18 / 55
第二章 カップル(ABC)編
6
「……すっごい美人だったけど、背が高くて相手の男フツメンで釣り合わないよねー。ああいうのってやっぱり金なのかなぁ?」
私がドアを開けると、洗面所にいた一人の女性に扉が当たりそうになって「すみません」と声を掛けた。ちょっと狭いな、このトイレ。ドアをゆっくり開けて良かった。
「……あ」
ん?何だろうと思って顔をあげると、二人の女性が慌てて目を逸らす。それでやっと気付いた。この女性達が話していたのは、私と山田さんのことだったんだって。
私が山田さんと並んで歩いているのは、似合わないのだろうか?お金目当てだと思われるのだろうか?俯いた私の目に、五センチのヒールのあるお気に入りのパンプスが目に飛び込んでくる。これを履くとほぼ山田さんとの身長差はなくなるのだけど、背が高いのにこんなヒールのある履物を選んだのがいけなかったのだろうか?なんで、好きで隣にいるんだって思って貰えないのだろう……。
少しでも山田さんに可愛いって思われたくて、ファンデをのせて、リップを塗り直して……さっきまで浮かれていた気持ちが嘘のように、沈んでいくのがわかる。でも、気にしちゃいけない。そう思い直して、私は席に戻った。
「ごめんね、お待たせ」
私が山田さんに声を掛けると、
「……何かあった?」
山田さんは私の顔を見るなり、そう聞いてきて。
「え?何も……ないよ?」
やばい、声が震えた。山田さんは人の感情の機微に敏い人だって、さっきも思ったばかりなのに。折角のデートで、気にさせちゃいけないのに。
「……そっか。ならいいんだけど」
深く追究しないでくれるのが、有難い。今ここで追究されたら、感情が溢れて涙が出てきてしまいそうだから。
「じゃあ、出ようか」
山田さんに言われて頷き、私は会計伝票を探したけど見当たらない。
「あ、会計は済ませておいたよ」
えええ!山田さんスマート過ぎる!!
「私の分、現金で渡してもいい?」
現金を持ち歩かない主義、と言っていた山田さんに私が聞くと、
「誕生日を当日祝えなかったからね、そのお詫びというか代わりって考えて貰えれば」
と言われた。……そんなことってありだろうか?じゃあ、夕飯をご馳走すればいいかな?
「ええと、ありがとう。夕飯こそは私が奢るからね」
「気にしないでいいのに」
気にします。
「だって、山田さんバイトしていないんだよね?」
それってつまり、山田さんのご両親が山田さんの為に渡したお金を私が使っていることになる気がする。
「あー、バイトはしていないけど、きちんと自分で働いて稼いだ金だよ」
……どういうことだろう?あ!もしかして、ご実家は自営業とかなのかな?
「そうなんだ」
でも、一人暮らしの家庭は普通よりずっとお金が掛かると聞く。
「……私の誕生日プレゼント、やっぱり無理しないでも……」
「それは俺がプレゼントしたいの」
そうだった。これ以上の押し問答はやめて、私達はウィンドウショッピングへと繰り出す。店の外に出ると、もう夕方だというのにまだ熱気が凄かった。
「人が多いね」
山田さんがスッと手を差し出してくれる。私は嬉々として、そこに自分の手をのせようとして……怖くなった。さっきの女性達みたいに、私と山田さんの関係を歪めて受け取る人達がいるんじゃないかと思って。
その様子を観察していた山田さんが、私に言う。
「気にしないでいいよ」
「え?」
「誰に何て言われても、気にしないでいい。似合うとか似合わないとかじゃなくて、好きかどうか……大事なのは自分達の気持ちだと思うから」
山田さんのその言葉は、私の胸にすぅ、と入り込んできて。今度こそ、私は山田さんの手に自分のそれを重ねた。
その後は何事もなく、最後まで楽しい一日を過ごして。
何回も山田さんにキュンとさせられては、彼をどんどん好きになっていく自分を自覚した。
そして、別れ際。
「山田さん、じゃなくて名前で呼んで欲しいな」
「えっ……」
「だから俺も、キララって呼んでいい?」
「も、勿論……!」
あんなに嫌だったキラキラネームも、山田さんに呼ばれれば舞い上がって。
「じゃあ、私は……良……ちゃんって呼んでいい?」
私に呼び捨てはハードルが高くて、そうお願いしてみた。「ちゃん」付けなんて、男性は嫌がるかもしれないけど。
「うん、嬉しい」
私達は再び恋人のステップをひとつ上にのぼり、その日のメッセージアプリのやり取りから、名前で呼び合う仲になれた。
私がドアを開けると、洗面所にいた一人の女性に扉が当たりそうになって「すみません」と声を掛けた。ちょっと狭いな、このトイレ。ドアをゆっくり開けて良かった。
「……あ」
ん?何だろうと思って顔をあげると、二人の女性が慌てて目を逸らす。それでやっと気付いた。この女性達が話していたのは、私と山田さんのことだったんだって。
