3 / 8
3 僕と彼の距離
しおりを挟む
「ユタ、本当にそれが誕生日プレゼントでいいのか?」
「うん、ありがとう、巳雷。大切に使うね」
僕が誕生日プレゼントに買って貰ったのは、有名メーカーの砥石だった。
砥石だけでは気が済まないという巳雷はそのあと、エプロンやらハンドクリームやらも付けてくれた。
料理をしていると手が荒れてしまうので、自分ではなかなか買わない高級なケアアイテムはとても助かる。
因みに去年はマユタングッズをプレゼントして貰った。
「ユタは大学を出たら、料理の専門に通うつもりなんだろ?」
「うん。お義父さんが許してくれたから、そうするつもり」
巳雷の言葉に、僕はこくりと頷く。
「俺の母さんが、ユタが将来料理研究家になりたいなら、喜んで協力するって言ってた」
「うわぁ、それは光栄な話だな」
「助手になったらこき使われるだろうけど、そうなったらこれまで通りユタとの時間も確保できそうで俺は嬉しい」
「え……と、そうだね」
いや、僕的にそれは困るのだけど。
これから巳雷に綺麗な恋人ができて、僕と会う時間なんてなくなって。
いつかこいつが俺の恋人、なんて紹介されたりして。
そんな地獄を想像して、涙が滲みそうになった。
「……ユタ? どうした、大丈夫か?」
「えと、ちょっと目にゴミが入ったみたい」
「見せてみろ」
ぐいっと顎を掴まれ、上を向かされた。
近距離で迫る、巳雷の整った顔。
どきどきしすぎて、心臓が口から飛び出してしまいそう。
僕がぎゅっと目を瞑ると、巳雷がふっと笑った気配がした。
「おい、目を瞑ったら見えないって」
「あ、ごめん」
「目だけ動かしてみて」
「うん」
僕は軽く瞬きをして、視線だけを上下左右に動かす。
薄く開いた巳雷の唇から洩れた吐息が、僕の唇を掠めた。
「何もなさそうだけどな」
「うん、もう平気みたい」
ごめん、本当はゴミなんて入ってないのに。
人に心配をさせておいて、ひとりこの距離感に喜んでしまうなんて、僕は友人失格だ。
反省した僕は距離を取ろうと、顎を掴んでいた巳雷の手をぐっと押し退けながら笑った。
「ちょっと、近いって」
「……か?」
「え?」
「ユタ、俺のこと、気持ち悪いか?」
「……ええ?」
僕がパッと顔を上げると、そこには傷ついたような顔をした巳雷がいた。
「な、なんで僕が巳雷を気持ち悪いとかって思うの?」
そんなはずないのに。
僕はわたわたと巳雷に縋りつく。
いつも太陽みたいに笑っている巳雷が、そんな曇り空みたいな表情を浮かべていることが嫌だった。
それも、僕のせいで。
しかしその時、僕たち二人をチラチラと見る通行人に気づき、ここが道の往来であることを思い出した。
「巳雷、ひとまず家に帰ろう」
「……ん」
僕の手を引くのはいつも巳雷だったのに、この日は僕が巳雷の手を引いて帰宅した。
***
帰宅するなり、巳雷は僕をぎゅっと後ろから抱き締めた。
もしかすると、情緒が不安定なのかもしれない。
こんな巳雷ははじめてで、僕は内心焦りながらくるりと振り返り、ぎゅっと抱き締め返す。
「どうしたの、巳雷。大丈夫?」
「……ユタが、俺を突き放したから。やっぱり俺のこと、気持ち悪かったのかなって思って」
「突き放してなんかないし、気持ち悪くもないよ!」
「俺がゲイだと知っても、傍にいてくれるのか?」
僕は両頬にそっと触れる巳雷を真っ直ぐに見上げ、懸命にこくこくと頷いた。
「もちろんだよ。巳雷はずっと僕の大事な……親友、だから」
自分で言って、胸が痛んだ。
恋人にはなれないけど、巳雷はずっと、僕の大事な人だ。
「じゃあ……卒業しても、一緒に住んでくれるか?」
「えっ……?」
つい先ほどまで一緒に住むのは卒業までだな、なんて考えていた僕は、思わず言葉に詰まった。
そんな俺の反応を見て、巳雷は再び沈んだ表情を見せる。
「やっぱり、男を性対象として見る俺とは、一緒にいたくないか?」
