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第1章
1-13.旅仲間
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船着場に着き、シリウスたちは漁船から地上へと降り立つ。地面の感触に少しホッとした瞬間、シリウスはグラっと目の前が揺れた気がした。
「シリウス様!」
珍しく切羽詰まった声が耳に届くが、シリウスはその声に応えることができなかった。地上は揺れていないはずなのに、シリウスの体はいまだ船上にいるかのような揺れを感じていた。
あまりの気持ち悪さに、シリウスは薄らとしていた意識すら手放してしまった。
「大丈夫ですか、シリウス様!?」
小さな体を抱え、ウィズは慌てた様子でシリウスへと声をかける。しかし、シリウスは目覚めず、青ざめた顔色のまま気絶しているようだった。
「おい、大丈夫か?」
「リード、ハウル。これはどうなっているのですか?」
ウィズの異変に気づき、リードたちが駆け寄ってきた。
ウィズの腕で気を失っているシリウスを見て、ハウルはすぐ様シリウスに状態回復を使った。しかし、シリウスの顔色はあまり変化せず、ぐったりとしているままだ。
「船酔い、ではあるな。しかし状態回復でも効いている様子はない。ウィズ、シリウスの様子は?」
「船上では異常ありませんでした。しかし、船を降りたとたん、いきなり青ざめて倒れられました」
「急にか?」
「はい」
「……ひとまず宿屋で休ませてみよう。そして専門の医師にも診せておくべきだろう」
「分かりました」
ハウルの言葉を受け、ウィズは乗組員たちへの挨拶もそこそこに宿屋へと直行した。
宿屋へと着いたウィズは早速借りた部屋のベッドへとシリウスを寝かせる。シリウスの額を軽く触ると、冷や汗をかいてるせいかヒンヤリとしていた。
医者を呼びに行くと踵を返したところ、リードやハウルが医者を連れてきたようだ。痩せている小柄の老人がリードたちと共にそこにいた。
「この町の名医だ。頼むぜ、じいさん」
「ふむ……魔法使いはあまり見たことはないが、ひとまず検診させてもらうよ」
そう言うと、老人は聴診器を取り出してシリウスの心臓の音を聞き始めた。顔色や眼球の動き、脈拍、そして直前に何があったかを聞き取ると、老人は頭を掻いた。
「船酔いもそうじゃが、魔力の消耗が激しかったんじゃろう。なら魔力が枯渇しとる可能性がある」
「何故だ? 私もシリウスも回復ポーションを飲んでいるのだぞ」
「それ以上の魔力をこの坊主が使っておった、ということじゃ。そこの……ウィズと言ったか。此奴が言うにはお主ら全員への身体強化、防御魔法、それにクラーケン討伐にゃ船体全体に防御魔法をかけとったじゃと? その上、他にも色んな魔法を使ったと聞いとる。そんな無茶して魔力が枯渇せんほうがおかしいわい」
そう言って、その老人は呆れ顔で嘆息した。
そうして三人の青年の顔を順番ずつ見ていく。しかし、何も言わず、老人はバッグから黒い液体の入った小瓶を取り出した。その瓶から一滴、シリウスの口の中に流す。
「きつけ薬じゃ。この年頃の坊主に使う必要は本来ありはせんのんじゃが……」
きつけ薬を飲んだシリウスは盛大に顔を顰めたあと、ゆっくりと目を覚ます。
「シリウス様、大丈夫ですか?」
「……ウィズ? あれ、僕は……」
起きあがろうとするも、力が入らなかったようでシリウスはベッドへと再び倒れた。その様子に、老人はシリウスの額に手を置いた。
「起きちゃいかんよ。まだ体が回復しきっておらんのんじゃ」
「体が?」
「随分無茶な魔法を使いすぎたようじゃからな。回復ポーションで回復してはいかんよ。あれはその場凌ぎのために使う物。乱用し過ぎると魔力の自然回復力が難しくなり、下手をすると魔法使いとして魔力を失い、最終的には死んでしまう可能性も出てくると聞いたことがある」
「……それなら、これが魔力欠乏?」
「おそらくな。まぁ暫く寝ておれ。次に目覚めたときには軽く何か食べるんじゃぞ。栄養と睡眠。これ以上の自然回復薬は存在せん」
「分かりました。ありがとうございます」
「坊主が気にすることじゃない。お前さんはまず自分が元気になること、それだけを考えればいいんじゃよ」
