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第一章 出会い(囲い込み)編
2
繭ちゃんは、バイト三昧だ。頑張って貯めたお金は全て趣味に費やしているらしい。
「繭ちゃん、今日のゼミの後の懇親会ってどうするの?やっぱりバイト?」
「あー、バイト入れちゃったから、途中で抜けかなー」
「そうなんだ」
今日、教授が「ゼミの懇親会を企画してはどうか、ただし強制じゃない」と言い出した。そこでゼミの代表に選ばれた人がノリよく「じゃあ折角皆集まっているので、早速今日、行ける人~~?」と急遽集計を取り出したのだ。
唯一の友人が途中で抜けるとはいえ不参加という訳ではない事にホッとして、思わず笑顔になる。
そして、私の不安と安堵を感じ取ったらしい繭ちゃんが私に聞いてきた。
「キララは誰か他に知り合いいるの?」
私は首を振った。
「そっか。じゃあ、さっきの山田君紹介しとこっか?知り合い多い方が良いよね?」
繭ちゃんがそう言うので、私は少し離れた席に座った山田さんをチラと見る。
他のゼミのメンバーからじろじろとした視線を投げられ居心地の悪い中、彼は全然こちらを見ずに黙々とノートを纏めているようだった。
それが逆に好感に繋がり、私は頷く。
「OK!山田君は頭良いし、いい人だと思うから安心してね」
「ありがとう」
そうして私達は、飲み会には早い時間の夕方から懇親会に参加した。
「山田君山田君、ちょっとちょっと」
「どうしたの?」
繭ちゃんは、先に店の中に入ろうとした山田さんを引き留め、手招きをした。
店の出入り口を塞がないように少しずれて、繭ちゃんは私を山田さんに紹介してくれる。
「こちら、戸枝キララさん。ゼミで私以外に知り合いがいないんだけど、私バイトで途中から抜けなきゃいけないからさ、変に群がってくる野郎どもから守ってあげて欲しくて」
山田さんは、私を見た。
「初めまして、山田良と申します。これから卒業までよろしく……って、鐘崎さんはこう言っているけど俺みたいな普通の奴でいいの?」
鐘崎さんというのは、繭ちゃんの事だ。苦笑いしながら聞いてくる山田さんに、私の好感度はもう一段階アップする。私の強烈な名前を聞くと、大抵の人は「キララ?」と聞き返してきたり、「凄い名前だね」と言ってきたりするのだけど、その反応がないのも嬉しかった。
普通こそが良いんです!とは思ったけど、流石にそんなこと声を大にして言う訳にもいかず、私はコクコク頷く。
「知り合いがいなくて心細いので、仲良くして下さったら助かります」
と私が言えば、
「そっか。じゃあ、これからゼミ仲間としてよろしく」
山田さんは、そう言って手を差し出した。少しだけ戸惑ったけど、誰かとお付き合いをした事のない私は初めてその日、久しぶりに男性の手を握った。
普通の山田さんの手は、やはり普通に大きくて……女の子の手とは違って少し固くて、皮膚が厚い気がして……ドキドキした。
「おい山田、その席代わってくれよ~~!!」
「なんで美人二人が一番壁際なんだよ!!」
飲み屋の一番壁際の席に私。私の隣に、山田さん。私の前に座る繭ちゃんの隣に、繭ちゃんの男友達が座った状態で私達が楽しく話に花を咲かせていると、酔っぱらったゼミの仲間が声を掛けてきた。私が何とも返事を出来ないでいると、山田さんがさらっと返事をしてくれる。
「まぁまぁ。二人みたいなイケメンをこんな端に呼んだら、俺がゼミの女性陣から集中砲火くらうからさ」
「だったらこっちに……」
「なーに、高木くーん?私達じゃご不満なのかしら?」
「いやいやそういう訳じゃないんだけど」
「じゃあいいでしょ?ほら、こっちはこっちで楽しもうよぉ」
声を掛けてきたゼミの仲間は、お洒落で可愛らしい女性達にそれ以上異を唱えられず、元の席に戻ってくれたので安堵する。強固に断る訳ではなく、男性陣を嫌な気分にさせる事もなく、上手に場を収めてくれた山田さんに感謝する。
そして私達は、中断された話題を再開した。
「山田さん、同じ高校だったんですね?」
「そうだね、奇遇だね」
驚いた事に、私達は同じ高校に通っていた事が判明したのだ。
最初一番よく行くコンビニの話で盛り上がり、山田さんの答えたコンビニがマニアックな、大学の周りにはない店舗で、しかし高校の真ん前にあって高校時代は私もしょっちゅう行っていたコンビニだったから、そこから出身高校の話になった。
そこから懐かしい高校時代の話へと変わり、当時厳しかった先生や人気だった先生、好きだった教科や文化祭の変な風習など色々話が飛んだり戻ったりしながら楽しい時間を過ごした。
男性とする、こんな普通の会話に憧れていた。
大抵の男性は、私と会話をしようとする時、「髪の色薄いね」「ハーフなの?」「親はどこの国の人?」からスタートするのだ。
最初の二つの質問はいいとして、困るのは最後の質問だ。
如何せん、私も知らないのだ。私が母に同じ質問をしても、「聞いていないからわからなーい」という返答しか受け取った事がない。
「フランスのパリで知り会ったんだけど、向こうが日本語上手で日本語で話していたから、どこの国の人なのか全然わからないんだよね~」というお花畑っぷり。
だから、両親がきちんと揃っているハーフの子は困らないのだろうけど、私みたいな特殊な事情があるハーフにはこの手の質問は困るのだ。中学の時に、「フランス人ってことにしておこう」と決めてからようやくそれ以上葛藤するのをやめたのだけれど。
