異世界に転生しましたが、なんですか? 性善説はどうしたのですか?

一ノ塾 諒

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やはりこの世界は嫌いです

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 気が付くと、チュートリアルと書かれた本を握っていた。見渡す限りの草原で目覚めた俺は、今その本を読んでいるのである。それしか最初に思いつくことがなかったからだ。

一、この世界は魔法が存在します。皆が自己流の魔法です。そこに流派や系統はありません。個人が魔法を好きに使うことができます。そこに制約はないのです。人間基準で、できることはなんだってできるのです。しかし、世界を壊すような力を一人が持つことはできません。あくまで世界は調和と協力で出来ているのです。

二、あなたも魔法を使うことができます。あなたの好きな魔法を思い描いてください。そして修行を積むのです。それがあなたの力になります。

三、チートはありません。あなたの力の限界を私は知りません。あなたが上手く生きていくことを応援しています。ただ言語は何とかなるようにしておきます。日常生活で困ることはないでしょう。それとステータスと唱えるとステータスが見れるようにしておきました。ぜひ試してみてください。

四、魔物がいます。魔物は強いです。人類は常に彼らと戦っています。

五、ほかはとくに現実と変わりません。死ぬときは死にます。復活はありません。

 それだけだった。このチュートリアルを要約するならば、自由気ままにこの世界を探検していいということだが、悪くいえば放置されたようなものだ。なんのおまけもない。少しばかりすごい魔法が使えるとか、魔力がすごくあるとかであればよかったのだが、そんなものはつけてくれないシビアな世界らしかった。

 そしてステータスと唱えた。すると、自分のステータスが心の中に流れ込んでくる。
レベル1 HP:50 MP:50 体力:1 知力:1 筋力:1 状態異常 なし
 という数字がはっきりと自分の中に流れ込んでいた。それが今のステータスが自分の実力であることはすぐに分かった。
 基本はHPとMPを参考にすればよいのだろう。そして、体力と知力と筋力を上げることができれば基礎ステータスである、HPとMPが上がる仕組みのようだ。体力を上げれば耐えられる攻撃が多くなり、知力が上がれば魔法ダメージとMPがあがる。筋力が上がれば足が速くなるなどの肉体的な強化ができるようだ。

ぺらぺらと本のページをめくると後半のページにそのことが書いてあったが、なんとなくわかるのでもう読まなくてもよいだろう。呼んでいた本を閉じて、周りをきょろきょろと見回してみた。俺がいる場所からは、よく見れば遠くに国らしき場所がある。そこはこのあたりでは栄えているようで、その場所へ向かう馬車を何台か見ることができた。

「あっちへ向かえばよさそうだ。あの国がイカロスだろうな」
 立ち上がり、おしりについた泥を払った。そこで自分の服が今までと違うことに気が付いた。これも特典だろうか。Tシャツに短パンだった格好が、ローブになっていた。腰に川のベルトが巻いてある。簡素な作りだったが、見た目のわりに丈夫そうなので破れる心配はなさそうだった。
 だが足が問題であった。革靴である。俺はあまり革靴になれていなかった。普段はスニーカーを履いているので、そのせいである。そして下は土でいちいち足が埋まるので余計に歩き辛かった。
 それでも何とか道まで歩こうと悪戦苦闘しながら進んでいった。

 とりあえず歩きやすそうな道になっているところまで歩いた。少し上り坂だったので少々息を切らしたが、そこでこの革靴にも慣れてきた。
 轍ができておりどうやらこの道を馬車が何度も通ったらしい。何本もの線が重なって太い溝を作っていた。
 ふと気が付くと、がたがたと大きな音を立てながら、大きな荷物を運ぶ馬車がこちらに近づいてくるのが分かった。二頭の馬を連れているので、よほどの物を運んでいることはすぐに分かった。
 どんな人物が乗っているのかと目を凝らすと、そこには大きな手綱を握る、ちいさな女の子がいた。なんだ、女の子かと思い、その女の子が通り過ぎるのを待っていた。
 すると目の前で女の子は手綱をひき、馬車を止めた。

「お兄さん、どうしてそこに立っているの?」
「良ければ乗せてもらおうと思って」

 俺はその少女がイカロスという国へ行くというのなら、乗せてもらおうと思った。この靴でこの草原を歩き続けるのはあまりにも辛い。

「へー、私の馬車にのりたいなんて変わっているわね。なら私の目を見て」
「もう見ているが?」

 俺は人の目を見て話す習慣ができている。だから女神にもこの少女にも臆せず、緊張せず話すことができるのだ。

「マジック・メロメロ」

 心臓が高鳴る。

なんだ? この女の子の言うことをすべて聞かなければいけない気がする。
なんだ? 女の子が指を下にすると俺は地面に顔をつけないといけない気がした。
俺は何をされた? そのまま泥を食べなければいけない気がする。

