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辞めた理由
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2月になると関東地方に大雪が降ることがある。
雪国ではない関東の人間たちはこの雪に非常に苦労し、やれ滑って怪我をしたとか……やれ電車が止まったとかで大騒ぎするのだが、雪国で生まれ育った人間からするとこういうのは非常に滑稽に写るようである。
高村新平は先日、仕事を辞めたばかりだった。
小包の配達の仕事である。
新平は高校を卒業して、専門学校を出た。やりたいことがなかったからである。
大学には学力がなかったのでいけなかったし、行く気にもなれなかった。
大学に行って何がしたいのか?
そう両親から問われたときに何も答えることができなかったからだ。専門学校に行ったのも、とりあえず行っとこうか……ぐらいの感覚だった。簿記を勉強したのもなんとなくこれならできそうだから……という理由だった。
要は何も考えていなかったのである。
いや……何も考えていなかったのではない。
考えたくなかった……というのが正直なところなのだ。
専門学校を卒業するときには就職活動をしたが、この不況の折に簿記の仕事など、どこもなかった。在学中には就職を決めることはできず、職業安定所に行ったが、そこでも求人票のどこを見ても資格欄に『大学卒以上』と書いてあった。
専門学校の進路相談室にはさすがにそういった類の求人はなかったが、簿記の仕事につきたいわけでもないので新平は就職活動をしなかった。
もちろん……
仕事をしなければいけないことは分かる。
分かるのだが何の仕事をしたいと問われれば……したい仕事などないのだ。
だから、楽な仕事を探した。
そして見つかったのが小包の配達の仕事であった。
小包の配達は楽そうに見えてそうでもない。
まず休みがない。
日曜日以外は基本的に仕事である。
そして重い荷物を持って階段を上がらなければならない。
狭い道に車を停めてほかの車から文句を言われることもある。
そんなに苦労して家に行っても家人がいなければ、基本的には荷物を受け渡しできるまで何度も訪問することになる。
どの仕事もそんなに甘くない、楽な仕事などないことは新平にもなんとなく分かるのだが、それにしても休みが取れないというのは新平にとってはつらかった。
人が休んでいるのを尻目に仕事をするのは辛い。
高校、専門学校と出て、いつもそれなりに土日は休みで好きなことをしているという生活を続けていると、365日毎日働くという感覚には違和感を感じるもので、それが続くと苦痛になってくるということを新平は仕事をして初めて知った。
ただ……周りを見回すとそんなことを平気でやっている。
新平の父親は朝早く家を出て、日付が変わる頃に家に帰ってくる。
休みも日曜日しかない。
高校の同級生も専門学校で仲良くなった友人もみな、普通に社会に溶け込んで特に大きな不平を言うこともなく仕事をしているように見える。
これがやりたい仕事なら別だが、特に面白くもない仕事でよくもまあ、そんなに休みもなく仕事ができるなあ……と新平は思う。
なぜみんなガマンできるのだろうか……と思うがそれを聞くのはなんだかいけないことのようで聞けなかった。
だから最初の数か月はガマンして配達の仕事を続けた。
配達の仕事のいいところは、仕事そのものが単純作業で誰でもできる仕事であることである。車の運転さえできれば特に問題のない仕事で配達に出てしまえば誰とも話すこともない。人間関係の煩わしさはないし、気軽な仕事ではあった。
ある日……正確には新平が退職する1ヶ月ほど前の話。
つまらないことで新平は先輩に怒られた。
『おい! チルドのクーラーボックスなんで2つも使うんだよ! バカなんじゃないの!』
小包には冷凍保存したまま運ばなければいけないものもあり、簡易的な保冷バックに保冷剤を入れて運んでいるのだが、その日、新平に割り当てられたチルドの荷物は多かったので控室にある少し小さめなチルド用の保冷バックを2つ使ったのだ。
『これで運べばいいだろ!! バカ!!!』
本当に些細なことである。
確かに先輩の言うことは正しく、荷物が多ければ大きな保冷バックに入れれば済むことだ。
先輩は自分の荷物を小さめの保冷バックに入れたかったらしく激怒していたが、大は小を兼ねると言うし、別に自分が大きめの保冷バックを使えばいいことではないだろうか。
そういえば以前にも嫌なことがあったことを新平は思い出した。
高校時代の友人がバイク事故で亡くなったときのことだ。
親友というほどではないがそれなりに仲良くしていた友人なので葬儀には参列するつもりだったから休みを申請した。
その休みは通った……が……
数日後。
年末は忙しい!
