力を失くした魔術師と、全てを覆い隠す愛執

イセヤ レキ

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「何をしてるんだ?来るなら来るって言ってくれれば、屋敷で歓迎したのに。オースティンは今日はいないぞ?」

私は一年ぶりの再会を喜び、デリックに駆け寄る。

しかしデリックは慌てた様に、さながら侵入者を警戒するかの様に左右に目を走らせながら、近付いた私の腕をとった。

「早くここから逃げるぞ!」

「デリック?何を言ってるんだ?ここは私の……」

「ここは、敵の住処だぞ!!」

「……は?」

私は、デリックは何処かに頭を打ち付けたのだろうかと本気で心配した。

何で弟弟子であるオースティンが敵なんだ??



「ああもう、本当にリビーの弱点は厄介だな!!……とにかく、今は説明している時間がない!早く逃げるぞ!!」

デリックは、私の手を引いたまま、温室の外に出ようとする。

「いや、待ってくれ。私が勝手に屋敷の外に出ると、オースティンが嫌がるんだ」

「リビー……!!仕方ない、これを見ろ。ほら、良く見るんだ」

「ん?これは……解除の石か?懐かしいなぁ」

マーブル模様のその石は、私が魔術師だった頃、ブレスレットとして常に持たされていた物だ。

その石をじっくり見ていれば、私の……魅了チャームに掛かりやすく、洗脳されやすいという弱点が解消出来るから。



「リビー、昔の俺達を思い出すんだ……師匠が生きていた頃の……!」

デリックの声に導かれて、昔の記憶が甦る。

よく兄弟子や弟弟子のデリック、そしてオースティンと……オースティン?……オースティンなんて弟子仲間がいたか?確かにもう一人いたが、男ではなく女だった筈。妹のように可愛がっていたつもりだったが、彼女は私を裏切り、お師匠様が下さった私のヴェールを燃やして弱点を……



「……あ……ぁあ……ッッ」
「リビー?大丈夫か、リビー!?」
「私の妻に、触らないで下さい」

その時、オースティンの声が頭上から聞こえ……次の瞬間、デリックが吹き飛ばされた。魔力を失った筈のオースティンが、魔術師であるデリックを圧倒するという矛盾。
音もなく、私の横に降り立つオースティン。

「……オースティン……いや、お前は……っっ!!」
「すっかり解けてしまった様ですね、厄介な石です。リビー……この男を殺されたくなければ、閉じている瞳を開けて下さい」
「俺の事は気にするな!」
「卑怯だ……」
「リビー。これ以上思い出せば、貴女はまた……お願いです、開けて下さい」
オースティンは、今まで通り優しい声で懇願してくる。


力を失ったのは、私だけで。魔力に溢れているオースティンは、力ずくでも出来る筈なのにそれをしようとはしない。


もう一度、言う。
「……卑怯だ……!!」
一年の間、あんなに愛を私に捧げて。その記憶もあるのに、絆されない訳がないじゃないか。
「……どうか、デリックは助けて欲しい……」
「わかりました。本当は殺しておきたいですが、この男も解放すると約束しましょう……洗脳してから、ですが」
「ふざけるなっ!!」

デリックはオースティンに吠えていたが、オースティンは約束を破った事がなかった。だから、例え本当は敵であったとしても……デリックの命は奪わないという約束は守ってくれる筈。

そう信じて、瞳を開けた。
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