 そこで、その少女は親指を立てて「乗りな」と合図をする。俺は何も抵抗ができず、顔に着いた泥を拭うこともできずに、少女の隣に座った。
その女の子は手綱を強く握り、一度大きく振った。馬は一度大きく嘶き、そして泥の道を進み始めた。

「お兄さん、聞こえているだろう」
 その少女がつぶやく。
「まさかとは思うけど、本当にかかるとは、警戒して損したじゃんか」
 少女は話し続ける。
「私の魅了、なかなか取れないでしょ、私の仕事柄、この魔法が必要なんだ。マジック・メロメロは私の魔法でさ、目を見た人を魅了するのよ。普通は抵抗するものだけど、あなたはすごいお人よしなのね」
 魔法をかけられた感覚は本当に何もできなかった。体が動かない、金縛りというよりも、指示待ち人間のように、何かを言われないと何もできない感覚だった。

「そんなお人よしのお兄さんにこの世界のことを紹介するよ、そろそろ話相手が欲しかったのさ」
 横にいる少女は、前を見ながら話し続ける。

「私の名前はクリス、奴隷商しているわ。これからイカロスへ行くのよ。あなたもついでに売っちゃおうかしら。今回は儲けがでかいわね」
 クリスは豪快に笑った。

「俺はわたる」と言おうとしたが、体は言うことは効かない。目線を動かすことができたるので、隠れていた大きな荷物を見ると、どうやら檻が数個あるようだ。誰が入っているかは分からない。きっとあれは商品なのだろうと思い視線を戻す。馬車に乗った俺はクリスの横で揺られていた。
 
「ねぇ、あなたはさ、この世界をどう思う?」
 俺は当然何もすることはできない。
ただじっと、体が動くように祈っていた。異常な状態はまだまだ続く。異常? そう思いステータスと念じてみる。
すると状態異常の欄に「魅了」の文字があった。
なるほど、これは魅了なのか、さっきからどうにも体が動かないと思ったらその魔法を使えたのか。「マジック・メロメロ」は魅了状態にするということだ。それにあらがう方法を俺は持たないでいた。
しかし、彼女はまだこの世界に来たばかりの俺に、世界のことなど聞くとは、本当に奴隷商なのか? 人を見る目がなさすげて笑いそうになるが、状態異常「魅了」のせいか、口を動かすことすらできなかった。

「私はね、この世界が嫌いなの。せっかくの魔法なのに人間が使うことができる魔法は、状態異常にする魔法と身体能力などのステータスを低下させる魔法だけ……。本当、人間って何なのかしら? 他人を蹴落とさないと生きていけないのよね」
なるほど。炎魔法や氷魔法みたいなかっこいい魔法はないわけか。となると攻撃は?どうやって魔物と戦っているのだろうか?
「いまだに武器に頼らなければいけないのも不便よね。ほかの種族は魔弾とかを撃つことができるらしいけどね。結局人間が頼ることができるのは命を奪うための物、剣や槍みたいな物理攻撃よ」

 だからローブを着ているのにもかかわらず、帯刀しているわけか。腰の短剣はそのためにデバフの後のとどめ及びダメージ用か。それなのに魔法を使うからローブを着ていなければならないというわけか。

「この世界はね、終わっているのよ。ただでさえ魔物が人間を滅ぼそうとしたのに、人が結束することを諦めたの。金、自己防衛、名誉、誇り、地位。自分の力で上に上がるため、他人を蹴落として地位を奪うため、私たち人間はデバフと状態異常しかできないようになってしまったの。笑えるわよね。追い込まれれば人間ってここまでひどくなるのよ」

 なるほど。それで生き残った人間は細々と暮らしながら、デバフを駆使して、他者を蹴落として生活しているわけだ。だから奴隷商なんて仕事もこうやって公に言えるわけだ。誰もこれを止めることはできないし、誰も、文句を言わないのだ。それを取り締まる警察のようなものもいないし、法律も機能していないのかもしれない。ここはあくまで個人が、個人のために生きる世界だ。

 駄目だ。俺はこの世界のことが好きになれない。むしろ嫌いだ。大嫌いだ。もうその気持ちが止められない。何が異世界転生だ。普通、異世界というと美女がいて、魔法があってウハウハできるものではなかったのだろうか? 俺こと、わたるは生まれる世界を間違えた。また間違えた。絶対にそうだ。何が得意分野だ。全くの専門外じゃないか。たまったもんじゃない。女神め、転生といって変な世界にぶち込んだわけだ。

「それと……、言い忘れていたけど私の魅了は『魅了中の相手の考えていることが分かる』の。ごめんなさいね。異世界出身のわたるさん」

 より嫌いになった。
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