「そんなことないってば!」
「じゃあ、ずっと一緒にいる?」
「いるよ、いる」
「そっか、良かった。俺、ユタには嫌われたくない」
僕の頬をすりすりと両手で包み、優しく撫でる巳雷。
その表情は再び雲間から現れた太陽のように明るく、少しホッとする。
「……あのさ。一応聞くんだけど、巳雷って男相手に、シたいとかって思うの?」
昨日チラリと見えたゲイビの表紙だかパッケージだかを思い出しながら、僕は直球で尋ねた。
僕は巳雷のことが好きだけど、そこまでリアルに考えたことはなかった。
自慰くらいはするけど、羞恥心が勝ってAVとか見るのは苦手なほうだ。
だから尚更、男を……巳雷を相手にどうこうするというのも想像がつかない。
せいぜい、キスくらいだ。
「もちろん」
「へえ……そうなんだ」
僕と巳雷は手を繋いだままリビングへと移動する。
「ユタはシたいって思わないのか? マユタンとか、想像しない?」
「うーん、そんなに思わないかも」
僕はそう言いながら買って貰った砥石をローテーブルの上に置いて、その梱包を丁寧に開けた。
「なんで? もしかして、実は俺が知らないところで、もう飽きるくらいにヤりまくってるとか?」
「ばか、そんなわけないだろ。単に、性欲があまりないだけじゃないかな」
「ふーん……」
「どっちにしろ、僕は巳雷の対象外だし、なんの心配もいらないでしょ。お互い恋人ができるまで一緒に住むのは賛成だよ、家計的にもありがたいし」
「ああ……そうだな、そうだった」
もしかして、友人にゲイバレして避けられた過去があるのかもしれない。
悲しそうに笑った巳雷を見て、僕は巳雷に恋人ができるまで、自分から距離を置くことはやめようと気持ちを入れ替えた。
「うん、ありがとう、巳雷。大切に使うね」
僕が誕生日プレゼントに買って貰ったのは、有名メーカーの砥石だった。
砥石だけでは気が済まないという巳雷はそのあと、エプロンやらハンドクリームやらも付けてくれた。
料理をしていると手が荒れてしまうので、自分ではなかなか買わない高級なケアアイテムはとても助かる。
因みに去年はマユタングッズをプレゼントして貰った。
「ユタは大学を出たら、料理の専門に通うつもりなんだろ?」
「うん。お義父さんが許してくれたから、そうするつもり」
巳雷の言葉に、僕はこくりと頷く。
「俺の母さんが、ユタが将来料理研究家になりたいなら、喜んで協力するって言ってた」
「うわぁ、それは光栄な話だな」
「助手になったらこき使われるだろうけど、そうなったらこれまで通りユタとの時間も確保できそうで俺は嬉しい」
「え……と、そうだね」
いや、僕的にそれは困るのだけど。
これから巳雷に綺麗な恋人ができて、僕と会う時間なんてなくなって。
いつかこいつが俺の恋人、なんて紹介されたりして。
そんな地獄を想像して、涙が滲みそうになった。
「……ユタ? どうした、大丈夫か?」
「えと、ちょっと目にゴミが入ったみたい」
「見せてみろ」
ぐいっと顎を掴まれ、上を向かされた。
近距離で迫る、巳雷の整った顔。
どきどきしすぎて、心臓が口から飛び出してしまいそう。
僕がぎゅっと目を瞑ると、巳雷がふっと笑った気配がした。
「おい、目を瞑ったら見えないって」
「あ、ごめん」
「目だけ動かしてみて」
「うん」
僕は軽く瞬きをして、視線だけを上下左右に動かす。
薄く開いた巳雷の唇から洩れた吐息が、僕の唇を掠めた。
「何もなさそうだけどな」
「うん、もう平気みたい」
ごめん、本当はゴミなんて入ってないのに。
人に心配をさせておいて、ひとりこの距離感に喜んでしまうなんて、僕は友人失格だ。
反省した僕は距離を取ろうと、顎を掴んでいた巳雷の手をぐっと押し退けながら笑った。
「ちょっと、近いって」
「……か?」
「え?」
「ユタ、俺のこと、気持ち悪いか?」
「……ええ?」
僕がパッと顔を上げると、そこには傷ついたような顔をした巳雷がいた。
