書庫『宛先のない手紙』

中村音音(なかむらねおん)

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ぼろい仕事。

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 今さらカメラマン志望?
 カメラマン辞めたヤツとか、アシスタントじゃ喰っていけないって転職したヤツなら山ほど知ってるけど、このご時世にカメラマンを目指したいって。無謀にもほどがある。

 そりゃあ、仕事がないわけじゃない。
 だけど、理想に生きて清貧せいひんじゃイヤだろう?
 仕事分はお金、もらいたいだろう?
 才能があれば認めてもらいたいだろう?

 だけどこの世界じゃ、掲げた理想についてくる見返りは足元に振られる投げ銭くらいなもんだ。何十万円もかけて機材そろえて毎月ン万円の収入じゃ、ローンもまともに返せない。お金を払って仕事をしているようなもんだ。

 それを知ってるのにどうしてもって、アンタも酔狂すいきょうだねえ。
 趣味の世界に生きるなら、火の中も水の中も泳ぎ切れるかもしんないが、飯のタネにすればすぐに倒れちゃうよ。
 保険にも入ってないんだろ?
 だったらなおさら金がかかる。
 わかるよな。

 ところで、世の写真館がなぜつぶれないか知っているか?
 スマホでパチリが当たり前の世の中で、しかも懐を寒い風が吹き抜ける昨今だ。せちがらい財布が写真館に「はいどうぞ」ってそのがま口を開くわけがない。
 でも写真館はつぶれない。
 なぜか。
 それは、お得意さんを抱えているからさ。
 学校や企業。運動会や記念式の撮影需要を握ってるのさ。
 嘘だと思うのなら、写真館の予定表を見てみなよ。予定調和のスケジュールがしっかり描き込まれているんだよ。

 写真の世界も構造は単純じゃねえ。
 個人経営の写真館だって、経済構造を組み立ててお金をまわしているのさ。
 アンタみたいに理想だけで生きようなんざ、していねえ。

 わかったら帰った、帰った。
 おとといきやがれのこん畜生だ。



 こちとら、雑誌の廃刊、式典の中止続きでよそさまのこと考えてるゆとりはない。自分の飯さえおぼつかなくなってるっていうのに、他人のことなど考えてなんていられない。
 そりゃあ、若いのに育ってもらいたい気持ちはある。
 気持ちだけはな。
 こんくらい山盛りに持っている。
 だけど、どれだけ気持ちを積んだって、茶碗飯一杯分にもなりゃしねえ。力んで演説ぶつ分だけ逆に腹が減っちまう。

 来月もまたキャンセル続きさ。
 どうしろっていうのかね。


-----------

 あんなことがあったよね、と歌ったのは中島みゆきだったっけ?
 時代。タイトルだけは覚えてる。
 今の気持ちは、まさにそんなところだ。

 早く言ってほしかったよなあ。
 カメラマンっていうもんだからさ、てっきりカメラマンだとばかり思っていたじゃないか。
 写真も撮ります、ってことだったんだな。
 まさかこんな商売があったなんて露ほどにも思わなかったさ。

 いや、外国語ができるのって、本当に強みだよね。

 でもなんで撮影するところがこんなに偏ってんだ。
 それに、対価が少し多すぎはしないか?
 こんなにもらえないよ。
 いくら外国に求められているからっていったって、ちょっとぼろ儲けがすぎる。

 それに考えてみりゃあ、被写体がぜんぶ金目のものばかり扱っている店だ。

(そういや、前に撮った店が被害に遭った)

 もしかして、おまえ!
 
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