俺が悪役令息をする理由

イセヤ レキ

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2 悪役令息の子分

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裕福な伯爵家に生まれた俺は、この世界で順調に悪役令息の名声? を高めることに成功していた。

元の世界の親とは違い、金持ちの両親♂。
なんの不自由もなく、最高級の物だけを与えられる生活。

しかし、彼らが金を稼ぐ手段は最低最悪……法に触れることばかりで、貴族どころか人間としての品性の欠片もない親たちだった。
つまり、俺が処刑される際に家門が巻き込まれても心を痛めないですむような、むしろこの世界を浄化したような気にすらなる家族だ。

当然アカデミーにも、金の力で入った。
いわゆる、裏口入学だ。
そこで俺は、この世界の主人公、ネルロと出会う。
ネルロは笑顔が素敵な、仕草も声も、とても可愛らしい男の子だった。

どうやら俺が演じる悪役令息は主人公と同じ「受」らしく、自分より人気も能力もある平民への嫉妬という、なんとも幼稚すぎる理由から彼を虐めまくる役だった。

いっぽう悪役令息である俺は赤髪の端正な顔立ちだが、「受」としては需要がなく「悪役」にぴったりな、鋭くキツイ目付きをしている。

この頃には異世界BLの世界には随分と慣れてきたものの、自分がその対象となることだけはどうにも慣れなかったから、「受」としてモテない悪役令息をある意味気に入っていた……のだが。


「ジョアン」
いるとは思っていなかったところで後ろから名前を呼ばれ、俺はビクッと肩を震わせる。
声がしたほうを振り向けば、艶のある黒髪に美しい緑眼で長身の、王子様のような奴がこちらに向かって優雅に歩いてくるのが見えた。

いや、実際に王子なのだが。
能力の高い者だけが集まるこのアカデミーでは平民も貴族も王族も同じ制服を着ているというのに、キラキラオーラが全く損なわれていないのはなぜだろうか。

「……ダリウス」
「さっき、ネルロに触れられたと聞いたが、大丈夫か?」
その場にいなかったはずなのに、相変わらず情報が早い。

「ああ、問題ない。触れられる前に、突き落とした」
「そうか、なら良かった。あいつの手を切り落とさずにすむ」

切り落とすってなんだ、冗談だろうけどこいつが言うと冗談に聞こえなくて困る……!!
ぞわぞわとした気持ち悪さが、俺の背中を駆けあがる。

「それにしても、酷い顔色だなジョアン。きちんと眠れているのか?」

そっとこちらに伸びる手を払って、俺はダリウスに冷たい視線を向けた。

「アカデミーでは私に声を掛けるなと言っただろう」
「はは、『処刑される時に巻き込まれるから』か?」
「わかっているなら、人の忠告は聞いておけ」

昔馴染みのダリウスだけは、誰からも愛されるネルロではなく、俺に執着しているフシがあった。
それも、ダリウスの言動の端々に俺を「受」として見ている気がするのだ。


ダリウスは、この国の第三王子である。
正妃♂でも側妃♂でもない、国王が遊びで手を出した、単なる使用人♂から生まれた子供。

一応認知はされたものの、使用人だった実親♂はとうに王城を追われ、ダリウスだけが残された。
俺は五歳の頃、腫れ物扱い、邪魔者扱い、空気扱いされていたそんなダリウスを見かけて、つい話し掛けてしまったのだ。

悪役令息らしくはない行動だったと、今でも思う。
しかし、当時まだ小学生にもならないような幼い子どもが、話す相手も構ってくれる人もおらず寂しそうにしているのを実際に目の前にしてしまえば、考えるより先に声を掛けてしまうものだろう。

以降、城へ仕事に出向く親に付き添うたび、俺はダリウスの遊び相手をしてあげた。
木登りも、追いかけっこも、水遊びも、かくれんぼも、キャッチボールも、チャンバラも、盤上ゲームも、子どもが経験するであろう遊びは全て一通り一緒にやった。
まともな教育を受けていなかったダリウスを王城に備え付けられている図書室に連れて行って文字を教えたのも、俺だった。

必要最低限の食事しか与えられていなかったようなので、悪役令息になった際に手足となる子分はひとりくらいいたほうがいいという大義名分のもと、子どもが好きそうな果物や菓子やデザートを大量に抱えてはダリウスに届けた。
それはまるで、餌付けのようだった。

当初は懐いてくる子犬のように可愛かったダリウスだったが、俺に対する独占欲が成長するにつれ恐ろしいほど増していくことに気づいたのは、初めて会ってから五年くらい経った時のことだ。

子分は欲しいところだが、どうせ最後は処刑されるのだから、仲の良すぎる友人は作らないほうがいい。
俺はほかの友人を作ったフリをして、さり気なくダリウスからフェードアウトしようとした。

しかしダリウスは、それを許さなかった。
俺と親し気に話す同世代の相手を容赦なく、いつの間にか習得していた得意の魔法で痛めつけたのだ。
ダリウスは俺の知り合いたちを魔法の矢の的にし、服を燃やし、落馬させ、薬品で皮膚を爛れさせた。

ダリウスの抱える闇は、俺なんかよりよっぽど濃く深かった。
ダリウスこそ悪役令息に相応しいと思えるほど、それは陰湿な行為の数々だった。
それはそうだろう、俺はなんちゃって悪役令息なのだから。

俺は裏口入学でアカデミーに入っているが、ダリウスのフォローをしまくった過去のお陰で得意魔法は治癒魔法だ。
悪役令息なのに、その分野ならば恐らく誰にも負けない自負がある。

しかし、ダリウスのそうした行動は俺の役にもたった。
ダリウスがやったことを俺のしたことにすれば、アカデミー入学前から俺の株を下げることができたからだ。

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