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知らない世界で

禁書庫の番人

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ジュードさんと二人で、しばらく漁った本を読み耽る。
……いや、違う。つい読み耽ってしまったのは私だけで、ジュードさんは私が読んでいる間も棚とテーブルを行ったり来たりしてました、ハイ。

私が今読んでいるのは薬の本なんだけど、エイヴァさんが無毛である理由がわかりました。ついでに、この世界の女性達には月に一度の出血が訪れない事も。

地球で言うと、どちらかと言えば漢方薬みたいな薬に精通した国が元々蛮族の国よりずっと東の方にある。
そこの国は、女性上位の国らしく、女性の日々のお手入れ(無駄毛処理)や生理(出血)を厭い、楽しようと模索したらしい。試行錯誤を繰り返した結果、無駄毛に塗るだけで毛が抜け落ち、更には毛包も閉じて新しい毛が生えない様にしつつも肌を痛めず皮膚にも問題を起こさない薬の配合が発見された。
宗教的に毛を自然のままにしなければならない国を抜かすと、この世界では殆んどの女性がその塗り薬を使用しているらしい。使用期間は10歳から3年間程、気になる箇所に塗る生活をするだけで、基本的にはその後新しい毛が生えてくる事もなく、無駄毛しらず。国によって、女性が処理すべき場所が違う為、たまたま呪詛の国の女性は頭髪以外の全ての毛が処理するらしかった。因みに、鼻毛も耳毛も綿棒みたいなものを使ってその薬を塗り付け、処理しているらしい。
……花粉症とかウイルスとかその他諸々大丈夫なんだろうか、と思うけど、エイヴァさんの身体に入ってまだ風邪をひいていないという事は、この世界で普通に生活している上では問題ないのだろう。

そしてもう1つ、月経。なんと、この世界では「排卵」の機能を損なわずに「出血」のみを止める薬の服用が普通の対処法らしい。これは、月経が始まって最初の出血が起きてから、半年程毎日その薬を服用すれば、女性は膣から出血する事なく日々を過ごせるという。

いやー、びっくりです。エイヴァさんの身体に入ってから今日まで、月のモノが来ず。来たら微妙に3人には聞きにくい問題だし、来なかったら来なかったでたった一度の行為で妊娠してしまったのかとびくびくするし、とちょっと気になってはいたのだ。
生理用品なくてすむから、裸族だったんだね……!下着着用の際にも綿パンでなく、紐パンで平気だったんだね……!

じゃあどうやって周期を確認するのかとか、妊娠したかしないか体調不良やお腹膨らむまで気付かないじゃないかとか色々疑問はあるけれども、それにもこの世界の他の薬に噛んだ葉を入れてその薬が何色に変わるか、とかで色々わかるらしい。

うーん、出血だけを止める薬って凄すぎる。この生活に慣れた女性が、元の世界に行ったとして、月に一回の月経を続けなければならないってかなりストレスになりそうな気がするけど……エイヴァさん、大丈夫かな……頼みますよ……!!
これ以上想像すると、恐ろしいところまで行きついてしまいそうだったので、慌てて思考をストップ。

そんなこんなで、エイヴァさんとは全く関係ないところで「へぇ」と思う事が多く、ついついその本に目を通してしまっていたのだけど。


「……イヴァ様。エイヴァ様」
どこか遠くから呼ばれた気がして、辺りを見回す。ジュードさんは私の視界の中で本棚を見ていてくれていて、彼が声を掛けたのではない事がわかった。
再び名前を呼ばれ、ぱ、と振り向けば、そこには一人の男性がいて、こちらを見て手を振りながらにっこり笑った。

エイヴァさんの知り合い……??