私が山田さんと並んで歩いているのは、似合わないのだろうか?お金目当てだと思われるのだろうか?俯いた私の目に、五センチのヒールのあるお気に入りのパンプスが目に飛び込んでくる。これを履くとほぼ山田さんとの身長差はなくなるのだけど、背が高いのにこんなヒールのある履物を選んだのがいけなかったのだろうか?なんで、好きで隣にいるんだって思って貰えないのだろう……。
少しでも山田さんに可愛いって思われたくて、ファンデをのせて、リップを塗り直して……さっきまで浮かれていた気持ちが嘘のように、沈んでいくのがわかる。でも、気にしちゃいけない。そう思い直して、私は席に戻った。
「ごめんね、お待たせ」
私が山田さんに声を掛けると、
「……何かあった?」
山田さんは私の顔を見るなり、そう聞いてきて。
「え?何も……ないよ?」
やばい、声が震えた。山田さんは人の感情の機微に敏い人だって、さっきも思ったばかりなのに。折角のデートで、気にさせちゃいけないのに。
「……そっか。ならいいんだけど」
深く追究しないでくれるのが、有難い。今ここで追究されたら、感情が溢れて涙が出てきてしまいそうだから。
「じゃあ、出ようか」
山田さんに言われて頷き、私は会計伝票を探したけど見当たらない。
「あ、会計は済ませておいたよ」
えええ!山田さんスマート過ぎる!!
「私の分、現金で渡してもいい?」
現金を持ち歩かない主義、と言っていた山田さんに私が聞くと、
「誕生日を当日祝えなかったからね、そのお詫びというか代わりって考えて貰えれば」
と言われた。……そんなことってありだろうか?じゃあ、夕飯をご馳走すればいいかな?
「ええと、ありがとう。夕飯こそは私が奢るからね」
「気にしないでいいのに」
気にします。
「だって、山田さんバイトしていないんだよね?」
それってつまり、山田さんのご両親が山田さんの為に渡したお金を私が使っていることになる気がする。
「あー、バイトはしていないけど、きちんと自分で働いて稼いだ金だよ」
……どういうことだろう?あ!もしかして、ご実家は自営業とかなのかな?
「そうなんだ」
でも、一人暮らしの家庭は普通よりずっとお金が掛かると聞く。
「……私の誕生日プレゼント、やっぱり無理しないでも……」
「それは俺がプレゼントしたいの」
そうだった。これ以上の押し問答はやめて、私達はウィンドウショッピングへと繰り出す。店の外に出ると、もう夕方だというのにまだ熱気が凄かった。
「人が多いね」
山田さんがスッと手を差し出してくれる。私は嬉々として、そこに自分の手をのせようとして……怖くなった。さっきの女性達みたいに、私と山田さんの関係を歪めて受け取る人達がいるんじゃないかと思って。
その様子を観察していた山田さんが、私に言う。
「気にしないでいいよ」
「え?」
「誰に何て言われても、気にしないでいい。似合うとか似合わないとかじゃなくて、好きかどうか……大事なのは自分達の気持ちだと思うから」
山田さんのその言葉は、私の胸にすぅ、と入り込んできて。今度こそ、私は山田さんの手に自分のそれを重ねた。
その後は何事もなく、最後まで楽しい一日を過ごして。
何回も山田さんにキュンとさせられては、彼をどんどん好きになっていく自分を自覚した。
そして、別れ際。
「山田さん、じゃなくて名前で呼んで欲しいな」
「えっ……」
「だから俺も、キララって呼んでいい?」
「も、勿論……!」
あんなに嫌だったキラキラネームも、山田さんに呼ばれれば舞い上がって。
「じゃあ、私は……良……ちゃんって呼んでいい?」
私に呼び捨てはハードルが高くて、そうお願いしてみた。「ちゃん」付けなんて、男性は嫌がるかもしれないけど。
「うん、嬉しい」
私達は再び恋人のステップをひとつ上にのぼり、その日のメッセージアプリのやり取りから、名前で呼び合う仲になれた。
あなたにおすすめの小説
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話
よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。
「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。
女の子がほとんど産まれない国に転生しました。
さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。
100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳
そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。
当面は2日に1話更新予定!
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。