隣の二階堂さん

阪上克利

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猫の独り言

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 朝の陽ざしが眩しいので俺は少し目を細める。

 細めた目が眼光鋭い一癖も二癖もありそうな顔に拍車をかけていることは否まない。
 自分でも分かるのだが……俺はそんなにいい顔はしていない。
 目には昔やんちゃしてた頃の傷があるし、食べ物が見つからなかったときは残飯漁りからネズミを捕まえて食べることまでしていた。

 自己紹介するのを忘れていたが、俺は猫だ。
 
 俺の縄張りはなかなか広くて、夜遊びした後は縄張りの端にあるボロアパートの近くまで行く。
 ここにはカラスがよくやってくるから気をつけなければならないが……俺ぐらい身体が大きくて目つきも悪いと連中もなかなか手を出してこれない。

 それにしても人間と言うのはなかなか面白いものである。
 俺の顔つきや目つきは決していいものではない。
 毛並みだって最近では大分良くなったが、それでもそんなにいいものでもない。
 身体もやたらでかいし……可愛い要素などないはずなのだ。

 にもかかわらず……。
 毎朝ここのボロアパートの住民でもある小柄な女がオレをじーーっと見ているのだ。
 あれはもう羨望せんぼうのまなざしだ。
 オレのどこにそんな魅力があるのだ。
 そんなに見つめられるとさすがに照れる。

 ただ……油断はできない。
 羨望せんぼうのまなざしだと思っているのは俺だけかもしれないからだ。

 最初……この女はオレを捕まえて保健所送りにするつもりなのかと思っていた。
 油断なく相手から視線をそらさず、ゆっくりと間合いの外に逃げる。
 人間相手には造作もないことだが、たまに人間にも達人がいるので油断大敵だ。

 『ネコちゃん。今日も日向ぼっこしてるのかなあ』

 女が怪しい目つきでこちらを見ている最中に、同じアパートの住民らしき親子もここを通る。
 親子のうち幼い女の子が俺を見て『ネコちゃん、可愛い』というのだ。

 可愛いか?
 いや……嬉しいが……俺を可愛いと本気で言っているなら美的感覚がおかしいとしか考えられないぞ。

 それにしても子供はやはり可愛い。
 俺は子供が好きだ。
 こんな俺でも可愛いと言ってくれるからだ。
 この夕凪ゆうなと呼ばれている女の子は特に好きだ。
 猫である俺になにかできるとは思わないが、この子の身に何か危険があるのなら、絶対に守ってあげたい。

 そもそも子供たちを守るのは大人の役目だ。
 それは猫であっても人間であっても変わらないはずだ。

 『デューク、行ってくるね』

 二階堂と呼ばれたあの妙な女がこちらを見て言った。
 どうやらこいつは俺が野良猫だと思い込んでいるらしく……たまにめざしの干物などを投げてくれる。
 いや……ありがたいのだが、辞めてほしい。

 俺、飼い猫だし。

 外でなんか食べて帰ると怒られるんだよ。
 飼い主に。

 あと勝手に『デューク』と呼んでくれているが……。
 名前は……『ラルジュ』という立派な横文字の名前をもらっているのだ。

 特に実害はないが……正直迷惑なのでできればちゃんとした名前を憶えてほしい。
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