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事の発端
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「……で、どういう事?」
アリエルが事情の説明を求めると、フィデールは苦笑しながら事の顛末を話した。
そもそもの発端が、港町に寄った際にアリエルの兄が港に住む女性に一目惚れしたところから始まったらしい。
女性も兄に好意を抱いたが、海賊の、しかも海賊長であると知ってからは距離を置いた。海賊は、肩書きを持つまでは自由に抜ける事が出来るが、肩書きがある場合は50歳以上になるか、命を落とすか、破門にされるかしか海賊を辞める事が出来ないからである。
兄は悩み、結局海賊ではなくただ一人の女性を選んだ。
自分が気兼ねなく海賊を辞める手段として選んだのが、仲間に決闘を申し込まれて死ぬ事だった。決闘の末に相手が勝てば、その人物は次の海賊長として名乗りやすいのもある。
だから、兄はフィデールに頼み込んだ。フィデールは「アリーに嫌われるかもしれない、そんな損な役まわりは嫌です」と断り続けたが、兄がせがみ続ける事10回目で折れた。そして結局二人は共謀して、鮫で有名な海域でわざわざ決闘し、兄は落ちて死んだ事にしたのだった。
兄は港町で、海には近付かずに畑を耕し、狩人に弟子入りして狩りをして生計を立て、めでたくつい最近、やっと相手の女性の両親の許可が下りて結婚したとの事。
「言ってくれれば良かったのに……!!」
アリエルがフィデールの肩に拳を叩き付け、恨みがましい目で思わず見る。
「アリーは演技が出来ません。だから、最低一年は生きている事を話してはいけないと言われたんです」
酷い話ですよね?とフィデールは肩をすくめる。アリエルの一撃は全く効いてない様だった。
「でも、それが出来たら、アリーを私に下さると約束して下さったのです。だから、頑張りました」
にこり、と綺麗な一つの目に絡め取られて、アリエルはぎこちなく笑った。
この一年間の苦悩を返せ……!!
そうは思っても、アリエルの心はとっくにフィデールに落とされている。
「アリーをこちらに連れて来たのは、アリーが海賊である事に悩みはじめてきたからです」
「……」
「私としては、アリーの傍にいられさえすれば良いので……もう、海賊の時代も終わりですしね」
「……仲間は……どうする?」
血気盛んで、粗野でもあるが、気のいい奴等もいた。アリエルが仲間の心配をしていると、「めぼしい奴には声を掛けました。しかし、海賊の方が生きやすそうな輩には声を掛けていません。……足を引っ張られても嫌ですしね」とフィデールが答える。
「あ、イジーは……」
アリエルがそう聞けば、
「奴は駄目だ」
いきなり扉が開いて、「飯だぞ」と兄が声を掛けた。
兄の奥さんが作ってくれた美味しいご飯を口にしながら、アリエルは「イジーは駄目って?」と気になっていた続きを促す。
「イジーは、俺らの資金の横領に海軍への横流し、人身売買と手広くやり過ぎていて、普通の生活には戻れないだろう」
「えっ……!!」
アリエルは初耳の事に、衝撃を隠せずスプーンを手から落とした。
「そ、そんな……」
イジドールを信用し過ぎていて、全く気付かなかった自分に情けなくなる。イジドールは、自分が奴隷という身分であったにも関わらず、奴隷を生み出す仕事に加担したなんて到底信じたくなかった。
「その、売られた人達は……」
アリエルが呟くと、
「人身売買に関しては、フィーから情報を貰った俺達が買い主を叩いて治安部隊と一緒に潰してるから、ひとまず心配するな」
と兄が豪快に笑って答える。
「後は、お前次第だ。フィーが嫌なら、しばらく俺が面倒見てやるしな!」
ニヤニヤ笑って兄が聞いたが、アリエルの答えはもう決まっていた。
「私は、フィーと一緒が良い」
「まぁ、そうだよな」
兄が姿を消す前に、冗談めかした「俺の傍かフィーの傍、一ヵ所しか選べないならどっち?」との問いにアリエルは元気に「フィー!」と答え、「海か陸なら?」という問いには「勿論海!!」と答えたのだ。
だから、兄はアリエルをフィデールに託して一緒には連れて行かなかった。
「仕方ねーなぁ。じゃあ、今日位泊まってくか?」
と兄が聞けば、今度はフィデールから「結構です」と返事がくる。
「奥様にも悪いですし、今日は私とアリーは、宿屋に泊まります」
