試し行動の過ぎた恋人に別れを告げました

イセヤ レキ

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カードキーで部屋に入る。
長い廊下の向こうに広がる夜景に、目を奪われた。
こんな部屋に入れるほど、私たちは大人になった。

「千砂」

窓辺に寄った私を、大我が後ろからそっと抱き締める。

「千砂、誕生日おめでとう。迎えに来るの、少し遅れてごめん」
「ううん。ありがとう」

私は窓に映る大人になった大我の顔を見ながら、微笑む。
大我が忙しくしているのは、知っていた。
SNSだってきちんとチェックしているし、最近は海外のお仕事に行っていたはずだ。

でも、ずっと不安だった。
綺麗な周りのモデルの女の人に囲まれて、キラキラした世界で輝く大我は、もう私とは違う世界にいるように見えたから。


「一応確認なんだけど、千砂、今ってフリーだよね?」
「……残念ながら、フリーです……」

勉強は仕事の合間に大我の推し活をしていた私に、当然のことながら恋人は出来なかった。

「残念じゃなくてラッキーだ。まあ、弟から男っ気なしと聞いていたから大丈夫だとは思っていたけど」
「もう、お姉ちゃんにもプライベートはあるんだって文句言ってやらなきゃ」

私がほっぺを膨らませると、大我は破顔する。

「はは、俺が頼み込んだだけだから、優しくしてやって」

弟は昔から大我が大好きだ。
そりゃ、ゲームにサッカーにキャッチボール、いつだって大我が遊び相手になってくれたのだから、弟が懐くのも当然だろう。
私は姉というより母のように口やかましかったから、反抗期には全然話して貰えなかったのだけど。

「俺さ、まだ少し自信ないけど……千砂が自慢できるような男に、少しは近付けたと思うよ」
「うん。お仕事頑張ってるもんね」
「千砂に言われて、あれから色んな人と関わったけど、やっぱり変わらなかったよ。千砂が、千砂だけが好きなんだ。愛してる」
「……っ」

ちゅ、と首筋にキスをされ、身体に回された腕に力が込められた。

「……大我は、五年前も、私のこと、好きだった?」

一度も言われたことのない言葉を掛けられ、私はつい、尋ねてしまう。

「好き、というより、好き以上だった。愛してた。重たすぎて、言葉にできないくらい。千砂が俺の全てだった。誰といても、何をしても、千砂がいないとつまらなかった」
「そっか」

ポロポロポロと、別れる時には出なかった涙が流れる。

「千砂、今度こそ大事にする。千砂を傷つけないようにする。愛情表現を間違えないようにするから、どうか、俺の傍にいて?……一生、一緒にいて」
「……うん」

大我の腕をぎゅっと抱き締め、私は返事をする。
くるり、と身体を向かい合わせにされて、五年半ぶりのキスをした。
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