試し行動の過ぎた恋人に別れを告げました

イセヤ レキ

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「そうかもしれなけど、千砂の代わりなんていないよ」
「うん。私だって、大我は大我だよ。誰も大我の代わりなんて、できない」
「だったら……!」
「五年経てば、今の怒りも心の傷も、多少は消えているかもしれない。けど、今は許せない。五年経っても大我の気持ちが変わらなければ、また会いに来てよ」
「五年……」

大我の瞳が揺らいだ。
悩んでいるんだろうな。
でも、どれだけ悩もうが、私もこれ以上譲歩はできない。

「五年の間に、結婚とか……」
「したいならどうぞ」
「違う。俺じゃなくて、千砂が他に良い相手見つけて、結婚とかしたらどうしようって」
「いたらするよ、普通に」

私が吐き捨てるように言えば、大我は明らかに動揺した。
ただ、大我以上に私の心を揺さぶる人が現れることもないと思うけど。

「大我の私への気持ちって、好きというより単なる執着な気がするんだよね」
「え?」
「ええと、小さい頃からの刷り込みみたいな……一緒にいすぎて、それが当たり前になっているだけというか」
「さすがに俺だって、自分の気持ちくらいわかるよ」

ムキになって答える大我に、ぼんやりと視線を向けた。

気づいているのかな。
だって私は、大我から好きって言われたことがない。

それは、私が大我にそうした言葉を催促をしたことがないからかもしれない。
男が女にそういうことを言うの、ハードルが高いと聞いたこともあるし。
ただ、付き合っている間の三年間、一度もないというのはどうなのだろうか。

催促しないと言われないなんて寂しすぎるから、これからも私は自分から尋ねることはしないだろう。
好きと言われないということは、私は大我にとって、それくらいの相手だったのかもしれない。
私は大我と一緒にいて、好きな気持ちが溢れるたび、口にしていたから。

「その気持ちが本物なら、五年経ってからまた会いに来て」
「……本気、なんだな」
「うん」

私と大我は付き合いが長い。
だから、大我も私が本気だということは百も承知なのだ。

「五年かぁ……長すぎる……」

大我は頭を抱えた。

「五年なんて、勉強と就職であっという間だと思うよ。新しい友達とか作ってさ」

大我を許せないけれども、まだ大我を好きな私は「彼女でも作って」とは言えなかった。

「勉強と就職かあ……」

ふと、大我が遠い目をする。
そしてそこに、決意と覚悟を携えた。

「……わかった。千砂、これから五年間、恋愛も結婚もしないで待ってて」
「ええー、横暴」
「絶対に会いに行く。千砂を傷つけた分、今度はきちんと信用される男になって、戻って来るから」
「なんだか青春みたいだね」
「高校三年生って青春真っ只中じゃないのか?」

大我に突っ込まれて、私たちは笑い合った。
ああ、険悪なムードではなく、笑い合って別れられるなんて、最高だと思った。
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