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第二章 カップル(ABC)編
3
「戸枝さんの好きな魚は何?」
山田さんにそう聞かれ、私は水槽に目を奪われたまま、
「エイとか泳ぎ方が優雅で好きだな。尻尾とか格好いいのに、口のところが顔に見えて可愛いし。後は、深海魚とか好きだよ」
と答えた。丁度エイが目の前を通り過ぎたので、テンションが上がる。コバンザメ付きだった。
「戸枝さんは熱帯魚とか好きそうだと勝手にイメージしてたけど、成る程ね。常設展示場には深海魚いない……か、残念だったな」
「ううん、ここにも沢山好きな魚とかいるよ。熱帯魚も綺麗で好きだし……あ、あっちに展示してあるクラゲとかも好き」
肩を落とした様子の山田さんに、私は慌てて付け足した。深海魚を見に来ることが目的じゃないから、気にしないで欲しかった。何で深く考えずに深海魚、なんて言ってしまったのだろうと少し後悔する。山田さんとデートできるだけで嬉しくて、幸せなのに。
「そっか。因みに深海魚だと、どんな種類が好きなの?」
「えっとね、有名なところだとリュウグウノツカイとかかな。ちょっとマニアックな魚だと、フクロウナギとかミツクリザメが実際に口を開けたところを見てみたいって思う」
「へ~、後で調べてみよ」
「山田さんはどんなお魚が好きなの?」
初めてのデートでもっと緊張して何も話せなくなるかと思ったけど、そんなことはなく、静かな水族館の中で私達の小さな声のやり取りは延々と続いた。水族館の中はひんやりとしていてとても涼しく、私は少し後悔する。ショートパンツにしなくて本当に良かった……!と思う程、二時間も中にいると冷えた。ペンギンなんかがいる屋外エリアでは逆に身体が温まって、ホッとする位だ。それでも、屋内の餌やりタイムやイベントに夢中になり、屋外エリアに到着するまで時間がかかり過ぎていたようで。
「そろそろお昼にしようか、この建物の中のレストランでいいかな?」
という山田さんの質問に頷くと同時に、くしゅん、とくしゃみまで出てしまう。
「……大丈夫!?うわ、肩冷えてる……!ごめん俺、全然気付かないで……!」
普段冷静沈着な山田さんが慌てて、自分の薄手のジャケットを脱いで私の肩にかけてくれた。ふわっと山田さんの香りが強くなって、ドキドキする。
「あ、ありがとう……」
「一旦水族館の外に出た方がいいかな、ごめんね、もう少しだけ我慢してね」
山田さんは私の手を引っ張って水族館の外に出た。寒かった筈の身体に、熱が集まっていくのを感じる。特に手だ。手、汗ばんでないだろうか……!と思う程に初めての手繋ぎに緊張した。手ってどうやって繋ぐんだっけ?手の向きってこんなんだっけ!?
手にばかり集中してしまい、脳内でぐるぐると一人自問自答していたから山田さんの声掛けにも気付かなかった。
「……、戸枝さん?」
「えっ……、と、ごめん、何?」
「体調崩しちゃったかな?大丈夫?」
大丈夫、手に全神経が集中してしまっただけで大丈夫!