休まないでください!!
と大きく赤字で書かれたメモ書きが新平の業務スペースに貼ってあったのだ。
それは明らかに保冷バックのことで激怒した先輩の字だった。
その時は新平も頭に来たので聞こえるように大きな声で『なんだよ! 友達の葬式にも出ちゃいけないのかよ!』と怒鳴った。
結果。
その日は休んだ。
たぶん、それが面白くなかったのだろうか?
原因はよく分からない。
何か蓋をしていたものがはずれてしまったかのように新平は配達の仕事が嫌になった。この仕事の良さは煩わしい人間関係がないことなのに、休みをとると嫌がらせをされ、些細なことで怒られてしまう。
だったら何のためにこの仕事をしているのだろう……という気分になったのだ。
実に嫌になる時と言うのはこういうものなのかもしれない。一度嫌になるともう止められなかった。
学校を卒業した以上、社会の一員として仕事をするのは当たり前のことであるという自覚は新平にはあったのでしばらくはガマンしていたのだがそんなガマンは続かなかった。
このころになると一日も早く、仕事を辞めたくて仕方なくなった。
新平は車の中でも家に帰っても……とにかく24時間他の仕事に就くことか、仕事を辞めることしか考えられなくなっていた。
『辞めさせてください。』
この言葉を言うのはかなり躊躇した。
自分なりに悩んだが、こんな気持ちのまま毎日を過ごすのは嫌だと思った。
寝ても覚めても先輩の怒っている顔が目に浮かぶ。休めない毎日。そんな毎日に慣れるとは新平には思えなかった。たとえ慣れることができたにしても何年先のことなのだろう。
それは果てしなく遠いように思えた。
辞める……という行為は自分で自分に『不合格』の烙印を押すという行為に近い。そういう風に新平は感じていたからこれはこれでつらかった。『苦渋の選択』というのはこういうことを言うのかもしれない。
だから『辞める』という決断をするまでには、かなり悩んだのだが、配達中、一人の時にラジオから流れてくる音楽につい涙ぐんでしまったときには、自分がかなり追い詰められているように感じた。
それで新平は決心した。
『分かった。いつまで?』
『それは会社にも都合があると思いますから……その都合に合わせます』
新平は気を使ったつもりだった。
人が急にいなくなるというのは業務に支障をきたすことになる。
だから、極力、辞めるにしてもそういう迷惑はかけないようにしたかったのだ。
『いつでもいいよ』
上司に気楽に言われたのはショックではなかった。
どういうつもりなのかは分からないが、新平一人いなくなっても会社はそんなに困らないということらしかった。もちろん退職金などは期待していないのでやめることができるなら明日にでも辞めたかった。
それで新平は思い切ってそのことを上司に告げた。
『今日で辞めたいと思います』
会社を辞めるということは思っていたよりも簡単にできるものであることを新平は学んだ。
こうして新平は配達の仕事を辞めてしまった。
仕事を辞めることは両親には言っていない。
言っていないというか……なかなか言い出せることではない。会社に『辞める』というのは簡単なことだが、両親に『辞める』というのはなかなか難しい。
もちろんそんな両親について新平は面倒だとは思わない。
高校も専門学校も出してくれて、新平のことを心配してくれていることはよく分かるからである。だからこそ『辞めた』とは言えなかった。
退職した日の朝。
先日、降った雪の名残が道路に残っているのを確認しながら新平はいつものように家を出た。
『辞めた』と言い出せなかったので出勤するふりをしているわけである。どうにもしまりは悪いがそれでもしばらくはそうやってごまかすしかないのだ。
通勤のために思い切って購入した中古のシビックにエンジンをかける。
いつもようにエンジンがかかる。
もう雪はあらかた溶けているから車で道路を走るのは問題ないだろう。
車に乗ってドライブしながら後のことは考えよう。
そう思いながら家を出た。
それは雪が降った翌日の月曜日の出来事であった。
雪国ではない関東の人間たちはこの雪に非常に苦労し、やれ滑って怪我をしたとか……やれ電車が止まったとかで大騒ぎするのだが、雪国で生まれ育った人間からするとこういうのは非常に滑稽に写るようである。
高村新平は先日、仕事を辞めたばかりだった。
小包の配達の仕事である。
新平は高校を卒業して、専門学校を出た。やりたいことがなかったからである。
大学には学力がなかったのでいけなかったし、行く気にもなれなかった。
大学に行って何がしたいのか?