老人はそう言うと、皺くちゃな手でシリウスも頭を撫でた。頭を撫でられるということに不慣れなシリウスだが、どこか嫌な気にならなかった。
むしろ小さな頃、こんな風に頭を撫でてもらったことがあるような気さえした。
そんなことを思いながらシリウスは目を細め、やがて眠りへとついた。
スヤスヤと眠っているシリウスの夢はいつも真っ暗な暗闇だった。そこは両親が亡くなってから、ずっと見ることのなかった夢の世界。しかし、今は真っ暗な闇の中に三つの光を放つ星が煌めいている。
「?」
そのことが不思議に思い、三つの光に一つずつ手を伸ばしてみる。そこに触れると、ウィズやリード、ハウルとの思い出が大きなスクリーンとなって目の前で再生されていく。
仲間と言うには過ごした時間は短く、他人と言うには関わりすぎた関係。
シリウスにとって仲間はウィズただ一人だった。仲間であり、友達であり、唯一無二の家族。
しかし、目の前に広がる思い出たちはリードやハウルまでもが大切だと主張しているように色鮮やかに流れていくのである。
「なんだ……そういうことか……」
何か腑に落ちたらしいシリウスはポツリとそう呟いた。胸の中に広がる気持ちを握りしめるように、服をグッと握りしめる。
「離れがたくなってたんだ。二人とも離れたくなかっただけなんだ」
そう言うと、言葉が滴となったように真っ暗闇だった世界が一面の青空のように澄み渡っていった。
シリウスの後ろにウィズが、そしてその両隣にリードとハウルが立っている。
「ウィズ。僕はみんなと旅がしたいよ。まだ別れたくないんだ」
ウィズへと手を伸ばすシリウス。その手をウィズの形をした残像は受け止める。そうして、リードとハウルの二人もシリウスの手へと己の手を乗せた。
受け止めてもらえた、と思った瞬間、シリウスの目から一粒の涙が流れ落ちた。けれどその表情は悲しい色はなく、嬉しそうに子供らしい笑みを浮かべた。
フッと目を覚ましたシリウスは三人が心配そうに己の顔を覗き込んでいる光景が飛び込んできた。そのことに、思わず笑ってしまいそうになる。
「え、なにこの状況?」
「大丈夫なのか?」
「あー、うん。心配かけてごめん」
「まったくである。あまり無茶な魔法を使いすぎるものではない。肝が冷えたぞ」
「シリウス様、ご無事で何よりでございます」
個々に心配事を話したあと、シリウスには粥が運ばれた。先程まで作っていたであろうと思わせる湯気と匂い。卵を溶かした粥をゆっくり口へと運ぶ。
本来であれば食堂がある一階まで降りるのだが、病人ということもあり部屋へと食事を持ってきてくれたのだった。そして一人では寂しいであろうということからリードやハウルは軽いおつまみを用意し、それを食べていた。
「ねぇ、二人にお願いがあるんだけど……」
「ん、なんだ? お前には色々助けてもらったからな。何でも聞くぜ」
「安請け合いするでない。しかし、私も力になれるならば、微力ながら助けるぞ」
「ありがとう、二人とも。あのさ、一緒に旅をしない?」
「旅?」
「うん。僕たちの目的は自分たちの居場所を見つけることなんだ。そのため安心して暮らせる街を探してる。二人がギルドでの仕事があるっていうなら仕方ないんだけど……」
「なんだ、そんなことか。俺は良いぜ! 今は決まった仕事を受けてるわけじゃねーしな。ま、ギルマスから依頼があったらちょいと力を貸してくれ」
「私も異論はない。もともと魔法使いは己が進みたいように進むのが性。私はまだシリウスたちと同行したいと思っている」
二人からそう言われて、シリウスは安心したように笑みを浮かべた。まだ別れなくても良いということが、酷く嬉しく感じるのであった。
「あ、そうだ。シリウス、条件がある」
「条件?」
「あぁ。今後こんな無茶な魔法は使わないこと! 守ってくれようとするのは嬉しいが、俺たちは冒険者だ。仲間一人に負担を強いることはしねぇから。だから、俺たちのために無茶はするな。いいな?」
「それが条件?」
「あぁ」
「……分かったよ」
シリウスがリードの条件を呑むと、二人は嬉しそうに笑う。そうして、リードはシリウスの頭をガシガシと乱暴そうに撫でた。
「い、痛いよ、リード」
「おぉ、悪い」
「まったく粗暴だな、お前は」