私は不思議に思って、席を立ち、彼の手招きに応じて近寄る。
「……あの……、こんにちは……?」
見知らぬ男性は、本棚の間で私に問い掛ける。
「お久しぶりです、エイヴァ様。ここのところいらっしゃらなかったので、心配しておりました」
柔和に微笑みを浮かべるその男性に対して、少しの喜びを感じた。

マティオスさんや3人以外で、初めて話し掛けてきてくれた人!しかも、エイヴァさんとは親しそうだ。もしかしたら、良くしてくれるかもしれない。真実を伝えられる仲間は少しでも多い方が良い。そんな打算的な考えもあり、自分も目一杯の笑顔を浮かべて答えた。
「すみません、書庫出入り許可がおりてなかったものですから」
「僕に言って下されば、何とかしましたよ!」
朗らかに笑う目の前の男性は、ちょっと初彼に印象が似ていた。良く言えば、人見知りしない、自分に素直な人。悪く言えば、お調子者で、我が儘に自分の意見を通す人。ムードメーカーでもあるけど、女好き。


エイヴァ・・・・様?どちらですか?」
その時、ジュードさんが姿の見えなくなった私を呼んだ。「はい!」私が大きな声で返事をすれば、男性は「ではまた今度」と言い、ジュードさんとは反対側に去って行く。
「……サーヤ様、こちらにおいででしたか。何か気になる本でもありました?」
「ううん、もう大丈夫」
私は男性の急な出現と退場に戸惑いながら、その場を後にしてテーブルまで戻る。
「うわぁ、凄い沢山……」
ジュードさんはいつの間にか、私がいないうちにテーブルの上に30冊ほどの本を並べてくれていた。
「これ、今日中に読めるかなぁ?」
「書庫の本は、貸し出しが可能ですので」
成る程。だから、10冊と話していたのに借りる事前提で30冊なのか。この場で10冊目を通したとして、残りの20冊は部屋に持ち帰ろうと?……ジュードさん、貴方と私の脳ミソを一緒にしないで欲しい……夜更かし確定だよ。
「この書庫って、司書さんとか貸し出しする為の事務員さんとかいるの?」
「いいえ。いない筈ですが」
どうやって本を借りるのか謎だ。
「じゃあ、本が盗まれちゃったりするんじゃないの?」
「ここへの立ち入りは、許可のない人は出来ません。出来たとしても、禁書庫の番人がいますから。本の持ち出しは全て……仮に鞄や衣類に本を隠していたとしても、扉を通過しただけで『紙食い』経由で番人にはわかりますから」
ジュードさんの言わんとしている詳細は全くわからないけど、この書庫への出入りは自由に行えない事と、番人と呼ばれる人が本を管理していて盗まれたりはしない事はわかった。てっきり、エイヴァさんわたしだから自由に出入り出来ないのかと思ってました。

「今日はここまでに致しましょうか」
「つっかれた~!!」
受験生か!という位机に向かったわ。お昼ご飯とトイレ以外ずっと書庫。でも多分明日も書庫。書庫書庫書庫。
「ジュードさん、おやつ食べたら、さっきの卓上ゲーム一戦しない?」
「はい。サーヤ様がお疲れでないなら、お付き合い致します」
「うんうん、付き合って~♪」
うん。感覚的に、秒で負けた。


「そう言えば、さっき書庫で知らない男性に話し掛けられたんだけど」
私がいじけながらフルーツを摘まんでいると、ジュードさんは無表情ながら直ぐ様「サーヤ様がですか!?」と普段より早口で聞かれた。多分、驚いているみたい……という事は、珍しい事なんだろうね。
「うん。なんか、親しげに感じたから、ジュードさんわかるかなって」
「……当然、マティオス様ではないのですよね?」
「うん。近衛隊長さんでもないよ」
「それは、そうでしょう。……どんな感じの方でしたか?」
私が説明すると、ジュードさんは少し考えて言った。
「……もしかすると、禁書庫の番人、かもしれません」
……あの人が?私は驚いた。禁書庫の番人って言うから、もっとこう……屈強で門番みたいなイメージを勝手に描いてましたよ、はい。
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