントにするのを忘れていた。
おかげで真夜中の3時ごろ、一回起きることになってしまったのだ。
確かに…克利の言うようにこれは迷惑かもしれないな…と靖男は思った。
そういえば3人が集まったときに、克利が言っていた。

携帯のアラームを設定しているのでサイレントにするわけにいかないから、夜中にメールするならウェブメールの方にしてくれ…と。なんでもかみさんに怒られるそうだ。

確かに…。
怒るわな。
かみさん。
とりあえず・・・夜はサイレントにするのを忘れないようにしよう。
靖男はあらためてそう思った。

この日は一度起きてしまった脳がまた眠りにつくのは簡単なことではなかった。
まあ、いいんじゃない?
今日は約束があるんだし。
靖男はそう思ってパソコンの電源を入れて、ゲームの続きをすることにした。
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