「繭ちゃん、今日のゼミの後の懇親会ってどうするの?やっぱりバイト?」
「あー、バイト入れちゃったから、途中で抜けかなー」
「そうなんだ」
今日、教授が「ゼミの懇親会を企画してはどうか、ただし強制じゃない」と言い出した。そこでゼミの代表に選ばれた人がノリよく「じゃあ折角皆集まっているので、早速今日、行ける人~~?」と急遽集計を取り出したのだ。
唯一の友人が途中で抜けるとはいえ不参加という訳ではない事にホッとして、思わず笑顔になる。
そして、私の不安と安堵を感じ取ったらしい繭ちゃんが私に聞いてきた。
「キララは誰か他に知り合いいるの?」
私は首を振った。
「そっか。じゃあ、さっきの山田君紹介しとこっか?知り合い多い方が良いよね?」
繭ちゃんがそう言うので、私は少し離れた席に座った山田さんをチラと見る。
他のゼミのメンバーからじろじろとした視線を投げられ居心地の悪い中、彼は全然こちらを見ずに黙々とノートを纏めているようだった。
それが逆に好感に繋がり、私は頷く。
「OK!山田君は頭良いし、いい人だと思うから安心してね」
「ありがとう」
そうして私達は、飲み会には早い時間の夕方から懇親会に参加した。
「山田君山田君、ちょっとちょっと」
「どうしたの?」
繭ちゃんは、先に店の中に入ろうとした山田さんを引き留め、手招きをした。
店の出入り口を塞がないように少しずれて、繭ちゃんは私を山田さんに紹介してくれる。
「こちら、戸枝キララさん。ゼミで私以外に知り合いがいないんだけど、私バイトで途中から抜けなきゃいけないからさ、変に群がってくる野郎どもから守ってあげて欲しくて」
山田さんは、私を見た。
「初めまして、山田良と申します。これから卒業までよろしく……って、鐘崎さんはこう言っているけど俺みたいな普通の奴でいいの?」
鐘崎さんというのは、繭ちゃんの事だ。苦笑いしながら聞いてくる山田さんに、私の好感度はもう一段階アップする。私の強烈な名前を聞くと、大抵の人は「キララ?」と聞き返してきたり、「凄い名前だね」と言ってきたりするのだけど、その反応がないのも嬉しかった。
普通こそが良いんです!とは思ったけど、流石にそんなこと声を大にして言う訳にもいかず、私はコクコク頷く。
「知り合いがいなくて心細いので、仲良くして下さったら助かります」
と私が言えば、
「そっか。じゃあ、これからゼミ仲間としてよろしく」
山田さんは、そう言って手を差し出した。少しだけ戸惑ったけど、誰かとお付き合いをした事のない私は初めてその日、久しぶりに男性の手を握った。
普通の山田さんの手は、やはり普通に大きくて……女の子の手とは違って少し固くて、皮膚が厚い気がして……ドキドキした。
「おい山田、その席代わってくれよ~~!!」
「なんで美人二人が一番壁際なんだよ!!」
飲み屋の一番壁際の席に私。私の隣に、山田さん。私の前に座る繭ちゃんの隣に、繭ちゃんの男友達が座った状態で私達が楽しく話に花を咲かせていると、酔っぱらったゼミの仲間が声を掛けてきた。私が何とも返事を出来ないでいると、山田さんがさらっと返事をしてくれる。
「まぁまぁ。二人みたいなイケメンをこんな端に呼んだら、俺がゼミの女性陣から集中砲火くらうからさ」
「だったらこっちに……」
「なーに、高木くーん?私達じゃご不満なのかしら?」
「いやいやそういう訳じゃないんだけど」
「じゃあいいでしょ?ほら、こっちはこっちで楽しもうよぉ」
声を掛けてきたゼミの仲間は、お洒落で可愛らしい女性達にそれ以上異を唱えられず、元の席に戻ってくれたので安堵する。強固に断る訳ではなく、男性陣を嫌な気分にさせる事もなく、上手に場を収めてくれた山田さんに感謝する。
そして私達は、中断された話題を再開した。
「山田さん、同じ高校だったんですね?」
「そうだね、奇遇だね」
驚いた事に、私達は同じ高校に通っていた事が判明したのだ。
最初一番よく行くコンビニの話で盛り上がり、山田さんの答えたコンビニがマニアックな、大学の周りにはない店舗で、しかし高校の真ん前にあって高校時代は私もしょっちゅう行っていたコンビニだったから、そこから出身高校の話になった。
そこから懐かしい高校時代の話へと変わり、当時厳しかった先生や人気だった先生、好きだった教科や文化祭の変な風習など色々話が飛んだり戻ったりしながら楽しい時間を過ごした。
男性とする、こんな普通の会話に憧れていた。
大抵の男性は、私と会話をしようとする時、「髪の色薄いね」「ハーフなの?」「親はどこの国の人?」からスタートするのだ。
最初の二つの質問はいいとして、困るのは最後の質問だ。
如何せん、私も知らないのだ。私が母に同じ質問をしても、「聞いていないからわからなーい」という返答しか受け取った事がない。
「フランスのパリで知り会ったんだけど、向こうが日本語上手で日本語で話していたから、どこの国の人なのか全然わからないんだよね~」というお花畑っぷり。
だから、両親がきちんと揃っているハーフの子は困らないのだろうけど、私みたいな特殊な事情があるハーフにはこの手の質問は困るのだ。中学の時に、「フランス人ってことにしておこう」と決めてからようやくそれ以上葛藤するのをやめたのだけれど。
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