フツメンを選んだ筈ですが。

イセヤ レキ

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第一章 出会い(囲い込み)編

私達が選択科目の講義の教室で三人並んで話していると、前の席に座った町田さんが声を掛けて来てくれた。
「戸枝さん、二次会来なくて残念だったよ~!俺の美声を聞かせたかったのに!!」
「すみません。あの後カラオケ行ったんですか?」
昨日よりも私の中で抵抗感なく話せるようになっていて、少しホッとする。
けど、二次会がカラオケだとわかり尚更行かなくて良かった、と思う。
高校の時もよく連れて行かれたけど、歌わないと言っているのに勝手に曲入れられて、マイクを渡された。
そういう友人たちの瞳はキラキラ何かを期待していて、何故か私が上手いと確信しているみたいだけど、私は音痴とまではいかなくても、上手に歌えるわけではない。それに、人の歌を聴いている方が好きなタイプだ。
一度歌ってしまえば「ああ、上手な訳じゃないから本当に歌いたくなかったんだな」とわかって貰えるけど、それが苦痛で以来カラオケには余程仲が良い友人達としか行かなくなった。
「うん、そう。賑やかで楽しかったよ。ま、次の機会にね」
町田さんにウインクされ、私は曖昧に笑う。
「町田は歌上手いんだ?俺音痴だから、カラオケは嫌だな~」
山田さんがそう言うのに、思わず私は笑顔を向けた。
「山田さんも?私もそうなの。カラオケは実は苦手で」
「選曲も古いのばっかりだよ。最近の歌とか歌えないし」
「一緒だぁ」
ふふ、と笑うと、町田さんが微妙な顔をしてこちらを見ていた。
「町田さん?どうしました?」
「いや……、山田にはタメ語なんだなぁ、って思っただけ」
「え?」
そんな自覚はなくて、きょとんとする。すると、繭ちゃんが
「本当だ。そう言えば、昨日知り合ったばかりなのに山田君とだけはタメ語使うよね、キララ」
「え?……そう?」
山田さんにだけ失礼だっただろうか。不安に思って山田君を見上げると、彼は嬉しそうに笑う。
「えー、すげー嬉しい。どうだ町田、羨ましかろう?」
「くっそー!何でイケメンな俺が、フツメンの山田に負けるんだ!!」
茶化して町田さんは言うけれども、町田さんの口から「フツメン」という単語が出て私は目を見張る。
……フツメン。そうか、男性の目から見ても、山田さんはフツメンなのか。つまり、私のストライクゾーン。
「今度からは俺もタメ語で話してよ!」
「あ、うん……」
私は上の空で返事をする。
「鐘崎さんも途中で抜けちゃってたから、野郎どもががっかりしてたよ~」
「私は毎日バイトいれちゃってるから、急には無理なんだよね。来月のシフト組む前だったら合わせられるんだけど」
「そっか、幹事に言っとくよ」
何だか急にドキドキして、山田さんの笑顔が眩しく感じて、私は俯いたままその場をやり過ごした。


「戸枝さん」
「や、山田さん」
一日とんで、次の日。昨日はゼミの集まりも必須科目も、共通して取っている選択科目もなかったみたいで、教室に入っては何となく山田さんを目で探し、いないとわかると肩を落としていた。今日は一限目から山田さんに声を掛けられ、ダルさを喜びが上回った。
一限目が必須科目だったから山田さんも出席するだろうとはちょっと思っていたけど、繭ちゃんがいなくても山田さんが私に声を掛けてくれた事が純粋に嬉しい。
「一昨日話してた資料持って来たんだけど……あ、隣座っていい?」
「うん、勿論」
私はドキドキしながら荷物を退かす。
山田さんが隣に座ると、何だか爽やかな香りがした。コロン?……いや、山田さんは全身量販店コーディネートの人だから、柔軟剤かもしれない。でも良い香り。
「この時間に必須科目とかやめて欲しいよね」
「本当に。この曜日だけは朝から混んでる電車に乗るから、疲れるよね」
「でも、昨日は会えなかったからこの講義があって良かった」
昨日は会えなかった、と山田さんに言われて思わず顔が綻ぶ。山田さんも、私を探してくれていたんだ、と思ったから。
その時、必須科目担当の教授が入室して来たので、私達は無駄話をやめて講義に集中した。
講義が終わり、二人とも二限目は講義が入っていなかったのでキャンパス内のフリースペースに移動した。
丸いテーブルに向かい合って座り、山田さんがテーブルに乗せた資料を二人で反対側から覗き込む。
「戸枝さんは、どの辺に興味がある?」
山田さんが参考になりそうな資料を出す前に、今回のゼミのテーマとなり得るいくつかのキーワードを纏めたものを見せてくれた。
「ええと……この辺かな……」
私はインターネットにおけるマーケティングにも興味があったので、そこを指さした。
「そっか。そしたら、この辺の資料が使えるかも」
ごそごそと山田さんは鞄の中から本を見繕い、テーブルの上に置く。
「……」
広く売られている出版物から、自費出版の本、かたや研究資料っぽいものまで出てきたのだけど。
「ん?戸枝さん、どうかしたの?」
「あの……これ、英語の資料?」
「あっ……ごめん、それは間違い」
山田さんは、にっこり笑って二冊程資料を鞄の中に戻す。
一つは私の苦手な英語の本と、もう一つはドイツ語かフランス語っぽい文字の並んだ研究資料だった。
英語の本はまだ参考文献として出されても理解できる、けど……。
「……もしかして、山田さん……ドイツ語かフランス語出来たりする?」
「いや、出来ないよ。さっきのはコピーだけ友達に頼まれたんだ」
さらりと答える山田さんに私は安堵した。普通の大学生が、英語ではない外国語で書かれた専門用語だらけの研究資料なんて読める訳がないと思ったから。
「そ、そっか。私こんな顔しているけど、実は英語が凄く苦手で……」
「そうなんだ。俺も英語は並にしか出来ないから、さっきの英語の本とか用意したのはいいけど読むのは大変かも」
「準備するだけ偉いと思う」
「あはは、ありがとう」
結局、いくつか興味のある分野の本を数冊借りて、少し中を覗いてみてから自分のテーマを決める事にした。
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