「うん。外なら暖かいし、大丈夫だよ」
山田さんの心配そうな顔に、申し訳なくなる。考えてみれば、初デートで私が風邪をひいて寝込んでしまったら、多分というか絶対山田さんは気にするだろう。下手をすれば、初デート失敗、という烙印まで押されてしまいかねない。凄く楽しくて、幸せな一日の思い出がそんな風に残るなんて絶対嫌だ。
「そうだね。今レストランに入るとまたクーラーが効いているかもしれないから入らない方がいいよね。でも、お腹空いてない?」
「うん。あ、じゃあ、ちょっと小腹を満たしに行かない?たこ焼きとか山田さん食べられる?」
水族館から歩いて十分程のところに、たこ焼きのでっかいバージョンを売っている屋台があるのを私は知っていた。見た目インパクトがあって楽しくて、熱々で美味しいから私は好きなのだけど。
「うん、好きだよ」
「えとね、そこ行くなら、こっち」
今度はドキドキしながら、私が山田さんを引っ張った。
なんか、いいな、こういうの。大学じゃ手なんて繋ぎたくても人目が気になって繋げないし、これだけでもデートって感じがする。
デートって、相手のこと好きなんだなーって物凄く感じるイベントなんだ。したことなかったから、気付かなかったけど……大学に行く時は適当な服を着回しするだけなのに、デートだとメイクとか髪型とか服の皺とかまで気になるものなんだ。何事も経験だな。
「ここだよ、ちょっと並んでいるけど」
「じゃあ、俺達も並ぼう」
「うん」
列の最後尾に並ぶと、私はさり気なく手を離した。ああ、たったこれだけの事が緊張する。
ソフトボール大のたこ焼きをそれぞれ一つずつ注文すると、山田さんはまた財布を出してくれたけど、現金を持っていなかった。だから、私はもたもたしつつも今回は奢ることが出来た。
「……屋台って、クレジットカードも電子マネーも使えないんだね……」
山田さんには衝撃だったようだ。もしかしたら、屋台で何か食べる事は今まであまりなかったのだろうか?
「うん、使えるところも増えてきたけど、まだまだ使えないところも多いかな」
「成る程。戸枝さん、俺普段現金持ち歩かないから、ちょっとATMに寄らせて貰ってもいいかな?」
いいよ、と答えようとしてやっぱりやめた。
「ううん、さっきの水族館の入場料払って貰っちゃったから、こことお昼は私が払うね」
「いや、……うーん、じゃあ、ありがとう」
屋台で買わないということは、もしかしたらあまり食べ歩きとか好きではないのかな、と心配したけれど、
「結構なボリュームだね」
「そうでしょ?中がとろとろ熱々で美味しいんだよ」
「ほんとだ、あちち」
「火傷しないように気を付けて~」
山田さんは笑顔で美味しいと言って食べてくれたのでホッとした。
山田さんにそう聞かれ、私は水槽に目を奪われたまま、
「エイとか泳ぎ方が優雅で好きだな。尻尾とか格好いいのに、口のところが顔に見えて可愛いし。後は、深海魚とか好きだよ」
と答えた。丁度エイが目の前を通り過ぎたので、テンションが上がる。コバンザメ付きだった。
「戸枝さんは熱帯魚とか好きそうだと勝手にイメージしてたけど、成る程ね。常設展示場には深海魚いない……か、残念だったな」
「ううん、ここにも沢山好きな魚とかいるよ。熱帯魚も綺麗で好きだし……あ、あっちに展示してあるクラゲとかも好き」
肩を落とした様子の山田さんに、私は慌てて付け足した。深海魚を見に来ることが目的じゃないから、気にしないで欲しかった。何で深く考えずに深海魚、なんて言ってしまったのだろうと少し後悔する。山田さんとデートできるだけで嬉しくて、幸せなのに。
「そっか。因みに深海魚だと、どんな種類が好きなの?」
「えっとね、有名なところだとリュウグウノツカイとかかな。ちょっとマニアックな魚だと、フクロウナギとかミツクリザメが実際に口を開けたところを見てみたいって思う」
「へ~、後で調べてみよ」
「山田さんはどんなお魚が好きなの?」
初めてのデートでもっと緊張して何も話せなくなるかと思ったけど、そんなことはなく、静かな水族館の中で私達の小さな声のやり取りは延々と続いた。水族館の中はひんやりとしていてとても涼しく、私は少し後悔する。ショートパンツにしなくて本当に良かった……!と思う程、二時間も中にいると冷えた。ペンギンなんかがいる屋外エリアでは逆に身体が温まって、ホッとする位だ。それでも、屋内の餌やりタイムやイベントに夢中になり、屋外エリアに到着するまで時間がかかり過ぎていたようで。
「そろそろお昼にしようか、この建物の中のレストランでいいかな?」
という山田さんの質問に頷くと同時に、くしゅん、とくしゃみまで出てしまう。
「……大丈夫!?うわ、肩冷えてる……!ごめん俺、全然気付かないで……!」
普段冷静沈着な山田さんが慌てて、自分の薄手のジャケットを脱いで私の肩にかけてくれた。ふわっと山田さんの香りが強くなって、ドキドキする。
「あ、ありがとう……」
「一旦水族館の外に出た方がいいかな、ごめんね、もう少しだけ我慢してね」
山田さんは私の手を引っ張って水族館の外に出た。寒かった筈の身体に、熱が集まっていくのを感じる。特に手だ。手、汗ばんでないだろうか……!と思う程に初めての手繋ぎに緊張した。手ってどうやって繋ぐんだっけ?手の向きってこんなんだっけ!?