「いいじゃねーか、そんなこと!」
嬉しそうに笑う三人の顔。そして、何より嬉しそうに子どもらしく笑うシリウスを見て、ウィズも微笑を浮かべていた。
「シリウス様!」
珍しく切羽詰まった声が耳に届くが、シリウスはその声に応えることができなかった。地上は揺れていないはずなのに、シリウスの体はいまだ船上にいるかのような揺れを感じていた。
あまりの気持ち悪さに、シリウスは薄らとしていた意識すら手放してしまった。
「大丈夫ですか、シリウス様!?」
小さな体を抱え、ウィズは慌てた様子でシリウスへと声をかける。しかし、シリウスは目覚めず、青ざめた顔色のまま気絶しているようだった。
「おい、大丈夫か?」
「リード、ハウル。これはどうなっているのですか?」
ウィズの異変に気づき、リードたちが駆け寄ってきた。
ウィズの腕で気を失っているシリウスを見て、ハウルはすぐ様シリウスに状態回復を使った。しかし、シリウスの顔色はあまり変化せず、ぐったりとしているままだ。
「船酔い、ではあるな。しかし状態回復でも効いている様子はない。ウィズ、シリウスの様子は?」
「船上では異常ありませんでした。しかし、船を降りたとたん、いきなり青ざめて倒れられました」
「急にか?」
「はい」
「……ひとまず宿屋で休ませてみよう。そして専門の医師にも診せておくべきだろう」
「分かりました」
ハウルの言葉を受け、ウィズは乗組員たちへの挨拶もそこそこに宿屋へと直行した。
宿屋へと着いたウィズは早速借りた部屋のベッドへとシリウスを寝かせる。シリウスの額を軽く触ると、冷や汗をかいてるせいかヒンヤリとしていた。
医者を呼びに行くと踵を返したところ、リードやハウルが医者を連れてきたようだ。痩せている小柄の老人がリードたちと共にそこにいた。
「この町の名医だ。頼むぜ、じいさん」
「ふむ……魔法使いはあまり見たことはないが、ひとまず検診させてもらうよ」
そう言うと、老人は聴診器を取り出してシリウスの心臓の音を聞き始めた。顔色や眼球の動き、脈拍、そして直前に何があったかを聞き取ると、老人は頭を掻いた。
「船酔いもそうじゃが、魔力の消耗が激しかったんじゃろう。なら魔力が枯渇しとる可能性がある」
「何故だ? 私もシリウスも回復ポーションを飲んでいるのだぞ」
「それ以上の魔力をこの坊主が使っておった、ということじゃ。そこの……ウィズと言ったか。此奴が言うにはお主ら全員への身体強化、防御魔法、それにクラーケン討伐にゃ船体全体に防御魔法をかけとったじゃと? その上、他にも色んな魔法を使ったと聞いとる。そんな無茶して魔力が枯渇せんほうがおかしいわい」
そう言って、その老人は呆れ顔で嘆息した。
そうして三人の青年の顔を順番ずつ見ていく。しかし、何も言わず、老人はバッグから黒い液体の入った小瓶を取り出した。その瓶から一滴、シリウスの口の中に流す。
「きつけ薬じゃ。この年頃の坊主に使う必要は本来ありはせんのんじゃが……」
きつけ薬を飲んだシリウスは盛大に顔を顰めたあと、ゆっくりと目を覚ます。
「シリウス様、大丈夫ですか?」
「……ウィズ? あれ、僕は……」
起きあがろうとするも、力が入らなかったようでシリウスはベッドへと再び倒れた。その様子に、老人はシリウスの額に手を置いた。
「起きちゃいかんよ。まだ体が回復しきっておらんのんじゃ」
「体が?」
「随分無茶な魔法を使いすぎたようじゃからな。回復ポーションで回復してはいかんよ。あれはその場凌ぎのために使う物。乱用し過ぎると魔力の自然回復力が難しくなり、下手をすると魔法使いとして魔力を失い、最終的には死んでしまう可能性も出てくると聞いたことがある」
「……それなら、これが魔力欠乏?」
「おそらくな。まぁ暫く寝ておれ。次に目覚めたときには軽く何か食べるんじゃぞ。栄養と睡眠。これ以上の自然回復薬は存在せん」
「分かりました。ありがとうございます」
「坊主が気にすることじゃない。お前さんはまず自分が元気になること、それだけを考えればいいんじゃよ」
老人はそう言うと、皺くちゃな手でシリウスも頭を撫でた。頭を撫でられるということに不慣れなシリウスだが、どこか嫌な気にならなかった。
むしろ小さな頃、こんな風に頭を撫でてもらったことがあるような気さえした。
