満月の夜には魚は釣れない

阪上克利

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満月の夜には魚は釣れない

メバリング

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『釣りに誘おう』

 里奈はふと思った。
 もともとは釣りが縁で靖男とは知り合ったのだ。節目である……いや節目と勝手にこちらで考えているだけだが、それでもこういう節目と決断した時には釣りに行くのがふさわしいのではないだろうか。
 釣りをしてれば気まずくなっても竿を振って水面を見つめればいい。
 魚がかかれば重い空気も吹き飛ぶだろう。
 魚釣りとはそういうものだ。

 何釣りに誘おうか……などと考えながら仕事ができるのは釣具屋に勤めている特権ではある。

 里奈は普通の勤め人と違い土日祝日に仕事になることが多い。
 これが実は里奈の交友関係を狭めている原因でもある。靖男と出会えたのもたまたま土曜日がお休みだったからだ。

 あの日は……。
 土曜日だから管理釣り場に行っても混みそうだからやめようと思っていた。
 人がたくさん来ると魚は警戒する。だから釣れないことの方が多いのだ。
 朝、起きたら……天気が良かった。
 なんだかもったいないような気がした。
 せっかくの休日に、何もすることなく一日を過ごすのは嫌だなと思ったので、思い切って御殿場まで車を走らせた。

 実は、一瞬……釣りに行かずに買い物に出かけようかとも考えた。
 釣りばかりしてないで、もう少し女子らしいことをした方がいいのかな?と思ったのだ。
 でも女子らしいことをして里奈が楽しかったことなどない。青空のもとで身体を動かしていた方が性に合っている。
 だからあの日は管理釣り場に出かけたのだ。

 よく考えてみれば靖男の友人の克利が声をかけてくれなかったら、靖男とは出会わなかった。
 こういうことに限った話ではないのだが、人との出会いは偶然の重なりなのかもしれない。
 だからこそ……『一期一会』
 出会いを大事にしなければならない。

 そういえば靖男はそこまで釣りにのめり込んでいるわけではない。
 友人の克利は相当なのめり込み具合で、彼は1週間に一度は必ず、釣具屋にやってきてあれこれと物色して帰っていく。子供ができたということなのでそんなに釣りには行けていない様子だが、行きたくて仕方ないのだろう。
 そんな克利の影響で靖男は釣りをしていた。
 だからそんなに道具もたくさん持っているわけではない。
 そういえば……デートで釣りに行くというのは数えるほどしかない。
 出会いは釣りだったが……付き合い始めてからは映画に行ったり、食事をしたり、買い物をしたり……だった。多くのカップルがするようなことばかりしてきたが、振り返ってみるとそんなに面白くもなかったような気もする。
 やっぱり釣りが縁で付き合うようになったのだ。
 これからは一緒に釣りにもでかけよう。

 靖男が持っている釣りの道具はニジマス用のトラウトロッドと3ポンドのナイロン製の釣り糸が200メートル程度巻いてあるリールのみだ。
 ルアーもスプーンというニジマス釣り用のものが数個あるだけだろう。
 そんな状態では他の釣りをすると言っても限られている。

『橘さん。メバリングのリグが欠品しそうだから発注かけといて』
『はい』

 レジのところで仕事をしていたら主任に声をかけられて、里奈ははっとした。

 メバリングか……。

 メバリングとはメバルという小さな魚を狙う釣りのことである。
 釣りガールが多くなった要因の一つは、釣りというスポーツに対して、エサ釣りの概念が少なくなってきたということがある。オキアミなどのエビならいざ知らず、ユムシやアオイソメなどの虫エサを触るのに抵抗を示す女子は少なくない。
『イソメが嫌なのよねえ。仕事でも触るの嫌だもん』
 陽葵は未だにそんなことを言う。
 里奈は特に嫌だと感じたことはないが一般的な女子にはあの虫エサは嫌がられるだろう。

 その点、ルアーでの釣りはエサに触れることは少ない。
 最近ではフィッシュグリップの進化もあって魚にさえ触れなくても済むようになっている。

 そういえば……
 靖男もあまり魚に触れるのは好きではないような感じがする。
 まあ、慣れなんだろうけど、がっつりエサを使っての釣りよりも、ルアーを使った釣りの方が彼には向いているのかもしれない。
 そしてメバリングなら彼が持っている道具でもできる。
 リグとワームさえ購入すればお手軽に釣りができるはずだ。
 それにメバル釣りは夜だ。
 予定も合わせやすいだろう。

 いつにしようか……
 メールしてみよう。
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