フツメンを選んだ筈ですが。

イセヤ レキ

文字の大きさ
15 / 55
第二章 カップル(ABC)編

「戸枝さんの好きな魚は何?」
山田さんにそう聞かれ、私は水槽に目を奪われたまま、
「エイとか泳ぎ方が優雅で好きだな。尻尾とか格好いいのに、口のところが顔に見えて可愛いし。後は、深海魚とか好きだよ」
と答えた。丁度エイが目の前を通り過ぎたので、テンションが上がる。コバンザメ付きだった。
「戸枝さんは熱帯魚とか好きそうだと勝手にイメージしてたけど、成る程ね。常設展示場には深海魚いない……か、残念だったな」
「ううん、ここにも沢山好きな魚とかいるよ。熱帯魚も綺麗で好きだし……あ、あっちに展示してあるクラゲとかも好き」
肩を落とした様子の山田さんに、私は慌てて付け足した。深海魚を見に来ることが目的じゃないから、気にしないで欲しかった。何で深く考えずに深海魚、なんて言ってしまったのだろうと少し後悔する。山田さんとデートできるだけで嬉しくて、幸せなのに。
「そっか。因みに深海魚だと、どんな種類が好きなの?」
「えっとね、有名なところだとリュウグウノツカイとかかな。ちょっとマニアックな魚だと、フクロウナギとかミツクリザメが実際に口を開けたところを見てみたいって思う」
「へ~、後で調べてみよ」
「山田さんはどんなお魚が好きなの?」
初めてのデートでもっと緊張して何も話せなくなるかと思ったけど、そんなことはなく、静かな水族館の中で私達の小さな声のやり取りは延々と続いた。水族館の中はひんやりとしていてとても涼しく、私は少し後悔する。ショートパンツにしなくて本当に良かった……!と思う程、二時間も中にいると冷えた。ペンギンなんかがいる屋外エリアでは逆に身体が温まって、ホッとする位だ。それでも、屋内の餌やりタイムやイベントに夢中になり、屋外エリアに到着するまで時間がかかり過ぎていたようで。
「そろそろお昼にしようか、この建物の中のレストランでいいかな?」
という山田さんの質問に頷くと同時に、くしゅん、とくしゃみまで出てしまう。
「……大丈夫!?うわ、肩冷えてる……!ごめん俺、全然気付かないで……!」
普段冷静沈着な山田さんが慌てて、自分の薄手のジャケットを脱いで私の肩にかけてくれた。ふわっと山田さんの香りが強くなって、ドキドキする。
「あ、ありがとう……」
「一旦水族館の外に出た方がいいかな、ごめんね、もう少しだけ我慢してね」
山田さんは私の手を引っ張って水族館の外に出た。寒かった筈の身体に、熱が集まっていくのを感じる。特に手だ。手、汗ばんでないだろうか……!と思う程に初めての手繋ぎに緊張した。手ってどうやって繋ぐんだっけ?手の向きってこんなんだっけ!?
手にばかり集中してしまい、脳内でぐるぐると一人自問自答していたから山田さんの声掛けにも気付かなかった。
「……、戸枝さん?」
「えっ……、と、ごめん、何?」
「体調崩しちゃったかな?大丈夫?」
大丈夫、手に全神経が集中してしまっただけで大丈夫!
「うん。外なら暖かいし、大丈夫だよ」
山田さんの心配そうな顔に、申し訳なくなる。考えてみれば、初デートで私が風邪をひいて寝込んでしまったら、多分というか絶対山田さんは気にするだろう。下手をすれば、初デート失敗、という烙印まで押されてしまいかねない。凄く楽しくて、幸せな一日の思い出がそんな風に残るなんて絶対嫌だ。
「そうだね。今レストランに入るとまたクーラーが効いているかもしれないから入らない方がいいよね。でも、お腹空いてない?」
「うん。あ、じゃあ、ちょっと小腹を満たしに行かない?たこ焼きとか山田さん食べられる?」
水族館から歩いて十分程のところに、たこ焼きのでっかいバージョンを売っている屋台があるのを私は知っていた。見た目インパクトがあって楽しくて、熱々で美味しいから私は好きなのだけど。
「うん、好きだよ」
「えとね、そこ行くなら、こっち」
今度はドキドキしながら、私が山田さんを引っ張った。
なんか、いいな、こういうの。大学じゃ手なんて繋ぎたくても人目が気になって繋げないし、これだけでもデートって感じがする。
デートって、相手のこと好きなんだなーって物凄く感じるイベントなんだ。したことなかったから、気付かなかったけど……大学に行く時は適当な服を着回しするだけなのに、デートだとメイクとか髪型とか服の皺とかまで気になるものなんだ。何事も経験だな。
「ここだよ、ちょっと並んでいるけど」
「じゃあ、俺達も並ぼう」
「うん」
列の最後尾に並ぶと、私はさり気なく手を離した。ああ、たったこれだけの事が緊張する。
ソフトボール大のたこ焼きをそれぞれ一つずつ注文すると、山田さんはまた財布を出してくれたけど、現金を持っていなかった。だから、私はもたもたしつつも今回は奢ることが出来た。
「……屋台って、クレジットカードも電子マネーも使えないんだね……」
山田さんには衝撃だったようだ。もしかしたら、屋台で何か食べる事は今まであまりなかったのだろうか?
「うん、使えるところも増えてきたけど、まだまだ使えないところも多いかな」
「成る程。戸枝さん、俺普段現金持ち歩かないから、ちょっとATMに寄らせて貰ってもいいかな?」
いいよ、と答えようとしてやっぱりやめた。
「ううん、さっきの水族館の入場料払って貰っちゃったから、こことお昼は私が払うね」
「いや、……うーん、じゃあ、ありがとう」
屋台で買わないということは、もしかしたらあまり食べ歩きとか好きではないのかな、と心配したけれど、
「結構なボリュームだね」
「そうでしょ?中がとろとろ熱々で美味しいんだよ」
「ほんとだ、あちち」
「火傷しないように気を付けて~」
山田さんは笑顔で美味しいと言って食べてくれたのでホッとした。
感想 4

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

女の子がほとんど産まれない国に転生しました。

さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。 100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳 そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。 当面は2日に1話更新予定!

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

婚約解消されたら隣にいた男に攫われて、強請るまで抱かれたんですけど?〜暴君の暴君が暴君過ぎた話〜

紬あおい
恋愛
婚約解消された瞬間「俺が貰う」と連れ去られ、もっとしてと強請るまで抱き潰されたお話。 連れ去った強引な男は、実は一途で高貴な人だった。

俺様上司に今宵も激しく求められる。

藤白ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end** ◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です! https://estar.jp/novels/26513389

完全なる飼育

浅野浩二
恋愛
完全なる飼育です。