そう両親から問われたときに何も答えることができなかったからだ。専門学校に行ったのも、とりあえず行っとこうか……ぐらいの感覚だった。簿記を勉強したのもなんとなくこれならできそうだから……という理由だった。
要は何も考えていなかったのである。
いや……何も考えていなかったのではない。
考えたくなかった……というのが正直なところなのだ。
専門学校を卒業するときには就職活動をしたが、この不況の折に簿記の仕事など、どこもなかった。在学中には就職を決めることはできず、職業安定所に行ったが、そこでも求人票のどこを見ても資格欄に『大学卒以上』と書いてあった。
専門学校の進路相談室にはさすがにそういった類の求人はなかったが、簿記の仕事につきたいわけでもないので新平は就職活動をしなかった。
もちろん……
仕事をしなければいけないことは分かる。
分かるのだが何の仕事をしたいと問われれば……したい仕事などないのだ。
だから、楽な仕事を探した。
そして見つかったのが小包の配達の仕事であった。
小包の配達は楽そうに見えてそうでもない。
まず休みがない。
日曜日以外は基本的に仕事である。
そして重い荷物を持って階段を上がらなければならない。
狭い道に車を停めてほかの車から文句を言われることもある。
そんなに苦労して家に行っても家人がいなければ、基本的には荷物を受け渡しできるまで何度も訪問することになる。
どの仕事もそんなに甘くない、楽な仕事などないことは新平にもなんとなく分かるのだが、それにしても休みが取れないというのは新平にとってはつらかった。
人が休んでいるのを尻目に仕事をするのは辛い。
高校、専門学校と出て、いつもそれなりに土日は休みで好きなことをしているという生活を続けていると、365日毎日働くという感覚には違和感を感じるもので、それが続くと苦痛になってくるということを新平は仕事をして初めて知った。
ただ……周りを見回すとそんなことを平気でやっている。
新平の父親は朝早く家を出て、日付が変わる頃に家に帰ってくる。
休みも日曜日しかない。
高校の同級生も専門学校で仲良くなった友人もみな、普通に社会に溶け込んで特に大きな不平を言うこともなく仕事をしているように見える。
これがやりたい仕事なら別だが、特に面白くもない仕事でよくもまあ、そんなに休みもなく仕事ができるなあ……と新平は思う。
なぜみんなガマンできるのだろうか……と思うがそれを聞くのはなんだかいけないことのようで聞けなかった。
だから最初の数か月はガマンして配達の仕事を続けた。
配達の仕事のいいところは、仕事そのものが単純作業で誰でもできる仕事であることである。車の運転さえできれば特に問題のない仕事で配達に出てしまえば誰とも話すこともない。人間関係の煩わしさはないし、気軽な仕事ではあった。
ある日……正確には新平が退職する1ヶ月ほど前の話。
つまらないことで新平は先輩に怒られた。
『おい! チルドのクーラーボックスなんで2つも使うんだよ! バカなんじゃないの!』
小包には冷凍保存したまま運ばなければいけないものもあり、簡易的な保冷バックに保冷剤を入れて運んでいるのだが、その日、新平に割り当てられたチルドの荷物は多かったので控室にある少し小さめなチルド用の保冷バックを2つ使ったのだ。
『これで運べばいいだろ!! バカ!!!』
本当に些細なことである。
確かに先輩の言うことは正しく、荷物が多ければ大きな保冷バックに入れれば済むことだ。
先輩は自分の荷物を小さめの保冷バックに入れたかったらしく激怒していたが、大は小を兼ねると言うし、別に自分が大きめの保冷バックを使えばいいことではないだろうか。
そういえば以前にも嫌なことがあったことを新平は思い出した。
高校時代の友人がバイク事故で亡くなったときのことだ。
親友というほどではないがそれなりに仲良くしていた友人なので葬儀には参列するつもりだったから休みを申請した。
その休みは通った……が……
数日後。
年末は忙しい!
