異世界に転生しましたが、なんですか? 性善説はどうしたのですか?

一ノ塾 諒

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始まりは手違いでした

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 異世界に転生しました。のですが聞いてください。俺はこの世界嫌いです。

 なんですか、どうしてお前らはそうやって……、俺はメンタルがやられてしまいました。こんな陰気な世界に来たいとは思わなかったのに……。

 あの女神のせいだ。おかしいと思ったんだ。だって俺が選ばれた理由がおかしかったのだから。

「いいですか?あなたは死にました」

 女神は言う。その人物が女神であることは、その雰囲気ですぐに分かった。まるで樹齢100年の木の前にいるような、近くにいることで何か力が出ているような、マイナスイオンを感じるような、そんな雰囲気だった。

「私は女神アイラ」

 ゆっくりと、一つ一つの言葉がはっきりと聞こえる。丁寧に、かつ親切に教えてくれるその言葉は、俺が慌てないようにという意図がすぐに分かった。

「わたるさん、あなたには次の世界へ転生していただきます」

 転生? あぁ。と心の中で思うが、これは最近、流行している転生物語りで、女神に出会って、次の世界でうまくやるという流れなのだろう。知っている。
 でもちょっと待ってほしい。俺は死んだのか? 死んだ記憶がない。いつもの通り、ツブヤイターという、自分が思ったことをつぶやくネットのサイトを更新して、親友とご飯を食べて、そしてベッドで寝転がって動画を見ていたはずだった。

「ちょっと待ってください。俺は死んだのですか?」
「はい。申し訳ないですが死んでしまったのは事実です」
「どうしてですか?」
「え?」
「どうしてですか?」
「それ、聞く必要がありますか?」
「当たり前でしょう。死んだのならその理由は気になります。寝ている間に包丁で刺されたとか、心臓が止まったとか、理由、死因が気になります。俺は家で寝ていただけだと思うのですが、どこに死ぬような要素があるのですか?」
「それは……、その……」

 何かを言いかけた女神は合わせていた俺との視線を右上に向ける。鼻から息を吸い込み、動揺していないように見せていた。それが何かを隠したのは言うまでもない。

「どうしてすぐに言ってくれないのですか?」

 俺は気になったことにはすぐに言及する性格だ。どうしても気になったから聞きたかった。なぜ? どうして? そうやって言えないようなことを話題にしたのだ。死にましたといわれればどうして? と聞きたくなるのは普通のことであるはずだ。

 女神は今、吹くことができない口笛を吹いている。フー、フーと吹く彼女は、なにを言うでもなく、ただこっちがスルーすることを望んでいた。

「それでごまかせると思っているのですか?」
「どうして言うことができないんですか?」

 気になっているのですぐに聞いてしまった。それが俺の悪い癖だ。なんでも聞いてしまう。ただ最近はあまり外へ出ていなかったから、この性格を痛感することが少なかったのだ。

「なんで黙っているのですか?」
「言えない何かがあるのですか?」
「まさか、手違いとかじゃないですよね?」

 女神はもう下を向いてしまっている。濃いネイビー色の長い前髪が、顔にかかって表情は伺えないが、何か言ったように感じた。

「大きな声で言えないことなんですか?」
「……」

 下を向いていて、本当に何を言っているのかが分からなかった。ただ「そ」と「さ」の音が聞こえた。そこでアクセントを強めているのだろうが、声が小さすぎて何のことを言っているのか、見当もつかなかった。

「そ?さ?声が小さすぎて、何を言っているのかが分からなかったのですが?」
「そのまさかなんです!!!!」

 アイラは急に大きな声を出した。それは間違いなく逆切れだった。のどを触る様子を見て、久しぶりに大きな声を出したのだろう。調子が出なかったようで今は調声のために「アー」と声を出している。
 俺はその声にびっくりして、目をぱちくりと数回まばたきをする。

「そのまさかなんです!!!!!!」
「聞こえているよ。それでどうして手違いが起きたのですか?」
「あれ?怒らないのですか?」
「怒ったからと言って、死ななかったことになるのですか?」
「ならないです」
「なら怒っても仕方がないでしょう」
「なーんだ。なら最初から言ってくださいよー」
「それはアイラさんが、伝わる様に言ってくれないからじゃないですか」

 アイラは先ほどまでの動揺をなかったことにするようにフゥと息を吐く。よく見れば、顔は美人であるはずだが、昨今の現代の様子を見て見れば、三次元に勝てないレベルの二次元といったほどのレベルだと思う。

「わたるさん、あなた友達少ないでしょう?」
「今、それは関係がないんじゃないですか?」

 失礼なことを考えているのがばれたのか。それとも俺の行動か。実際に友達が少ないほうではある。が、それは本当に今、関係ない。本当に関係ないのだ。俺は死んだことよりも、そのことに少し腹が立つ。

「それで、どういった経緯で、手違いが起こったのですか?」
「はい、説明しますね。佐藤わたる、20歳の大学生。あなたは嫌われてはいないが、好かれてもいない、いわば興味のない人であるという周りの認識ですね。身長170センチ、体重は65キロ、短髪、黒髪、彼女なし。恋愛はここ最近していませんね。あなたとは違って本来は、その下の階に住む同じ大学の、人気者の青年、藤井あきらを異世界に送るつもりでした。守秘義務でなぜ彼が選ばれたのかは言えませんが、たまたま下の階の彼が死ぬことになりまして……」
「ちょっと待て、あきらは死ぬ予定だったのか?」

 ここ最近で一番驚いた。あきらは同じ大学で一つ下の階に住む、18歳の男の子だ。大学の一回生でありながら、サークルを作り、コミュニティーづくりに一生懸命だったやつだ。常に友達やそれを狙った女たちに囲われていて、俺からすれば済む世界が違う人物だった。 
昔は仲が良かった。ある時を境に全く連絡を取らなくなってしまったが。

「はい、我々女神の仕事は、魂を違う世界へ送ることなのです。今回は……が座標を間違えたのですよ。一階層分。だからあなたが送られてきたというわけですね」

誤魔化したところはきっと「アイラ」という言葉が入るのだろう。
とことん自分のミスを認めたくないやつだな、と思うが、今はそれよりもあきらが心配だった。彼を心配するのは俺だけではない。彼を知る人物なら老若男女問わず、心配するだろう。そしてきっと死んだあと、どうなるのかが分かるのは俺だけだろうが、それでもどこかで彼が生きているのならば俺はうれしかった。誰にも知られず、一人で旅立ってしまうのは誰だってさみしすぎる。俺とはちがって。

「あきらは転生しないのですか?」
「いえ、彼は別の女神が担当して、転生するはずですよ。今回は例外なのです。手違いで転生させないのはさすがに彼がかわいそうなので、今はあなたと同じように次の転生先を決めているはずですよ。それであなたもついでに転生するのですが、」
「なるほど、敬意はわかりました。転生先はどのようなところなのですか?」
「それはですね」

 そういうと女神アイラはパチンッ!! と指を鳴らす。すると、ドンッ!! という音とともに、大きなガチャガチャが現れた。自分よりも大きなガチャガチャはその存在感だけで元居た現実にはないものであると分かった。

「運命は自分で切り開くもの、我々女神ができることはチャンスをつかむ手助けだけ。自分の道は自分でつかみなさい。これはガチャガチャGI。あなたが生きやすい異世界へ導きます。さぁ、あなたの手で自らの世界を選ぶのです」
 
決まったセリフのように、すらすらとアイラは言葉を吐いた。
 生きやすい世界。なんていい響きだろうか。俺は現実に生きづらさを感じていたところだ。それもこれもあんなことが合ったばっかりに……。
 まぁ、いい。俺はもうこの世に未練はない。だから俺はすぐにガチャガチャに手をかけた。持ち手は現実のものと変わらない。大きな持ち手にもかかわらず、必要な力も現実と変わらなかった。物理や質量を感じさせないその光景に少しファンタジーを感じた。
 ガチャガチャは大きな音と光を放つ。ギラギラとした嫌な光ではなく、ぽかぽかとした穏やかな後光のような光だった。そして音も耳なじみがよく、ガチャ、ガチャと回る音がばねの軋みであったが、まるで小鳥の囀りのように心を落ち着ける。
 生まれ変わり。その瞬間である。だが俺はそこに興奮はなく。ただ泣いていた。新たな世界に出会うこと、その時感動するのは赤ちゃんと同じであろう。
 そして出てきたカプセルが勝手に開く。まるでカプセルが空きたがっているように。中には一枚の紙が入っていた。それを女神アイラが不思議な力で手元に持ってくる。ふわーと浮いた紙は、俺にその内容を見せなかった。

「えーっと。あなたの行き先は……、どれどれ、あー、」
 
驚きと哀れみ、ざまぁみろともかわいそうとも取れる表情を浮かべるアイラに、俺はその結果が悪かったことを察するしかない。

「悪かったのですか?」
「わたるさん、これから先、いろいろなことがあると思います」
「え?急にまじめな顔をしてどうしたのですか?」
「女神はあなたが何不自由なく生きていけるように、願っております」
「話を聞いてください。悪かったのですか?」
「あなたが次に転生する国はイカロス、あなたに幸があらんことを」
「ちょっとまってくださ……」

 そう言い切る前にアイラは腕を振り上げた。すると体が吹き飛ぶ感覚がして、気が付けば目を開けることができないでいた。

「大丈夫です、チートはないけど、何とかなると思います、手持ちの本をしっかりと読んでくださいね。いってらっしゃい」
 
 遠くのほうでそれだけが聞こえていた。猛スピードで体が降られ、右に左に揺られ、そしてついにはもう意識がなくなるまで体が回転したと思うと、急に落下した。

「うわーーーーーー」
 
もう俺は、叫ぶしかなかった。叫んでいたらウッッ!! と気持ちが悪くなった気がして意識がなくなったと思う。そこからは記憶がなかったからだ。
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