手にばかり集中してしまい、脳内でぐるぐると一人自問自答していたから山田さんの声掛けにも気付かなかった。
「……、戸枝さん?」
「えっ……、と、ごめん、何?」
「体調崩しちゃったかな?大丈夫?」
大丈夫、手に全神経が集中してしまっただけで大丈夫!
「うん。外なら暖かいし、大丈夫だよ」
山田さんの心配そうな顔に、申し訳なくなる。考えてみれば、初デートで私が風邪をひいて寝込んでしまったら、多分というか絶対山田さんは気にするだろう。下手をすれば、初デート失敗、という烙印まで押されてしまいかねない。凄く楽しくて、幸せな一日の思い出がそんな風に残るなんて絶対嫌だ。
「そうだね。今レストランに入るとまたクーラーが効いているかもしれないから入らない方がいいよね。でも、お腹空いてない?」
「うん。あ、じゃあ、ちょっと小腹を満たしに行かない?たこ焼きとか山田さん食べられる?」
水族館から歩いて十分程のところに、たこ焼きのでっかいバージョンを売っている屋台があるのを私は知っていた。見た目インパクトがあって楽しくて、熱々で美味しいから私は好きなのだけど。
「うん、好きだよ」
「えとね、そこ行くなら、こっち」
今度はドキドキしながら、私が山田さんを引っ張った。
なんか、いいな、こういうの。大学じゃ手なんて繋ぎたくても人目が気になって繋げないし、これだけでもデートって感じがする。
デートって、相手のこと好きなんだなーって物凄く感じるイベントなんだ。したことなかったから、気付かなかったけど……大学に行く時は適当な服を着回しするだけなのに、デートだとメイクとか髪型とか服の皺とかまで気になるものなんだ。何事も経験だな。
「ここだよ、ちょっと並んでいるけど」
「じゃあ、俺達も並ぼう」
「うん」
列の最後尾に並ぶと、私はさり気なく手を離した。ああ、たったこれだけの事が緊張する。
ソフトボール大のたこ焼きをそれぞれ一つずつ注文すると、山田さんはまた財布を出してくれたけど、現金を持っていなかった。だから、私はもたもたしつつも今回は奢ることが出来た。
「……屋台って、クレジットカードも電子マネーも使えないんだね……」
山田さんには衝撃だったようだ。もしかしたら、屋台で何か食べる事は今まであまりなかったのだろうか?
「うん、使えるところも増えてきたけど、まだまだ使えないところも多いかな」
「成る程。戸枝さん、俺普段現金持ち歩かないから、ちょっとATMに寄らせて貰ってもいいかな?」
いいよ、と答えようとしてやっぱりやめた。
「ううん、さっきの水族館の入場料払って貰っちゃったから、こことお昼は私が払うね」
「いや、……うーん、じゃあ、ありがとう」
屋台で買わないということは、もしかしたらあまり食べ歩きとか好きではないのかな、と心配したけれど、
「結構なボリュームだね」
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山田さんは笑顔で美味しいと言って食べてくれたのでホッとした。
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