「な、なんで僕が巳雷を気持ち悪いとかって思うの?」
そんなはずないのに。
僕はわたわたと巳雷に縋りつく。
いつも太陽みたいに笑っている巳雷が、そんな曇り空みたいな表情を浮かべていることが嫌だった。
それも、僕のせいで。
しかしその時、僕たち二人をチラチラと見る通行人に気づき、ここが道の往来であることを思い出した。
「巳雷、ひとまず家に帰ろう」
「……ん」
僕の手を引くのはいつも巳雷だったのに、この日は僕が巳雷の手を引いて帰宅した。
***
帰宅するなり、巳雷は僕をぎゅっと後ろから抱き締めた。
もしかすると、情緒が不安定なのかもしれない。
こんな巳雷ははじめてで、僕は内心焦りながらくるりと振り返り、ぎゅっと抱き締め返す。
「どうしたの、巳雷。大丈夫?」
「……ユタが、俺を突き放したから。やっぱり俺のこと、気持ち悪かったのかなって思って」
「突き放してなんかないし、気持ち悪くもないよ!」
「俺がゲイだと知っても、傍にいてくれるのか?」
僕は両頬にそっと触れる巳雷を真っ直ぐに見上げ、懸命にこくこくと頷いた。
「もちろんだよ。巳雷はずっと僕の大事な……親友、だから」
自分で言って、胸が痛んだ。
恋人にはなれないけど、巳雷はずっと、僕の大事な人だ。
「じゃあ……卒業しても、一緒に住んでくれるか?」
「えっ……?」
つい先ほどまで一緒に住むのは卒業までだな、なんて考えていた僕は、思わず言葉に詰まった。
そんな俺の反応を見て、巳雷は再び沈んだ表情を見せる。
「やっぱり、男を性対象として見る俺とは、一緒にいたくないか?」
「そんなことないってば!」
「じゃあ、ずっと一緒にいる?」
「いるよ、いる」
「そっか、良かった。俺、ユタには嫌われたくない」
僕の頬をすりすりと両手で包み、優しく撫でる巳雷。
その表情は再び雲間から現れた太陽のように明るく、少しホッとする。
「……あのさ。一応聞くんだけど、巳雷って男相手に、シたいとかって思うの?」
昨日チラリと見えたゲイビの表紙だかパッケージだかを思い出しながら、僕は直球で尋ねた。
僕は巳雷のことが好きだけど、そこまでリアルに考えたことはなかった。
自慰くらいはするけど、羞恥心が勝ってAVとか見るのは苦手なほうだ。
だから尚更、男を……巳雷を相手にどうこうするというのも想像がつかない。
せいぜい、キスくらいだ。
「もちろん」
「へえ……そうなんだ」
僕と巳雷は手を繋いだままリビングへと移動する。
「ユタはシたいって思わないのか? マユタンとか、想像しない?」
「うーん、そんなに思わないかも」
僕はそう言いながら買って貰った砥石をローテーブルの上に置いて、その梱包を丁寧に開けた。
「なんで? もしかして、実は俺が知らないところで、もう飽きるくらいにヤりまくってるとか?」
「ばか、そんなわけないだろ。単に、性欲があまりないだけじゃないかな」
「ふーん……」
「どっちにしろ、僕は巳雷の対象外だし、なんの心配もいらないでしょ。お互い恋人ができるまで一緒に住むのは賛成だよ、家計的にもありがたいし」
「ああ……そうだな、そうだった」
もしかして、友人にゲイバレして避けられた過去があるのかもしれない。
悲しそうに笑った巳雷を見て、僕は巳雷に恋人ができるまで、自分から距離を置くことはやめようと気持ちを入れ替えた。
307
あなたにおすすめの小説
アプリで都合のいい男になろうとした結果、彼氏がバグりました
あと
BL
「目指せ!都合のいい男!」
穏やか完璧モテ男(理性で執着を押さえつけてる)×親しみやすい人たらし可愛い系イケメン
攻めの両親からの別れろと圧力をかけられた受け。関係は秘密なので、友達に相談もできない。悩んでいる中、どうしても別れたくないため、愛人として、「都合のいい男」になることを決意。人生相談アプリを手に入れ、努力することにする。しかし、攻めに約束を破ったと言われ……?
