見習い義肢装具士ルカの決闘(デュエル)

ノバト

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1章 ローヌの決闘

18.VS 熊

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 洞窟の中は急な下り坂になっていた。降りて行くと、足元がしだいに暗くなって見えくなった。更に奥に進むと川の流れる音がした。

「こっちだよー」

 女の子の声が洞窟に奥のほうからひびいた。川の流れる音が次第に鮮明に聞こえてくる。
 目がれても暗すぎてゆっくりとしか進めない。洞窟に川が流れているとすれば、その大きさによっては更に気をつけないと、川に転落してしまう恐れもある。慎重にならざるをえなかった。

「ここだよ」

 暗闇くらやみから女の子が現れ、にっこり笑った。その表情がよく見えた。

 あれ?明るい!

 暗いはずの洞窟の中が少し明るくなっていることに気づいた。洞窟全体をほのかにらす光源こうげんがある。
 見上げると満天の星空があった。

「すごい…」

 なんて美しいのだろう。こんな美しい夜空は見たことがない。
 
「クモさんだよ。」

 なぬ? オレは女の子に振り返った。そしてもう一度空を見つめた。

 目を凝らしてよく見ると、星に見えたのは無数の蜘蛛くもの腹部から放たれる光だった。
 ゾワゾワと背筋が冷たくなった。獰猛どうもう毒蜘蛛どくぐもと聞いている。噂のようには大きくはないが、この量だと逃げられそうにない。

「こわくないよ。ほら。」

 女の子は、手のひらに蜘蛛くもをのせて微笑んでいた。お尻のあたりがホタルのようにに白く光っている。
 大きさはカブトムシぐらい。ハエトリグモのような蜘蛛くもで動きはゆっくりだ。後ずさりしながらオレを見て、恥ずかしいのか怖いのか、前足で顔を隠した。前足を少し下げては、オレをちらりと見て、またすぐに前足で顔を隠すという仕草しぐさを繰り返している。

「かわいいでしょ?」

 かわいいとは思えないが、獰猛どうもうには見えなかった。

「ここに糸が落ちてるの」

 洞窟内の川辺には、無数の糸が集まっていた。川に落ちたものが流されてきたのだろう。川辺に沿ってきらめく白い筋が続いている。
 試しにその数本を水にらしてってみると丈夫な糸になった。暗くてはっきりとは言えないが、丈夫さとなめらかなさわり心地からアメクモの糸に間違いない感じがした。

「はあ…。すごい…」

 オレは再び洞窟の天井を見つめた。
 稀少な糸が豊富にあること以上に、神秘的な風景はオレの心を奪った。
 無数の星々が夜空を飾っている。やはり美しい。

「人間は身勝手な生き物だな。こわがったり、気持ち悪いと思ったり、まったく同じものなのに美しいとも感じるなんて。」

「ね、きれいでしょ」

「うん。きれいだ。とてもとても…。
 キエリちゃんだっけ? 秘密の場所を教えてくれてありがとう」

「うん!」

 オレと女の子は洞窟を出た。相変わらず洞窟の外は霧がかっていたが、昼間だとわかる明るさだった。洞窟の星空は、やはり生き物の神秘が作った風景なのだとあらためて思った。

「キエリちゃん、この洞窟って他にも誰か知ってるの?」

「ううん。おじいちゃんと私だけだよ」

「そっかあ。それじゃあ、他の人にはまだ知らせないほうが良いよ。」

「どうして?」

「この蜘蛛くもは、危険な蜘蛛くもだって怖がられているんだよ。ハンターに見つかったら、みんな殺されちゃうかもしれない。
 お兄ちゃんだって、こわくて、こんなもの持って入っちゃったくらいだから。」
 
 護身用に持って入った手斧を見せると、女の子は真剣な顔でうなずいた。

「わかった。絶対に言わない」

「うん。この蜘蛛くもは、この辺の村やこの国を豊かにする宝になると思うよ。大事に守ってあげるんだ。」

「うん!」

 女の子から満面の笑みがこぼれた。

 ベスネの村に戻ろうと足を進めたとき、獣のうなるような声が聞こえた。
 一瞬、アメクモの大ボス。母親蜘蛛ぐもでも登場したのかと思って、オレは手斧を構えた。
 洞窟を背に、女の子を隠す。

 木の陰から出てきたのは、巨大な蜘蛛くもではなく、四本足のけものだった。

くま!?」

「おじいちゃんが、この辺にくまが出るようになったから来ちゃダメって…。」

 えー! そういう大事なことは早く言って!

「洞窟に隠れて! いや、待って、キエリ。洞窟じゃないどこかに逃げるんだ。」

「お兄ちゃんは?」

「お兄ちゃんは、一応プロだから大丈夫。さあ、すきを見て逃げるんだ!」

 熊はゆっくりと回り込むように左右に移動しながら近づいてきた。女の子が走り出すと、追いかけようとしたが、オレが近づくと警戒して後退した。
 熊はオレに向かってえ、威嚇した。
 キラギラした目、口元からは唾液だえきが白い泡となって吹き出していた。
 
 るしかない。

 今ここで始末しておかないと、別の誰かがおそわれる可能性がある。オレは自分のことより、女の子が引きされることを想像して恐怖した。

 熊は立ち上がったり、少し飛び出してみたり、オレがひるむのを待っているかのようだった。
 オレは、わざと手斧を背中に隠してみた。
 熊はチャンスとばかりに飛びかかってきた。大きな口を開けて突進した。
 オレの脚に付けた装具が金属音を立ててきしむ。熊は左手の小盾にみ付いて、そのままオレを押し倒そうとした。けだものの匂いが熱気とともに顔にせまる。
 オレは、手斧を素早く振り上げ、熊の頭に目掛けて振り下ろした。
 にぶい音がした。

 手斧を離して、オレは素早く後退した。隠し持っていた携帯のナイフを取り出した。
 だが、熊はうつ伏せに倒れたまま二度と動かなかった。

 終わった後で、心臓がどくどくと激しく動いてきた。
 力が抜けてその場に座りたくなったが、脚に装具装着しているのでひざが曲がらない。しかたなく、近くにある木にオレは寄りかかった。

 だらしなく舌を出したまま動かない熊を見ながら、今になって鬼教官の特別訓練も騎士たちとの戦闘訓練も役立っていたのだと実感した。

「あんたがったのか?」

 オレは驚いて身構えた。ナイフを落としてしまい。手斧を構えようとして、手斧は熊の頭部につきささったままだということを思い出す。

「お兄ちゃん!」

 女の子。洞窟を教えてくれたキエリだった。その隣に、白髪はくはつの老人が槍を杖のように地面に突き立てて立っていた。

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