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「……え?」
ポタ、ポタ、と私が脱いで腕にかけた魔道服から、水が滴り落ちる。
その音だけが、やけに現実味を帯びて私の耳に入って来た。
「……なんで?」
私は思わず、それを指さして問い掛けた。
「……知らん」
相手は、いつも通り無表情なまま、プイとそっぽを向く。
横を向いて見えた左耳は、赤くなっているような、いないような……?
「いやだって、なんで??」
「俺だって知りたい」
同じく濡れた前髪を掻き上げ、相手はこちらを向いた。
真っ直ぐにこちらを射抜くような黒曜石の瞳は、何の感情も見えないようでその実様々な感情を抱えていることを私は知っている。
「だってアクイット、えーっと………………不能だったんじゃ?」
「溜めた割には随分と直接的な言い方だな、おい」
普通の人なら、多分彼が怒っていると勘違いしただろう。
でも、瞳の奥は笑っていた。
「ごめん」
私は笑って、濡れた魔導服を公舎の入り口にあるフックに掛けた。
「まぁ、いいけど。確かに俺は、間違いなく勃起不全だった筈だ」
「そっちの方が直接的じゃない?」
「本人だからいいだろ」
私達は玄関でとんでもない会話をしながら、廊下を濡らしつつ歩く。
「でも、勃つなら領地に戻って、家門を継いだ方が良いんじゃない?」
我らはとっても能力の低い部類の魔導士だ。
こう言ってはなんだが、平民の私からすれば十分な給料だろうが、アクイットは元々肥沃な土地を領土とする侯爵家の、しかも直系にあたる一人息子だった。戻れば、今の何倍もの稼ぎが手に入るだろうと思われる。
「勃っても、使い物になるかわからん」
まぁ、それもそうか、と心の中で思いながら、「元々はモテるんだから、ちょっと酒場に行って好みの女の人引っ掛けてくるとかは?」と聞いた。
「いや、それよりも……お前が相手になる、とかの選択はくれないのか」
「はぁ!?」
私はぎょっとした。
「いやいやいや無理無理無理」
「何でだ?俺に、領土に戻れと言ったのはお前だろう」
いや言いましたよ?アクイットの代わりに今領土を治めているアクイットの従兄は、闇雲に税を上げるから領民が大変な思いをしているのだ。
お陰で、アクイットの領土の大地は肥沃なのに、人が他領に流れている。
そして人が減った分、残ったうちの家族みたいに、皺寄せを被る領民もいるのだ。
ポタ、ポタ、と私が脱いで腕にかけた魔道服から、水が滴り落ちる。
その音だけが、やけに現実味を帯びて私の耳に入って来た。
「……なんで?」
私は思わず、それを指さして問い掛けた。
「……知らん」
相手は、いつも通り無表情なまま、プイとそっぽを向く。
横を向いて見えた左耳は、赤くなっているような、いないような……?
「いやだって、なんで??」
「俺だって知りたい」
同じく濡れた前髪を掻き上げ、相手はこちらを向いた。
真っ直ぐにこちらを射抜くような黒曜石の瞳は、何の感情も見えないようでその実様々な感情を抱えていることを私は知っている。
「だってアクイット、えーっと………………不能だったんじゃ?」
「溜めた割には随分と直接的な言い方だな、おい」
普通の人なら、多分彼が怒っていると勘違いしただろう。
でも、瞳の奥は笑っていた。
「ごめん」
私は笑って、濡れた魔導服を公舎の入り口にあるフックに掛けた。
「まぁ、いいけど。確かに俺は、間違いなく勃起不全だった筈だ」
「そっちの方が直接的じゃない?」
「本人だからいいだろ」
私達は玄関でとんでもない会話をしながら、廊下を濡らしつつ歩く。
「でも、勃つなら領地に戻って、家門を継いだ方が良いんじゃない?」
我らはとっても能力の低い部類の魔導士だ。
こう言ってはなんだが、平民の私からすれば十分な給料だろうが、アクイットは元々肥沃な土地を領土とする侯爵家の、しかも直系にあたる一人息子だった。戻れば、今の何倍もの稼ぎが手に入るだろうと思われる。
「勃っても、使い物になるかわからん」
まぁ、それもそうか、と心の中で思いながら、「元々はモテるんだから、ちょっと酒場に行って好みの女の人引っ掛けてくるとかは?」と聞いた。
「いや、それよりも……お前が相手になる、とかの選択はくれないのか」
「はぁ!?」
私はぎょっとした。
「いやいやいや無理無理無理」
「何でだ?俺に、領土に戻れと言ったのはお前だろう」
いや言いましたよ?アクイットの代わりに今領土を治めているアクイットの従兄は、闇雲に税を上げるから領民が大変な思いをしているのだ。
お陰で、アクイットの領土の大地は肥沃なのに、人が他領に流れている。
そして人が減った分、残ったうちの家族みたいに、皺寄せを被る領民もいるのだ。
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