そんなことを思いながらシリウスは目を細め、やがて眠りへとついた。
スヤスヤと眠っているシリウスの夢はいつも真っ暗な暗闇だった。そこは両親が亡くなってから、ずっと見ることのなかった夢の世界。しかし、今は真っ暗な闇の中に三つの光を放つ星が煌めいている。
「?」
そのことが不思議に思い、三つの光に一つずつ手を伸ばしてみる。そこに触れると、ウィズやリード、ハウルとの思い出が大きなスクリーンとなって目の前で再生されていく。
仲間と言うには過ごした時間は短く、他人と言うには関わりすぎた関係。
シリウスにとって仲間はウィズただ一人だった。仲間であり、友達であり、唯一無二の家族。
しかし、目の前に広がる思い出たちはリードやハウルまでもが大切だと主張しているように色鮮やかに流れていくのである。
「なんだ……そういうことか……」
何か腑に落ちたらしいシリウスはポツリとそう呟いた。胸の中に広がる気持ちを握りしめるように、服をグッと握りしめる。
「離れがたくなってたんだ。二人とも離れたくなかっただけなんだ」
そう言うと、言葉が滴となったように真っ暗闇だった世界が一面の青空のように澄み渡っていった。
シリウスの後ろにウィズが、そしてその両隣にリードとハウルが立っている。
「ウィズ。僕はみんなと旅がしたいよ。まだ別れたくないんだ」
ウィズへと手を伸ばすシリウス。その手をウィズの形をした残像は受け止める。そうして、リードとハウルの二人もシリウスの手へと己の手を乗せた。
受け止めてもらえた、と思った瞬間、シリウスの目から一粒の涙が流れ落ちた。けれどその表情は悲しい色はなく、嬉しそうに子供らしい笑みを浮かべた。
フッと目を覚ましたシリウスは三人が心配そうに己の顔を覗き込んでいる光景が飛び込んできた。そのことに、思わず笑ってしまいそうになる。
「え、なにこの状況?」
「大丈夫なのか?」
「あー、うん。心配かけてごめん」
「まったくである。あまり無茶な魔法を使いすぎるものではない。肝が冷えたぞ」
「シリウス様、ご無事で何よりでございます」
個々に心配事を話したあと、シリウスには粥が運ばれた。先程まで作っていたであろうと思わせる湯気と匂い。卵を溶かした粥をゆっくり口へと運ぶ。
本来であれば食堂がある一階まで降りるのだが、病人ということもあり部屋へと食事を持ってきてくれたのだった。そして一人では寂しいであろうということからリードやハウルは軽いおつまみを用意し、それを食べていた。
「ねぇ、二人にお願いがあるんだけど……」
「ん、なんだ? お前には色々助けてもらったからな。何でも聞くぜ」
「安請け合いするでない。しかし、私も力になれるならば、微力ながら助けるぞ」
「ありがとう、二人とも。あのさ、一緒に旅をしない?」
「旅?」
「うん。僕たちの目的は自分たちの居場所を見つけることなんだ。そのため安心して暮らせる街を探してる。二人がギルドでの仕事があるっていうなら仕方ないんだけど……」
「なんだ、そんなことか。俺は良いぜ! 今は決まった仕事を受けてるわけじゃねーしな。ま、ギルマスから依頼があったらちょいと力を貸してくれ」
「私も異論はない。もともと魔法使いは己が進みたいように進むのが性。私はまだシリウスたちと同行したいと思っている」
二人からそう言われて、シリウスは安心したように笑みを浮かべた。まだ別れなくても良いということが、酷く嬉しく感じるのであった。
「あ、そうだ。シリウス、条件がある」
「条件?」
「あぁ。今後こんな無茶な魔法は使わないこと! 守ってくれようとするのは嬉しいが、俺たちは冒険者だ。仲間一人に負担を強いることはしねぇから。だから、俺たちのために無茶はするな。いいな?」
「それが条件?」
「あぁ」
「……分かったよ」
シリウスがリードの条件を呑むと、二人は嬉しそうに笑う。そうして、リードはシリウスの頭をガシガシと乱暴そうに撫でた。
「い、痛いよ、リード」
「おぉ、悪い」
「まったく粗暴だな、お前は」
「いいじゃねーか、そんなこと!」
嬉しそうに笑う三人の顔。そして、何より嬉しそうに子どもらしく笑うシリウスを見て、ウィズも微笑を浮かべていた。
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