勃たない低級魔導士のジョブチェンジ

イセヤ レキ

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実家に帰省するたびに、アクイットの従兄を誰か何とかしてくれとは思うけれども、何の権力もない私達平民は搾取されるばかりで。

「……だって、絶対にアクイットの方がアクイットの従兄よりはマシな気がするし」
アクイットの父親が領主様だった時は、領民も平和で特別なことはなくてもとっても幸せだった。そのことに気付いたのは、アクイットの従兄が跡を継いでからだけど。

「じゃあ、協力してくれないか?」
「だから、それは無理っ!!」
「何で」
「……け、経験ないし……」
「……は?それだけか?」

それだけってなんだ!!すっごく重要なことだと思うけど!?
「いや、折角勃ったのに、処女相手じゃ慣らしている間に萎えたら……私、責任取れないよ」
「責任取らなくていい。多分、いや絶対萎えない気がするから……だから、ヤらせてくれ」
「ええー……」
「それとも、誰か想う相手はいるのか?」
黒曜石にじっと見つめられて、私は溜息をつく。
「私のどこに、そんな素振りがあった!?」

へっぽこ低級魔導士だけど、実は仕事が大好きで。
年がら年中、実家に帰る時以外、下手すれば一日中でも剣に魔力を込めて魔剣を作っている。
おしゃれもせずに、研究塔に引き籠っている私を、目の前の男が知らない訳がなかった。
「いや、全くなかった」
「でしょ」
「なら問題ないよな?」
「ええー……」
話は振り出しに戻った。
「本当に、もし駄目になっちゃっても私のせいにしない?」
「しない。絶対にしない」
「じゃあ……いいよ。試してみよっか」
私が頷くと、アクイットは小さく「やった」と言った。無表情ながら、口の端がすこーしいつもより上がっている気がする。喜んでいるらしい。

「じゃあ、お風呂入ったら後で部屋にいくわ」
「……お前の気が変わりそうで、嫌だ」
「でも、お風呂入らないと風邪ひくよ?」
どうしろと言うのだ。
「俺も、お前の部屋に行くか、俺の部屋に来て風呂に入って欲しい」
「ええー」
私は渋った。
「ごめん、私今、物凄く萎えそうな上下ベージュの下着なんだよ」
「問題ない。透けて見えてる」
「ええ!?」
ぱっと下を向くと、確かに白いシャツまでびしょ濡れで、色気もへったくれもないのっぺりした下着が透けて見えていた。
「……わかった、アクイットの部屋に行こうか」
「ああ」
アクイットは私の腕を引っ張り、自分の部屋に向かう。
ああもう、逃げやしないのに。

アクイットの大きな背中を見ながら、ところで、何でこんなことになったんだっけ、と私は思いを巡らせた。
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