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第三章 新婚(調教)編
1
フツメンを選んだ筈だった。
私が隣にいて無理なく自然体でいられる筈の、フツメンを。
だって私の中身こそが、普通だから。
容姿も、体型も、経済力も、名前ですらも、何もかもが普通だと思っていた、私の理想の相手である良ちゃん。
まさか、私と逆の、見掛けだけがフツメンだったなんて露程にも思わずに、私は彼と結婚した。
私がそのことに気付いたのは、ハワイでの挙式を終えて帰国し、入籍してからだ。
後で思い返せば、羽田からホノルルの直行便が行きも帰りもビジネスクラスからファーストクラスに変更されていたのも、既におかしかったのだ。手続きをしてくれた良ちゃんが「手違いみたいだよ」と言うのに「ラッキーだね!」なんて能天気な返事をしていた自分が恥ずかしい。
良ちゃんと二人で決めた新居の賃貸物件も、「両親の知り合いがオーナーだから安くして貰えるんだって」と言うのに「有難いね!」なんて返して、あんな「立派なマンションのオーナーと知り合い」という関係性を全く深く考えていなかった。
今でも忘れられないのがハワイから帰ってきた時のことだ。ロータリーにはとんでもない高級車が止まっていて、「良ちゃん、凄い車が止まってるよ!お偉いさんとか外国の俳優さんとか乗るのかなぁ?」なんてはしゃいでいたら、「キララも乗ってみたい?」なんて聞かれて。冗談交じりに「うん、座り心地とか気になる~」って笑っていたら、運転手さんが私達を見るなり後部座席のドアを開けて。
唖然とする私に良ちゃんと運転手さんは笑って、「どうぞ」と言ったのだ。
良ちゃんのご両親から、「ハワイでの挙式に来られなかった親族が、キララさんに会いたいって言っているのだけれども、簡単な内輪のお披露目会を企画してもいいかしら?」と言われて「是非」なんて答えた自分。「主役は何もしないで、私達に任せておいてね!」なんて言われてご厚意に甘えた結果、まさかクルーザー船を貸し切って五十人程の来賓を招くなんて考えてもいなかった。
隣に良ちゃんがいなかったら、口から泡を吹いて卒倒した自信がある。用意されていた着替えや、それに合わせて準備された幾つかの装飾品を見て、何かおかしい何かおかしいとは感じたけれども、まさか良ちゃんの実家がここまで資産家だとは思わずにいた。
良ちゃんのお祖父様に初めてお会いした時、「普段はドバイにいるので今度遊びに来てください」とにこやかに言われた時は、本当にどうしようかと思った。遠くに住んでいる、とは聞いていたけど、私の中では日本の中での範疇だった訳で。そもそもドバイって何処!?物価の安いところで、隠居生活でもされているのだろうか?
「……まさか、良ちゃんのご実家がこんなにお金持ちだったなんて……」
帰宅後、ぐったりしながら私がそう恨めしそうに言えば、良ちゃんはさらっと「まぁ、金持っているのは親だからさ、気にしないでいいよ。それより疲れたよね、今日は二日分の料理を家政婦さんが作ってくれているから、キララは少し休んで?」と言われてぎょっとした。
家政婦さん。……家政婦さん!?家事代行じゃなくて!?人生の中で当然家事代行サービスすら使ったことがない私は、軽く白目を剝きそうになった。
しかし、何を勘違いしたのか良ちゃんは「あ、うちのキッチンは使ってないから、安心してね。デリバリーだと思って貰えればいいよ」とのたまう。勝手に台所を使われるのを気にする人はいるかもしれないけれど、まだ新居だということもあって私はそこまで気にならなかった。むしろ気になるのは……と思い冷蔵庫を開けて、良ちゃん曰く「デリバリー」をチェックする。そしてパタンと扉を閉めた。
……うん、一般的なデリバリーとは完成度と質が違いすぎる。山田家では、毎日こんな料理が出されていたのだろうか!?料理が得意だと自負していた私の自信がしおしおと萎びていくのを感じた。
何これ……世界が違いすぎる……私の考える平凡な「普通」から逸脱した状況ばかりが過ぎ去り、私はそれに応えるだけで日々精一杯だ。
「良ちゃん……よくご両親とか、私との結婚許してくれたよね……」
それだ。それに尽きる。私はシングルマザーの母が育てた、平々凡々……むしろ貧乏に近い生活を送る普通の女だ。かたや良ちゃんみたいなお金持ちは、政略結婚とか絶対にありそうだ。何で、富豪の良ちゃんと私が結婚出来たのか、反対されなかったのかが謎過ぎた。
「え?何で?親なんて、子供の幸せが一番なんだから、俺が愛している人を紹介するって言ったら、凄く喜んでくれたけど」
「……」
ちょっと照れてしまう。愛している人、なんて親に言えるなんて良ちゃんの感覚は少しアメリカ人っぽいのだろうか。
「しかも紹介した相手がキララだよ?反対する訳ないよね。まぁ、万が一俺が結婚しないって言ってたら、誰か紹介された気はするけど。そういう意味では、同じ金持ちでも財閥に生まれてたらやっぱり大変そうだから、良かったよ、普通の家に生まれて」
と、良ちゃんはニコニコしながら何でもないことのように言う。
いや決して普通の家じゃないけどね?