アリエルも頷いて、その日は兄の家を後にした。
アリエルが事情の説明を求めると、フィデールは苦笑しながら事の顛末を話した。
そもそもの発端が、港町に寄った際にアリエルの兄が港に住む女性に一目惚れしたところから始まったらしい。
女性も兄に好意を抱いたが、海賊の、しかも海賊長であると知ってからは距離を置いた。海賊は、肩書きを持つまでは自由に抜ける事が出来るが、肩書きがある場合は50歳以上になるか、命を落とすか、破門にされるかしか海賊を辞める事が出来ないからである。
兄は悩み、結局海賊ではなくただ一人の女性を選んだ。
自分が気兼ねなく海賊を辞める手段として選んだのが、仲間に決闘を申し込まれて死ぬ事だった。決闘の末に相手が勝てば、その人物は次の海賊長として名乗りやすいのもある。
だから、兄はフィデールに頼み込んだ。フィデールは「アリーに嫌われるかもしれない、そんな損な役まわりは嫌です」と断り続けたが、兄がせがみ続ける事10回目で折れた。そして結局二人は共謀して、鮫で有名な海域でわざわざ決闘し、兄は落ちて死んだ事にしたのだった。
兄は港町で、海には近付かずに畑を耕し、狩人に弟子入りして狩りをして生計を立て、めでたくつい最近、やっと相手の女性の両親の許可が下りて結婚したとの事。
「言ってくれれば良かったのに……!!」
アリエルがフィデールの肩に拳を叩き付け、恨みがましい目で思わず見る。
「アリーは演技が出来ません。だから、最低一年は生きている事を話してはいけないと言われたんです」
酷い話ですよね?とフィデールは肩をすくめる。アリエルの一撃は全く効いてない様だった。
「でも、それが出来たら、アリーを私に下さると約束して下さったのです。だから、頑張りました」
にこり、と綺麗な一つの目に絡め取られて、アリエルはぎこちなく笑った。
この一年間の苦悩を返せ……!!
そうは思っても、アリエルの心はとっくにフィデールに落とされている。
「アリーをこちらに連れて来たのは、アリーが海賊である事に悩みはじめてきたからです」
「……」
「私としては、アリーの傍にいられさえすれば良いので……もう、海賊の時代も終わりですしね」
「……仲間は……どうする?」
血気盛んで、粗野でもあるが、気のいい奴等もいた。アリエルが仲間の心配をしていると、「めぼしい奴には声を掛けました。しかし、海賊の方が生きやすそうな輩には声を掛けていません。……足を引っ張られても嫌ですしね」とフィデールが答える。
「あ、イジーは……」
アリエルがそう聞けば、
「奴は駄目だ」
いきなり扉が開いて、「飯だぞ」と兄が声を掛けた。
兄の奥さんが作ってくれた美味しいご飯を口にしながら、アリエルは「イジーは駄目って?」と気になっていた続きを促す。
「イジーは、俺らの資金の横領に海軍への横流し、人身売買と手広くやり過ぎていて、普通の生活には戻れないだろう」
「えっ……!!」
アリエルは初耳の事に、衝撃を隠せずスプーンを手から落とした。
「そ、そんな……」
イジドールを信用し過ぎていて、全く気付かなかった自分に情けなくなる。イジドールは、自分が奴隷という身分であったにも関わらず、奴隷を生み出す仕事に加担したなんて到底信じたくなかった。
「その、売られた人達は……」
アリエルが呟くと、
「人身売買に関しては、フィーから情報を貰った俺達が買い主を叩いて治安部隊と一緒に潰してるから、ひとまず心配するな」
と兄が豪快に笑って答える。
「後は、お前次第だ。フィーが嫌なら、しばらく俺が面倒見てやるしな!」
ニヤニヤ笑って兄が聞いたが、アリエルの答えはもう決まっていた。
「私は、フィーと一緒が良い」
「まぁ、そうだよな」
兄が姿を消す前に、冗談めかした「俺の傍かフィーの傍、一ヵ所しか選べないならどっち?」との問いにアリエルは元気に「フィー!」と答え、「海か陸なら?」という問いには「勿論海!!」と答えたのだ。
だから、兄はアリエルをフィデールに託して一緒には連れて行かなかった。
「仕方ねーなぁ。じゃあ、今日位泊まってくか?」
と兄が聞けば、今度はフィデールから「結構です」と返事がくる。
「奥様にも悪いですし、今日は私とアリーは、宿屋に泊まります」
アリエルも頷いて、その日は兄の家を後にした。
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