46 / 68
2章 カタハサルの決闘
7.奴隷の館
しおりを挟むダオスタに案内されてオレは立派な洋館の屋敷に入った。屋敷は城の廃材を再利用して建てたそうだ。ダオスタが楽しげに話していた。
「ささ、こちらが私の奴隷の館ですよ。」
正面の玄関を開けるとそこは食堂になっていた。右手のほうにオープンキッチンがあり、料理人が食事を作っていた。左手には、小さなステージとピアノが置いてあった。ステージがあるということは、ショーでも行うのだろうか? 奥のほうには、ダーツやビリヤード台などの遊戯コーナーまであった。
食堂のスペースでは 館の住人らしきものたちが、食事をしたり武器を磨いていたりと、おのおの寛いでいた。
「ダオスタさんおかえり」
「新入りかい?」
「腕どうしたの?大丈夫?」
ダオスタとオレに気づいた何人かは話しかけてきた。
「ただいまです。こちらはルカさんです。あらためて夕方の礼会で紹介します。」
「よろしくー」
このものたちも奴隷なのだろうか?
「さあ、ルカさんのお部屋は2階になります。」
2階は一部吹抜になっていて、2階から1階の食堂を見下ろすことができた。吹抜の周りのスペースには、4人がけのテーブルが6台あり、茶を楽しむものや読書やカードをしている貴族風の男女らがいた。
ダオスタから案内された部屋は、広くはないがテーブルも置かれてある立派な個室だった。当然、シュブドー王都の第一兵団用宿舎には劣るが、これが宿屋ならばかなりの宿泊料を請求されるだろう。出品前の奴隷という立場を考えると十分すぎる部屋に思えた。
「ここでの生活は基本的に自由ですが、朝と夕方の礼会には必ず出席してください。毎日、簡単な事務連絡があります。
食事は一階のキッチンでいつでも自由に召し上がりください。キッチンには常に人がいるので、何か尋ねたいことがあれば彼らにご質問ください。」
ダオスタは説明を終えると部屋と出ていった。施錠なども一切なかった。
オレはなんだか拍子抜けな気持ちになった。奴隷や商品という言葉のイメージから、家畜のように狭い場所に入れられたり、酷い飯でも食わされるのかと思っていたのだが、随分待遇がよい。
屋敷の住人たちも、おそらくオレと同じような奴隷の立場なのだと思えるが、その表情を見ても、悲壮感や苦悩は感じられなかった。なんだがリラックスしているのだ。
屋敷の窓から外を眺めると、サロスの港をにひしめく大小様々な船が見えた。それぞれの船が自分の国の色を主張するように、色とりどりに染められている。船の品評会でも行われているように華やかに見える。
視線を外洋に広げると海の青で一色だった。賑やかな色の港とのコントラストでより青がより美しく見えた。この辺りはサロス島以外の島はないので、遠くを見ても海と空以外には何も見えない。
島の内陸のほうを見ると、朽ちた家々が見えた。
城の近くや港の近くには、様々な形のテントがところ狭しと設置されていた。様々な旗も立っている。外国のバイヤーが滞在するためのテントのようだ。
◇
ガラガラと金属のバケツを転がすような音でオレは目を覚ました。少し横になったら、いつのまにか眠ってしまったらしい。
奇妙な音は、夕方の礼会の合図を示すベルの音だったようだ。
一階に降りてみると、人間が50人以上は集まっていた。
中には、子ども2、3人だが混じっていた。男女比はやや男が多め。意外なことに高齢のものもいた。
奴隷として役に立つのだろうか?
「ああ、ルカさんこちらへ来てください。」
ダオスタに呼ばれて、オレはピアノの側からステージに上がった。
「皆さん、新しいお仲間をご紹介します。
シュブドーの元決闘戦士ルカさんです。」
オレがお辞儀すると、拍手で迎えられた。
「知ってる知ってる」や「ローヌにいたらしい」「怪我して買い手つくかな?」などヒソヒソ声も聞こえた。
「ルカさんは、特クラスで紹介しますので、同じ特クラスの方は仲良くしてください。」
ダオスタが「特クラス」というと、周囲からどよめきが起きた。
特クラスとは、なんだろう?
「さて、明日からついにオークションが始まります。一日目は、通常クラスの皆さんからになります。
浴室や化粧室などが混雑すると思いますので、すみませんが他のクラスの方はご利用を控えてください。
今夜も『自分をより良く見せる講座』を開きますので、最後の追い込みに向けて励んでください。」
な、なんだ、この就職説明会みたいな雰囲気は…。
「私からは以上です。それでは、各サークルの先生方にお譲りします。」
サークル?
ダオスタがステージから降りると、上半身裸で筋肉隆々の男が白い歯を見せながら代って壇上した。
「筋肉サークルのホロセウスです。
筋肉に興味がある方は、私は二階の201号室、砂浜の訓練場近くにいますのでいつでもご相談ください。
毎朝早朝、砂浜で筋肉トレーニングも行っております。明日からオークション初日ですが、ぎりぎりまで筋肉を鍛えて美しい身体を維持しましょう。女性向けのメニューもあります。お気軽にご相談ください。
あ、ルカさんもあと2日しかありませんが、脚の筋肉だけてもいかがですか?」
ステージの側に立っていたオレに筋肉男はウインクした。どう答えればいいのかわからず、オレは「お、おう」と答えた。
ホロセウスが降りると、交代で気難しそうな顔をした男がステージに上がっていった。
「あー、リザストだ。歴史哲学を教えている。今は、南方諸国の歴史講座中だ。
魔術師の方は、よかったらどうぞ。講義は別館の講義室3で行っている。
私はだいたい別館にいるので、関心のあるかたは質問してほしい。以上だ。」
サークルというものは、他にも美容や、決闘訓練、料理教室、武器マニア、や家事手伝いなどもあった。
どれも、奴隷としての自分の商品価値を高める訓練サークルだった。
参加は自由で、無料で講習を受けることができた。
集まった奴隷たちは、サークルの案内を笑顔か真剣な表情で聞いていた。
オレは、唖然とされられることばかりだった。
ダオスタのコール商人というもののイメージも変わった。こいつ、結構いいやつなんじゃないか?
「フフフ。びっくりしましたか?」
オレの表情に気づいたのか、ダオスタが笑った。
「私は、安く買い、高く売ります。そのための投資なら惜しみません。
奴隷の皆さんも必死に学びます。誰に買ってもらうかによって、自分の人生が大きく変わりますからね。
できるだけ自分をよく見せようと努力されるのです。
おかげで、私は儲けさせてもらっております。フフフフフ。」
「オレも何かサークルにはいったのほうがいいのか?」
「どうぞご自由に。」
ダオスタは、そういうと食堂の中を歩いていった。サークル案内は終わり、食堂には人が集まっていた。その者たちと談笑しはじめた。
離れていくダオスタとは逆に、オレのほうに近づいてくる者たちがいた。
「ルカさん、ようこそ奴隷の館へ。サロスへ。」
イケメンの若い男だった。微笑みながら、手を差し出して握手を求めた。
「よろしく。
君と同じ特クラスのレトワールです。」
握手に応じると、イケメンはそう名乗った。
レトワールの後ろには、5人の男女がいた。
0
あなたにおすすめの小説
【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~
ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。
王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。
15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。
国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。
これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる