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「町田、好きだ! ずっと好きだった! 俺と付き合ってくれ」
「……え? ええと、僕、男なんだけど……」
二人が交際を始めたのは、中高一貫の男子校で中学三年に行われたクラス替えで、同じクラスになってからだった。
一学年だけで三百人以上いる学校であるため静流は汰一をその時初めて認識したのだが、どうやら汰一はそうでなかったらしい。
汰一と同じクラスになって早々告白された静流は、面食らった。
しかも、クラスメイト全員が注目する最中のことである。
はっきり言って、たちの悪い冗談なのかと思った。
もしくは、イジメや罰ゲームの延長か何か。
どのみちクラスメイト全員の前で汰一を振ることは、静流にとってとても負荷のかかることだった。
だから結局「想いに応えることはできないかもしれないけど、ひとまずお友達からで」と苦渋の決断で返事をした。
すると静流の返事を聞いたクラスメイトたちは「頑張れ、まだ望みはあるぞ!」と汰一の背中や肩を叩いて励ましていたから、驚いたのだ。
これから少なくとも一年間、クラスメイトたちの好奇の目に晒されるという針の筵の状態の生活を強いられるかと思うと、気が遠くなりそうだった。
そして汰一が「俺は静流に惚れてる」と以前から同級生たちに公言していたことを、あとで知った。
「町田、まずはお試しで、俺と付き合ってみない?」
汰一は差別や偏見をものともせず、どこであろうが堂々と静流を口説いた。
やがて静流が根負けをして折れる形で汰一の何度目かの告白に応じた時は、「おめでとう!」「やったな!」と汰一の恋の成就を祝う声でクラス内が賑わった。
しかし、健全たる男たちが集まってする会話なんて、部活や勉強より猥談が当たり前である。
「……で、どっちがウケなの?」
汰一がいない時、真正面からそう同級生に問われた静流は、耳元で囁かれた時に意味がわからず首を傾げた。
汰一は静流との週末デートでいつも楽しませてくれ、一緒に勉強をし、そして緊張したような面持ちでキスをした。
静流は「付き合うとはこういうものか」と思いながら、汰一に全部丸投げして「恋人とのイベント」を謳歌した。
そして必然的にキスの先を汰一から求められるようになったが、静流はその全てを許した。
だから自分が「ウケ」をするのも、ごく自然に思えた。
二人の関係はいつだって汰一が自分を求めて、静流がそれを受け止めたからだ。
「静流、好きだ。卒業後も一緒にいたい」
「うん、わかった」
汰一の一途な重たい愛は静流の脳を、身体を溶かして心まで侵食した。
気付けば汰一の「恋人」であることが静流の当たり前になっていた。
校庭の片隅で、教室のカーテンの裏で、空き教室で、階段の踊り場で、何度こっそりキスを交わしただろう。
それまで静流は、なんとなく自分もいつか恋人が出来て、結婚をして、子どもができて養って……という平凡な人生を送るのだと思っていた。
交際直後は特に、付き合っていても汰一はその平凡な人生の中における過程だとばかり思っていた。
けれども気付けば、静流にとって汰一は誰よりも大事な人になっていた。
汰一が自分を大事にしてくれるたび、特別扱いをするたび、その想いに同じ大きさ以上で応えたいと思うようになっていた。
そんな二人の仲睦まじい状態は、四年近く続いた。
――だからそれは、衝撃的だった。
高校三年生になって、汰一と進路について話したあとのことだ。
汰一の横に一生いるという自分の姿を、静流が思い描けるようになった頃のこと。
汰一は静流に言ったのだ。
「静流、俺たちさ、別れたほうが、いいよな」
「え?」
静流には汰一から言われた言葉が、理解できなかった。
いや、理解することを、頭が拒否していた。
「……え? ええと、僕、男なんだけど……」
二人が交際を始めたのは、中高一貫の男子校で中学三年に行われたクラス替えで、同じクラスになってからだった。
一学年だけで三百人以上いる学校であるため静流は汰一をその時初めて認識したのだが、どうやら汰一はそうでなかったらしい。
汰一と同じクラスになって早々告白された静流は、面食らった。
しかも、クラスメイト全員が注目する最中のことである。
はっきり言って、たちの悪い冗談なのかと思った。
もしくは、イジメや罰ゲームの延長か何か。
どのみちクラスメイト全員の前で汰一を振ることは、静流にとってとても負荷のかかることだった。
だから結局「想いに応えることはできないかもしれないけど、ひとまずお友達からで」と苦渋の決断で返事をした。
すると静流の返事を聞いたクラスメイトたちは「頑張れ、まだ望みはあるぞ!」と汰一の背中や肩を叩いて励ましていたから、驚いたのだ。
これから少なくとも一年間、クラスメイトたちの好奇の目に晒されるという針の筵の状態の生活を強いられるかと思うと、気が遠くなりそうだった。
そして汰一が「俺は静流に惚れてる」と以前から同級生たちに公言していたことを、あとで知った。
「町田、まずはお試しで、俺と付き合ってみない?」
汰一は差別や偏見をものともせず、どこであろうが堂々と静流を口説いた。
やがて静流が根負けをして折れる形で汰一の何度目かの告白に応じた時は、「おめでとう!」「やったな!」と汰一の恋の成就を祝う声でクラス内が賑わった。
しかし、健全たる男たちが集まってする会話なんて、部活や勉強より猥談が当たり前である。
「……で、どっちがウケなの?」
汰一がいない時、真正面からそう同級生に問われた静流は、耳元で囁かれた時に意味がわからず首を傾げた。
汰一は静流との週末デートでいつも楽しませてくれ、一緒に勉強をし、そして緊張したような面持ちでキスをした。
静流は「付き合うとはこういうものか」と思いながら、汰一に全部丸投げして「恋人とのイベント」を謳歌した。
そして必然的にキスの先を汰一から求められるようになったが、静流はその全てを許した。
だから自分が「ウケ」をするのも、ごく自然に思えた。
二人の関係はいつだって汰一が自分を求めて、静流がそれを受け止めたからだ。
「静流、好きだ。卒業後も一緒にいたい」
「うん、わかった」
汰一の一途な重たい愛は静流の脳を、身体を溶かして心まで侵食した。
気付けば汰一の「恋人」であることが静流の当たり前になっていた。
校庭の片隅で、教室のカーテンの裏で、空き教室で、階段の踊り場で、何度こっそりキスを交わしただろう。
それまで静流は、なんとなく自分もいつか恋人が出来て、結婚をして、子どもができて養って……という平凡な人生を送るのだと思っていた。
交際直後は特に、付き合っていても汰一はその平凡な人生の中における過程だとばかり思っていた。
けれども気付けば、静流にとって汰一は誰よりも大事な人になっていた。
汰一が自分を大事にしてくれるたび、特別扱いをするたび、その想いに同じ大きさ以上で応えたいと思うようになっていた。
そんな二人の仲睦まじい状態は、四年近く続いた。
――だからそれは、衝撃的だった。
高校三年生になって、汰一と進路について話したあとのことだ。
汰一の横に一生いるという自分の姿を、静流が思い描けるようになった頃のこと。
汰一は静流に言ったのだ。
「静流、俺たちさ、別れたほうが、いいよな」
「え?」
静流には汰一から言われた言葉が、理解できなかった。
いや、理解することを、頭が拒否していた。
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