フツメンを選んだ筈ですが。

イセヤ レキ

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第二章 カップル(ABC)編

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全く思い通りにいかなかったことのもう一つが、俺の異常な性欲だ。これは常に「普通」でいなければならない俺をかなり苦しめた。
キララを好きになってから、俺のバックボーン目当てに近寄ってくる女相手に適当に抜くこともしなくなったから、有り余った滾りはマグマのように常に奥底で渦巻いていた。そんな、今にもドロドロに溶かしてしまいたいとキララへ欲望が向かっていくのを、常に俺は抑制していたのだ。
有り余った性欲しかない男が、大好きな彼女を前に聖人君子でいなければならないのである。これは地獄だ。
俺の本能は今すぐ次のステップに進みたがっていたが、キララが「普通のカップルのABC」を求めていることはわかりきっていたから、理性を総動員してキララを好き勝手に犯すのは脳内だけに止めておいた。
キララが部屋に俺の部屋に行きたいと言った時、早くキスをしたくてその日のうちに自分の部屋に誘ってしまった。あまりに性急すぎただろうか、俺の下心がキララに伝わってしまったのではないだろうかとその後警戒したが、キララは全く気付く様子もなかった。
そして、普段は殺風景な俺の部屋にキララがいるだけで、キラキラと場が華やいだのには驚いた。
「そう言えば、キララはいつまで今のバイトを続けるつもりなの?」
俺は夏休みの間、社会経験を兼ねて他社のインターンシップの予定をガンガンに詰め込んでいた。本当に惹かれる会社があるなら、一度家とは関係ない会社に入社するのも、人生経験の一旦を担うと思うし。
そして、キララの夏休みは店長に頼まれてバイト三昧、ということで、会える日は限られていた。
「うーん、そろそろ就活が本格的に始まるもんね。ちょっと悩んでるんだ」
キララはそう言いながら、窓から差し込む夏の日差しを受け、透けて金に輝く髪を耳に掛けた。まぁ、キララの就職活動はほぼ心配はない。彼女の希望する業種がわかれば、俺がグループ会社の中からいくつか見繕って誘導するし。
それよりも問題なのは……。
「今のバイト先にも希望出すの?」
「一応候補に入れようかな、とは思ってる。凄く女性にとって福利厚生が良い職場なんだ。けど、経済学部の人間がアイスクリーム屋さんに希望出すのも、どうかなあ……」
キララなら集客力があるから恐らく問題ないだろうが、俺的には大問題だ。就職した後の監視……いや、フォローができないからな。
「そうだね、難しいかもしれないね。」
俺は穏やかに言った。
「福利厚生と言えば、バイト先の店長が産休で長期休暇とるんだよ。生まれたら是非見に来てくれって♪今から楽しみなんだ」
キララは今からウキウキといった様子で話す。しかしつい、俺は眉を潜めてしまった。四月に報告を受けた時には女性の店長だったから安心していたが、そうか、産休……店長が変わったのか。
「赤ちゃん見る機会なんて滅多にないもんね。じゃあ、今は新しい店長なの?」
「うん、そう。それで、新しい店長からシフト沢山入れてくれって言われちゃって、夏休み忙しくなったんだ」
キララはえへへ、と笑って何でもないことのように言うが……そして実際何も感じていないのだろうが、俺にはピンと来た。
「その新しい店長も、女性?」
「ううん、今回は男性だよ」
「へぇ、そっかぁ……」
「私がバイト長いから、物の置き場所とか色々教えることもあるんだよ~」
夏休み中に色々教えて欲しいんだって、えへん、と続けるキララは可愛い。だから俺は、心配性だろうが、過保護だろうが、またひとつ裏で手を回すことになるんだ。
その後、キララと初めてキスをすることに成功して。理性が振り切れて、思わず舌を入れたところでキララがストップをかけた。
俺は、歯止めをかけてくれたキララに感謝しつつ、今日はここまで、と思いながら彼女をぎゅうっと抱き締める。
キララは何か言いたげな表情をしていたけれども、あえてそれには触れずに普通に過ごした。
キララと付き合うのであれば、彼女の「普通」を追求することと、もう一つ大事なことがある。
彼女が物足りないと感じる程度で、引くことだ。
つまり、俺には物足りなさ過ぎるけれども、キララは追いかければ逃げるタイプ。追い詰めることは一切せずに、彼女が近寄って来るのをひたすら待ち、そして居心地の良い空間を提供することで俺の傍をホームと感じて貰うことだ。
だから俺はキララを犯したい本能に抗って耐えた。念願の、キララとのキスで元気になった息子を無理矢理宥め、キララと別れる。
好きな人とのキスがあんなに心躍るものだとは知らなかった。言い寄ってくる女と寝た時よりずっと、気持ち良かった。叶うならば、ずっとあの時間が続いて欲しかった。
俺は彼女のいなくなった無機質な空間でぼーっとしながら、次に部屋に来てもらうのは、いつ頃が「普通」なのだろう、と考えた。
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