攻め:深海霧矢
受け:清水奏
前にアンケート取ったら、すれ違い・勘違いものが1位だったのでそれ系です。
ハピエンです。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
自己判断で消しますので、悪しからず。
平凡な僕が優しい彼氏と別れる方法
あと
BL
「よし!別れよう!」
元遊び人の現爽やか風受けには激重執着男×ちょっとネガティブな鈍感天然アホの子
昔チャラかった癖に手を出してくれない攻めに憤った受けが、もしかしたら他に好きな人がいる!?と思い込み、別れようとする……?みたいな話です。
攻めの女性関係匂わせや攻めフェラがあり、苦手な人はブラウザバックで。
……これはメンヘラなのではないか?という説もあります。
pixivでも投稿しています。
攻め:九條隼人
受け:田辺光希
友人:石川優希
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグ整理します。ご了承ください。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
自己肯定感低めの不幸な義弟が完璧な義兄と大揉めに揉める話
あと
BL
「こんな僕をお兄ちゃんは嫌ってるだろうな」
トップ俳優な完璧超人の義理の兄×不幸な自己肯定感低めのネガティブ義理の弟です。
お金ない受けが追い詰められて変なアルバイトしようとしたら、攻めと再会して……?みたいな話です。
攻めがヤンデレ気味で、受けがマジで卑屈なので苦手な人はブラウザバックで。
兄弟は親が離婚してるため、苗字が違います。
攻め:水瀬真広
受け:神崎彼方
⚠️作者は芸能界にもお葬式ににもエアプなので、気にしないでください。
途中でモブおじが出てきます。
義理とはいえ兄弟なので、地雷の人はブラウザバックで。
初投稿です。
初投稿がちょっと人を選ぶ作品なので不安です。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
内容も時々サイレント修正するかもです。
定期的にタグ整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
「これからも応援してます」と言おう思ったら誘拐された
あまさき
BL
国民的アイドル×リアコファン社会人
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
学生時代からずっと大好きな国民的アイドルのシャロンくん。デビューから一度たりともファンと直接交流してこなかった彼が、初めて握手会を開くことになったらしい。一名様限定の激レアチケットを手に入れてしまった僕は、感動の対面に胸を躍らせていると…
「あぁ、ずっと会いたかった俺の天使」
気付けば、僕の世界は180°変わってしまっていた。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
初めましてです。お手柔らかにお願いします。
ムーンライトノベルズさんにも掲載しております
美澄の顔には抗えない。
米奏よぞら
BL
スパダリ美形攻め×流され面食い受け
高校時代に一目惚れした相手と勢いで付き合ったはいいものの、徐々に相手の熱が冷めていっていることに限界を感じた主人公のお話です。
※なろう、カクヨムでも掲載中です。
お客様と商品
あかまロケ
BL
馬鹿で、不細工で、性格最悪…なオレが、衣食住提供と引き換えに体を売る相手は高校時代一度も面識の無かったエリートモテモテイケメン御曹司で。オレは商品で、相手はお客様。そう思って毎日せっせとお客様に尽くす涙ぐましい努力のオレの物語。(*ムーンライトノベルズ・pixivにも投稿してます。)
アプリで元カノを気にしなくなるくらい魅力的になろうとした結果、彼氏がフリーズしました
あと
BL
「目指せ!!魅力的な彼氏!!」
誰にでも優しいように見えて重い…?攻め×天然な受け
⚠️攻めの元カノが出て来ます。
⚠️強い執着・ストーカー的表現があります。
⚠️細かいことが気になる人には向いてません。
合わないと感じた方は自衛をお願いします。
受けは、恋人が元カノと同級生と過去の付き合いについて話している場面に出くわしてしまう。失意の中、人生相談アプリの存在を知る。実は、なぜか苗字呼び、家に入れてもらえない、手を出さないといった不思議がある。こうして、元カノなんか気にしなくなるほど魅力的になろうとするための受けの戦いが始まった…。
攻め:進藤郁也
受け:天野翔
※誤字脱字・表現の修正はサイレントで行う場合があります。
※タグは定期的に整理します。
※批判・中傷コメントはご遠慮ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる