ある雪が降った翌日のよく晴れた月曜日のはなし

阪上克利

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思い出と現実

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 将来のことなど……今まで考えたことがないというのが正直な感想である。
 喫茶店で汐莉に聞かれたときの、新平の正直な気持ちだ。
 今でもその気持ちには変わりがない。
 いや。
 将来のこと……。
 全く考えていないわけではない。
 でもどうしていいか分からないのが現状なのだ。

 コンビニの駐車場に車を止めてシートを倒して車の中で横になる。読みかけの文庫本を開く。物語の世界は麻薬のように新平を包み込んでいく。物語の世界に没頭すれば現実を見なくてもいい。こういう仕方で逃げる方法もあるんだな……と思うこともある。
 まさに現実逃避。
 ただ現実逃避しなければ気持ちが追いつかない。

 このなんというか……
 空虚な気持ち……

 そんな気持ちを落ち着かせるにはまずは現実から目をそむけることも必要だと思うのだ。
 もちろんずっとそうではいけないことは分かっているし、どうにかしたいとも思っているのだ。
 しかしどうすれば良いかが分かれば苦労しないし、分かれば努力をしたいのだ。

 努力の方法が分からない。

 正直な感想である。
 読みかけの本はすぐに読み終わった。なんだか複雑なラストで新平はこういう話は好きではない。物語でもなんでもシンプルなのが一番だと新平は思う。
 しかし、自分の人生はそういうわけにもいかないらしい。

『結論を先延ばしにしてもいいんじゃない?』

 あの喫茶店で大真面目に新平は汐莉にそう言った。
 いつも友人たちと遊んでばかりいる新平だが根は真面目なのである。真面目な答えに汐莉は意外な顔をした。イメージからは程遠い答えだったからだろう。
『先延ばしにしてもいいのかな? いずれ答えは出さなきゃなんないんじゃない?』
『まあ……もちろんそれはそうだけどね。でも簡単に決めていい問題でもないだろ?』
『うん……そうよね……』
 汐莉は何か迷いながらも、コーヒーを飲んだ。
 新平の女友達は喫茶店に入る時には甘いマキアートなどを飲んでいるので、砂糖を入れずにブラックのコーヒーを飲んでいる汐莉が実に大人びて見えた。
『だけど、確かにそういうこと考えなきゃなんない時期なんだよなあ……』
 新平は頭を抱えながら言った。
 オーバーリアクションで、笑いをとろうと思ったわけではない。
 真面目に話したつもりだ。

 その時……

 結論は出なかった。
 でも話は盛り上がった。
 世の中にはどんな仕事があるのかを二人で話し合った。自分がやりたいかどうかはおいておいてもその仕事の一つ一つについてじっくり考えることは今までになかったから、新鮮な話題だった。
 二人ともどこか現実を見ながら、どこか夢を見ていたような気がする。

『どんな話をしたんだっけなあ……』
 新平は読み終えた文庫本を閉じて一人つぶやいた。あの日の思い出はキラキラと輝いている。
 恋愛の甘い思い出とは少し意味合いが違うような気がする。
 形は違えど、同じ思いを持っていたという意味で彼女とは話しが合う気がする。

 もう一度彼女に会って話をしてみたい。
 そうしたら何かヒントがつかめるかもしれない。

 彼女は今、どうしているんだろうか?
 おそらく女子大生になって、キャンパスライフを謳歌おうかしているに違いない。
 大学生になってキャンパスを歩いている汐莉を新平は想像した。今の自分とはほど遠い。仕事が嫌になって辞めたことすら親に言えずにこんなところで時間をつぶしている自分。
 そう思ったら、なんだか彼女が遠くに感じられた。

 ふと車の時計を見る。
 いろいろ考えていたら時間が随分経っていたらしい。

 時計の針は10時30分を指していた。
 相変わらず外は寒そうだ。
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