休まないでください!!
と大きく赤字で書かれたメモ書きが新平の業務スペースに貼ってあったのだ。
それは明らかに保冷バックのことで激怒した先輩の字だった。
その時は新平も頭に来たので聞こえるように大きな声で『なんだよ! 友達の葬式にも出ちゃいけないのかよ!』と怒鳴った。
結果。
その日は休んだ。
たぶん、それが面白くなかったのだろうか?
原因はよく分からない。
何か蓋をしていたものがはずれてしまったかのように新平は配達の仕事が嫌になった。この仕事の良さは煩わしい人間関係がないことなのに、休みをとると嫌がらせをされ、些細なことで怒られてしまう。
だったら何のためにこの仕事をしているのだろう……という気分になったのだ。
実に嫌になる時と言うのはこういうものなのかもしれない。一度嫌になるともう止められなかった。
学校を卒業した以上、社会の一員として仕事をするのは当たり前のことであるという自覚は新平にはあったのでしばらくはガマンしていたのだがそんなガマンは続かなかった。
このころになると一日も早く、仕事を辞めたくて仕方なくなった。
新平は車の中でも家に帰っても……とにかく24時間他の仕事に就くことか、仕事を辞めることしか考えられなくなっていた。
『辞めさせてください。』
この言葉を言うのはかなり躊躇した。
自分なりに悩んだが、こんな気持ちのまま毎日を過ごすのは嫌だと思った。
寝ても覚めても先輩の怒っている顔が目に浮かぶ。休めない毎日。そんな毎日に慣れるとは新平には思えなかった。たとえ慣れることができたにしても何年先のことなのだろう。
それは果てしなく遠いように思えた。
辞める……という行為は自分で自分に『不合格』の烙印を押すという行為に近い。そういう風に新平は感じていたからこれはこれでつらかった。『苦渋の選択』というのはこういうことを言うのかもしれない。
だから『辞める』という決断をするまでには、かなり悩んだのだが、配達中、一人の時にラジオから流れてくる音楽につい涙ぐんでしまったときには、自分がかなり追い詰められているように感じた。
それで新平は決心した。
『分かった。いつまで?』
『それは会社にも都合があると思いますから……その都合に合わせます』
新平は気を使ったつもりだった。
人が急にいなくなるというのは業務に支障をきたすことになる。
だから、極力、辞めるにしてもそういう迷惑はかけないようにしたかったのだ。
『いつでもいいよ』
上司に気楽に言われたのはショックではなかった。
どういうつもりなのかは分からないが、新平一人いなくなっても会社はそんなに困らないということらしかった。もちろん退職金などは期待していないのでやめることができるなら明日にでも辞めたかった。
それで新平は思い切ってそのことを上司に告げた。
『今日で辞めたいと思います』
会社を辞めるということは思っていたよりも簡単にできるものであることを新平は学んだ。
こうして新平は配達の仕事を辞めてしまった。
仕事を辞めることは両親には言っていない。
言っていないというか……なかなか言い出せることではない。会社に『辞める』というのは簡単なことだが、両親に『辞める』というのはなかなか難しい。
もちろんそんな両親について新平は面倒だとは思わない。
高校も専門学校も出してくれて、新平のことを心配してくれていることはよく分かるからである。だからこそ『辞めた』とは言えなかった。
退職した日の朝。
先日、降った雪の名残が道路に残っているのを確認しながら新平はいつものように家を出た。
『辞めた』と言い出せなかったので出勤するふりをしているわけである。どうにもしまりは悪いがそれでもしばらくはそうやってごまかすしかないのだ。
通勤のために思い切って購入した中古のシビックにエンジンをかける。
いつもようにエンジンがかかる。
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