ただ、成る程、お金持ちと言っても色々あるらしい。子供の幸せが一番という 件に、私こそがお金持ちの人達を色眼鏡で見てしまっていたことに反省した。
私が隣にいて無理なく自然体でいられる筈の、フツメンを。
だって私の中身こそが、普通だから。
容姿も、体型も、経済力も、名前ですらも、何もかもが普通だと思っていた、私の理想の相手である良ちゃん。
まさか、私と逆の、見掛けだけがフツメンだったなんて露程にも思わずに、私は彼と結婚した。
私がそのことに気付いたのは、ハワイでの挙式を終えて帰国し、入籍してからだ。
後で思い返せば、羽田からホノルルの直行便が行きも帰りもビジネスクラスからファーストクラスに変更されていたのも、既におかしかったのだ。手続きをしてくれた良ちゃんが「手違いみたいだよ」と言うのに「ラッキーだね!」なんて能天気な返事をしていた自分が恥ずかしい。
良ちゃんと二人で決めた新居の賃貸物件も、「両親の知り合いがオーナーだから安くして貰えるんだって」と言うのに「有難いね!」なんて返して、あんな「立派なマンションのオーナーと知り合い」という関係性を全く深く考えていなかった。
今でも忘れられないのがハワイから帰ってきた時のことだ。ロータリーにはとんでもない高級車が止まっていて、「良ちゃん、凄い車が止まってるよ!お偉いさんとか外国の俳優さんとか乗るのかなぁ?」なんてはしゃいでいたら、「キララも乗ってみたい?」なんて聞かれて。冗談交じりに「うん、座り心地とか気になる~」って笑っていたら、運転手さんが私達を見るなり後部座席のドアを開けて。
唖然とする私に良ちゃんと運転手さんは笑って、「どうぞ」と言ったのだ。
良ちゃんのご両親から、「ハワイでの挙式に来られなかった親族が、キララさんに会いたいって言っているのだけれども、簡単な内輪のお披露目会を企画してもいいかしら?」と言われて「是非」なんて答えた自分。「主役は何もしないで、私達に任せておいてね!」なんて言われてご厚意に甘えた結果、まさかクルーザー船を貸し切って五十人程の来賓を招くなんて考えてもいなかった。
隣に良ちゃんがいなかったら、口から泡を吹いて卒倒した自信がある。用意されていた着替えや、それに合わせて準備された幾つかの装飾品を見て、何かおかしい何かおかしいとは感じたけれども、まさか良ちゃんの実家がここまで資産家だとは思わずにいた。
良ちゃんのお祖父様に初めてお会いした時、「普段はドバイにいるので今度遊びに来てください」とにこやかに言われた時は、本当にどうしようかと思った。遠くに住んでいる、とは聞いていたけど、私の中では日本の中での範疇だった訳で。そもそもドバイって何処!?物価の安いところで、隠居生活でもされているのだろうか?
「……まさか、良ちゃんのご実家がこんなにお金持ちだったなんて……」
帰宅後、ぐったりしながら私がそう恨めしそうに言えば、良ちゃんはさらっと「まぁ、金持っているのは親だからさ、気にしないでいいよ。それより疲れたよね、今日は二日分の料理を家政婦さんが作ってくれているから、キララは少し休んで?」と言われてぎょっとした。
家政婦さん。……家政婦さん!?家事代行じゃなくて!?人生の中で当然家事代行サービスすら使ったことがない私は、軽く白目を剝きそうになった。
しかし、何を勘違いしたのか良ちゃんは「あ、うちのキッチンは使ってないから、安心してね。デリバリーだと思って貰えればいいよ」とのたまう。勝手に台所を使われるのを気にする人はいるかもしれないけれど、まだ新居だということもあって私はそこまで気にならなかった。むしろ気になるのは……と思い冷蔵庫を開けて、良ちゃん曰く「デリバリー」をチェックする。そしてパタンと扉を閉めた。
……うん、一般的なデリバリーとは完成度と質が違いすぎる。山田家では、毎日こんな料理が出されていたのだろうか!?料理が得意だと自負していた私の自信がしおしおと萎びていくのを感じた。
何これ……世界が違いすぎる……私の考える平凡な「普通」から逸脱した状況ばかりが過ぎ去り、私はそれに応えるだけで日々精一杯だ。
「良ちゃん……よくご両親とか、私との結婚許してくれたよね……」
それだ。それに尽きる。私はシングルマザーの母が育てた、平々凡々……むしろ貧乏に近い生活を送る普通の女だ。かたや良ちゃんみたいなお金持ちは、政略結婚とか絶対にありそうだ。何で、富豪の良ちゃんと私が結婚出来たのか、反対されなかったのかが謎過ぎた。
「え?何で?親なんて、子供の幸せが一番なんだから、俺が愛している人を紹介するって言ったら、凄く喜んでくれたけど」
「……」
ちょっと照れてしまう。愛している人、なんて親に言えるなんて良ちゃんの感覚は少しアメリカ人っぽいのだろうか。
「しかも紹介した相手がキララだよ?反対する訳ないよね。まぁ、万が一俺が結婚しないって言ってたら、誰か紹介された気はするけど。そういう意味では、同じ金持ちでも財閥に生まれてたらやっぱり大変そうだから、良かったよ、普通の家に生まれて」
と、良ちゃんはニコニコしながら何でもないことのように言う。
いや決して普通の家じゃないけどね?
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